日本の「定食文化」が元気なら日本経済も大丈夫 ー 今 柊二「ニッポン定食散歩」(竹書房)

ミシュランガイドの日本版に近くの店が掲載されたなどなど、TV番組や雑誌でもグルメ系の番組や特集の人気は衰えるところをしらないのだが、この美食ブームは、景気の良し悪しに左右される、とても移り気な感じがしている。
これに対し、限られた時間と限られた予算で、できるだけ、大盛りで美味なものを探す「定食愛」は、いつの時代でも色褪せない不動のものであろう。
そんな「定食愛」に突き動かされるように、日本全国の「定食」を食べ歩き、秀逸な定食をレビューしてくれる今柊二さんによる「定食ニッポン」の続編ともいえるのが本書である。

【構成は】

はじめに「定食・散歩でおいしさ倍増」
第1章 山手線一周 定食ぶらぶら散歩
第2章 何度でも通いたい!ワクワク洋食巡り
第3章 みんな大好き生姜焼き定食
第4章 安定の美味しさ チェーン系定食屋&中華屋
第5章 北から南へ定食漫遊 全国食べ歩き
第6章 ステキな一杯を求めて 立ちそば巡礼は続くよ
おわりに「定食と音楽」

となっていて、まずは「定食ニッポン」が刊行されてから10周年を記念しての山手線一周の定食旅に始まり、「洋食ウキウキ」(中公新書ラクレ)の未収録店、定食メニューの”大定番”生姜焼き定食の名店、安価で安定した味の庶民の味方・チェーン店、北は札幌から長崎までの全国の定食の名店が紹介される、という、まあ定番の定食行脚が展開されている。

 

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バンコクの「今昔」をベテランの旅行記で味わってみる ー 下川裕治「週末バンコクでちょっと脱力」

(この記事は2018.12.09にリライトしました)

旅行記あるいは滞在記というのは、時間に大きく影響されるところがあって、特に政変の多い国であると書かれていることが全くあてはまらなくなり、何かの昔話を読んでいるようなことになる恐れがある。この旅行記も例外ではなくて、本書では赤シャツ派と黄シャツ派の対立の時代なのだが、それが行き過ぎて軍によるクーデターを招くなど、これが書かれた頃にはちょっと思いもつかなかったことだと思う。ひょっとすると本書に書かれた場所もすでに荒れているのかもしれない、とは思う。

さりはさりとて、下川風の「タイ」「バンコク」である。風情はゆったりとしていて、喧噪と仕事、浮き世のあれこれに追いまくられている身には、ひとときの涼風、いや小春日和の日差しのような感すらする。

【構成は】

第一章 日本からバンコクへー北回帰線通過を飛行機の座席で祝う
第二章 空港から市内へータイ式倫理観が漂うタクシーは正しくぼる
第三章 ホテルー中級者向きホテルバンコクにようこそ
第四章 運河と寺院ーバンコク最後の運河タクシーじいさん。そして九テラめぐり・・・
第五章 道端夕食ー歩道のフードコートで孤独のグルメ
第六章 酒場ーいつも土の匂いのタイフォーク。レインツリーの二十年
第七章 早朝ー朝飯前のバンコク式マラソン。「ゆるゆる」の一時間三十七分
第八章 最後のテーブルーアジアティックから川沿い食堂。最後は川風に吹かれたい
第九章 バンコク在住者が提案する週末バンコク 

となっていて、氏の他の著作のような「沈没」系ではない。日本、成田からバンコクを訪れ、数日間を過ごし、そして帰国、というパッケージツアーというわけではないけれど、行き帰りの航空便は決まっているが、その間はフリーのツアー、といった感じである。


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アジアのゆったり鉄道旅 ー 下川裕治「不思議列車がアジアを走る」

(この記事は2018.12.09にリライトしました)

おなじみ下川裕治氏の旅本、ひさびさに「鉄道」である。

LCCなど飛行機での旅の話に比べ鉄道の場合は、同じ「移動」であっても時間がゆっくりと流れている気がするし、バスと違って、その移動環境が過酷でないのが文章ゆったり、のびのびとした感覚を与えてくれる。 

氏の旅本のほわんとした感覚は、どちらかというと、タイなどのアジア諸国の「滞在記」でとりわけ顕著なのだが、どうかすると一カ所に沈没してしまう風情が多く、「旅」という移動による視点の変化を旅行記に求める人には、こうした「鉄道の旅」の話の方が口にあうのかもしれない。

【構成は】

第一章 インドネシア ジャカルタ環状線とボゴール線
第二章 中国南疆鉄道 ウルムチからカシュガルへ
第三章 ミャンマー ヤンゴン環状線
第四章 台湾 内湾線と西部幹線旧山線
第五章 タイ国際列車 バンコクからタナレーンへ
第六章 韓国 慶全線と廃線の街 群山
第七章 サハリン ユジノサハリンスクからノグリキへ

となっていて、アジアと言っても、過酷そうな西アジア、南アジアではなく、北東アジアから東南アジアにかけての鉄道旅、となっているのが安心できるところではある。

【注目ポイント】

ただ、安心できるとはいっても、全て「各駅停車」と決めているようなので、中国の高速鉄道や韓国のKTXといった現代的な車両には及びもつかない列車ばかりで、インドネシアのように物売りが乗り込んでくる列車であったりミャンマーの木造でさとうきびが一杯積まれている列車(けして貨車というわけではない)であったりして、もちろん亜熱帯であっても冷房などはなく、アジア特有の「街の雑踏」をそのまま持ち込んだ状態なのである。

そして、そういった混沌の話を読むのが、アームチェア・トラベラーの醍醐味と言ってよく、韓国の列車のように保育園児がたくさん乗り込んできたり、運転席にのせてもらえたりするといったレベルでは少し物足りなく感じるのも事実である。

【レビュアーから一言】

とりたてての美味や、とりたてての冒険談が載っているわけではないが、目的のない旅や子供や家族というしがらみのない旅に出るのがなかなか難しいアームチェア・トラベラーがひととき日常から離れてぼんやりと時をうっちゃるのに良い旅本である。

業界の裏事情的なネタも楽しい「絵画ビジネス」殺人事件をどうぞ ー 一色さゆり「神の値段」(宝島社文庫)

芸術大学出身で、学芸員もしている筆者による「絵画ビジネス」の絡んだミステリーである。一般の人にはとんと縁遠い「絵画ビジネス」の世界を舞台にしたミステリーはあまり見かけたことがないので、絵画業界の裏事情的なところを垣間見せてくれるだけで、設定としては十分魅力的な仕立てである。
 

【構成は】

 
章立てにはなっていないが
 
・主人公がインク・アートの画家・川田無名の専属ギャラリーのブラックで泣きそうな環境にめげずに働くところ
・画廊の主人の永井唯子の死亡と旦那・佐伯が彼女の事業の承継
・無名の未知の大作「1959年」の香港オークションでの入札
・唯子のギャラリーの店仕舞と唯子を殺害した犯人の判明
 
という4つのパーツに分かれている。
主人公は田中佐和子という女性で、美大出身者。就活中に、川田無名の専属ギャラリーの経営者・永井唯子にスカウトされ、唯子のギャラリーの駆け出しから中堅へ移行中の画廊スタッフである。彼女の父親は京都の美術館の館長で、彼女が学芸員にならずにギャラリーに勤務したことを残念に思っている、という設定であるのだが、特段、佐和子に不思議な才能が隠されているわけでもなく、ミステリーのメイン・キャストとしては平凡である。
ただ、本書が異色であるのは、学芸員出身の著者の知識や経験が存分に散りばめられているところで、画家の専属ギャラリーを中心とした、一般には知られていない「絵画ビジネス」を内側から描いている上に、その内容もかなり微細な部分にも及んでいるところは、門外漢には目新しい聞いたこともない知識に目がくらんでくる。
どちらかというと「役柄」より「舞台」で読ませるミステリーといっていいかな。
 
 

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楓の強さと健気さにあらためて感心いたしました ー 成田名璃子「東京すみっこごはんー親子丼に愛を込めて」(光文社文庫)

駅前の再開発騒動で、常連メンバーに中に亀裂が入りそうであった、第二巻の危機を乗り越えてどうにか順調な運営が保たれ始めた「すみっこごはん」。
今巻もいつもと変わらない「人情噺」が展開されていくのだが、奈央と一斗の結婚がそろそろ決着か、というところと、楓が再びいじめにあっているというのが、今巻の心配の種である。
 

【収録は】

 
「念のための酢豚」
「マイ・ファースト鱚」
「明日のためのおにぎり」
「親子丼に愛を込めて」
 
の四編で、「明日のためのおにぎり」のところで、ボクシングジム経営者で人相の悪い「柿本」の口から、再開発は頓挫しそうだ、ということが明らかにされるので、先にネタバレしておく。
 
 
 

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人生設計に「マーケティング理論」を使ってみる ー 永井孝尚「「あなた」という商品を高く売る方法」(NHK出版新書)

「100円のコーラを1000円で売るには」シリーズや「それ、どうやったら売れるんですか」など、マーケティング理論をわかりやすく説明する概説書を提供してくれていた筆者なのだが、今回は、その「マーケティング理論」を自己啓発、あるいは自分のブランディングに応用してみたらどうなるか、という視点でとらえてみたのが本書『永井孝尚「「あなた」という商品を高く売る方法 キャリア戦略をマーケティングから考える」(NHK出版新書)』である。
 

【構成は】

 
はじめにーこれからのビジネスパーソンに必要なのは、「自分という商品づくり」だ
第1章 「競争しない」ための戦略
 ー競争戦略論
第2章 AIに仕事を奪われない方法
 ーイノベーション
第3章 「戦わずして勝つ」のが真の戦略
 ーバリュー・プロポジション
第4章 「あなたの強み」を育てる
 ー強みの構造とセレンディピティ
第5章 リスクを下げて何度も挑戦する
 ーリアルオプション理論
第6章 没頭すれば一流になれる
 ー内発的動機付けとフロー理論
第7章 あなたの物語が奇跡を生み出す
 ーセンスメイキング理論
第8章 失敗があなたの武器になる
 ー仮設検証とアダプト思考
第9章 コンフォートゾーンから脱出せよ
 ーダイナミックケイパビリティ
第10章 「自分のため」から「社会のため」へ
 ーソーシャル・ネットワーク理論と利他的動機づけ
 
となっていて、筆者の「あとがき」によれば
 
本書で、個人の商品づくりについて書いた理由は、二つあります。
一つ目の理由は、自分の将来について悩む人が世の中にとても多いのに、戦略を持っている人が少ないことです。本書で書いたように、マーケティング戦略の考え方を応用すれば、自分という商品づくりの戦略を立てることができます。
 
となっていて、ビジネスパーソンが自らの将来設計を考える際に、「生きがい論」とか「モチベーション」の観点ばかりが強調されることへの警鐘でもあるようだ。
 
そして、筆者の他の著作で、商品開発や製品のブランディング戦略を練るツールとして解説されていた「マーケティング理論」が、ビジネススタイルやライフスタイルを考える際に応用してみると、結構、斬新で、「ほぉ」という感じが生まれてくるのは間違いない。
 

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85歳まで「現役」を目指すビジネス人生の設計ノウハウ ー 大杉 潤「定年後不安 人生100年時代の生き方」(角川新書)

表題だけみると、定年を控えての様々な「不安」についての処方箋を提示しましょう、というイメージなのだが、実は、60歳の定年の時期に限定せず、人生100年時代を見据えて、「トリプル・サイクル」のビジネス人生の設計を考えてみよう、というのが本書の主意。

【構成は】

はじめに〜人生100年時代で深刻化する「定年後の3大不安」〜
第1章 人生100年時代の「トリプル・キャリア」とは
 〜3毛作の人生を目指すキャリアプラン
第2章 100年人生の「時間術」
 〜人生を俯瞰して「人生設計図」を作る
第3章 100年人生の「コミュニケーション術」
 〜「孤独」とは無縁の仲間づくりの秘訣
第4章 100年人生の「情報リテラシー」
 〜インプットとアウトプットのバランスが大切
第5章 100年人生の「健康法」
 〜情報過剰の時代にいかに性格な情報を取るか
おわりに〜不安なき「生涯現役」という生き方〜
となっていて、本書によれば、45歳、55歳、65歳、75歳のそれぞれの時期に、ビジネス生活の節目があるとのことで、それぞれの時期に応じた時間管理や情報管理、人脈などについてのアドバイスが語られている。
もっとも、「定年後」という表題らしく、記述の中心は55歳、65歳の転機が中心であるので、60歳定年近辺の方々向けであることは間違いない。

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”すみっこごはん”の存続の危機を跳ね返せ ー 成田名璃子「東京すみっこごはんー雷親父とオムライス」(光文社文庫)

都会の片隅にある”共同台所”の「すみっこごはん」を舞台にした現代版人情噺の第二弾。
早逝した母から娘に託された「レシピノート」を伝えるために守られてきたことが、前作で明らかになった「すみっこごはん」なのだが、近くの駅の再開発が始まり、「すみっこごはん」の敷地もその範囲内に含まれることになり、存続の危機に立たされるのが今巻である。
 

【収録は】

 
「本物の唐揚げみたいに」
「失われた筑前煮を求めて」
「雷親父とオムライス」
「ミートローフへの招待状」
 
となっていて、楓、奈央、柿本、丸山といったレギュラーメンバーのキャラも落ち着いてきたところで、単話ごとに新たな参加者を迎えながらの人情噺が展開されていく。
 

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楽しい人生をおくるための、不要な情報を「切り捨てる」ノウハウ ー 成毛 眞「情報の「捨て方」 知的生産、私の方法」(角川新書)

本書によれば
 
今、世界中のデータセンターの総容量は、ゼタバイト級
ゼタとは、ギガの1000倍のテラのさらに1000倍のペタのさらに1000倍のエクサのさらに1000倍(P18)
 
であるうえに
 
この10年間で起こったのは、情報を記載した媒体の総ページ数の激増です、ほんyあ雑誌は相変わらず存在する一方で、ネット上にはおびただしい数のホーム”ページ”が存在しています、
 
ということで、我々の周りを取り巻く情報の量はとてつもなく増加しているにもかかわらず、それを処理する”ヒト”のほうの能力は昔とそう代わりはない状況。
そんな時によく目にするのは、いかにして情報を効率的に処理するか、ということのノウハウ本なんであるが、どうかすると、情報に振り回される方法の伝授みたいな本がないわけではない。
本書は、情報との付き合い方を、その「捨て方」「遮断方法」も含めてアドバイスしてくれる点で、類書とはちょっと違うところを見せている。
 
 

【構成は】

 
序章 「情報とは一体何か」
 ーバカを相手にしないための手段として
1章 情報を入手する
 ー24時間浴びる、しかしルートは絞る
2章 情報を「見極める」
 ー「どうせうそだよね」という思考習慣
3章 情報の「非整理術」
 ー整理に追われて1日を終わる人々
4章 情報を「噛み砕く」
 ー解釈する力のない者は敗れる
5章 情報を「生み出す」
 ー受け取るだけの人間になるな
6章 情報を「活用する」
 ー面白い生き方をしたいなら
特別章 成毛眞の「情報」個人史
 
となっていて、前半は「情報との付き合い方」、後半が、アウトプットも含めた「活用の仕方」といった仕立てである。
 
 

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「スペシャリスト」ではない生き方も魅力的だ ー エミリー・ワプニック「マルチ・ポテンシャライト 好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法」(PHP)

もしあなたが、次の2つの項目

①「一筋の道」とか「専門家」とか、とかく世の中のワークスタイルについてのアドバイスは、特定の分野を永年にわたって掘り下げる人を推奨することが多くて、あちこち興味が移る人にとっては、とても冷たいことが多い。

②日本社会の「職人崇拝」の影響のせいか、企業社会においても「スペシャリスト」よりも「ゼネラリスト」は「冷遇」されててしまうことが多いような気がする。

について賛同できて、さらに自分自身が「興味が多方面にあるために冷や飯を食わされている」と思っていたら、あなたは、本書にいう「マルチ・ポテンシャライト」なのかもしれない。

そんな移り気といわれる「マルチ・ポテンシャライト」がとても魅力的な性向で、「スペシャリスト」では実現できない、様々な成功の可能性を秘めていることを教えてくれるのが、本書『エミリー・ワプニック「マルチ・ポテンシャライト 好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法」(PHP)』である。

【構成は】

PART1 あなたが「なりたいものすべてのもの」になる方法
     ようこそ、「マルチ・ポテンシャライト」の世界へ

 第1章 マルチ・ポテンシャライト
  ー世間にしばられず、複数の天職を追求する人たち
 第2章 マルチ・ポテンシャライトのスーパーパワー
 第3章 マルチ・ポテンシャライトが幸せに生きる秘訣

PART2 マルチ・ポテンシャライトの4つの働き方 十人十色

 第4章 グループハグ・アプローチ
 第5章 スラッシュ・アプローチ
 第6章 アインシュタイン・アプローチ
 第7章 フェニックス・アプローチ

PART3 マルチ・ポテンシャライトたちの課題
     ”ドラゴン”の倒し方を教えよう

 第8章 自分に合う「生産性システム」のつくり方
 第9章 マルチ・ポテンシャライトが抱く「不安」に対処する

となっていて、PART1が、「マルチ・ポテンシャライト」が決して劣った性向ではないという評価、PART2が、「マルチ・ポテンシャライト」の類型分析と、それぞれの特徴とワークスタイルの処方箋、PART3が、「マルチ・ポテンシャライト」全てに向けて、彼らの仕事のスタイルや仕事をする上で、彼ら特有の悩みへのアドバイスである。

 

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