2008年01月05日

北村 薫 「街の灯」(文春文庫)

「円紫さんと私」シリーズ、「覆面作家」シリーズ以来、ひさびさに「かわいらしい」探偵さんの登場である。北村薫さんの、こうした、若くて、元気がよくて、そのくせ、いろんなことに気が回ってしまうお嬢さんの描きかたには、いつもながら、あれよあれよと乗せられてしまうのが常で、こうした女の子の活躍に思わず頬を緩めてしまうのは、年のせいだろうか。

収録は

「虚栄の市」
「銀座八丁」
「街の灯」

の3篇で、舞台は昭和初期の東京。主人公は、中堅の財閥のお嬢さんで、華族のかたがたも通う女学校(女子高ではないですよ。)の生徒、といった設定。
昭和初期といえば、そろそろ戦雲の影も見えてきたころで、暗殺事件をはじめ世相も明るくない、とうかむしろ暗い時代であるはずなのだが、当時も今もかわらないかもしれない女子学生の生活がそこかしこにはさまっている(おまけに、この主人公の家はお金持ちなので、生活苦はないしね)せいか、なにか、透明感のある明るさがただよっている短篇群である。

筋立は、こうした北村薫のシリーズらしく、新聞紙上の自らを埋めて死んでいた男の事件を推理する「虚栄の市」、兄の友人から投げかけられた、暗号をとく「銀座八丁」とおどろおどろしいものはない。それは、作中の、そこかしこに現れる、古き良き時代の、それも上流の家庭や社会のもつ、どことなく嘘くさくはあるが、上品な言葉や風合いといったものも影響しているのだろう。(女学校の朝の挨拶で、「ごきげんよう」と挨拶しあうなんて、その典型?)
身近な人物(といっても、友人の婚約相手の家の家庭教師なのだが)の殺人事件がおこる「街の灯」にしても、陰惨な場面はない(華族の家の、なんかどろどろしたものは垣間見えるとしてもね。それにしても、この娘の友人の「道子」さまという人、けっこうしたたかですよねー。<詳細は本編を読んでね>)。

できれば、もっとシリーズ化しないものかなー、と切望しているのだが、そうした話は聞かないのが残念。

あ、それと、一作目にでてくる、主人公の英子さんの専属運転士になる別宮さんは、このミステリの時代設定らしい言いかたをすれば「男装の麗人」っぽくて結構格好よいのである。

お薦め度 (主人公の英子さんの可愛らしさをプラスして)★★★★★

2008年01月04日

北森 鴻 「緋友禅」(文春文庫)

店をもたない骨董商 旗師・冬狐堂 宇佐見陶子シリーズの掌篇。

収録は

 陶鬼
 「永久笑み」の少女
 緋友禅
 奇縁円空

の4篇。

主人公の陶子に感情移入しながら、それぞれ萩焼き、埴輪、友禅染、円空仏といった骨董、古物を中心にする贋作あるいは殺人事件の絡まりあった糸を解きほぐしていくのが、
このシリーズの醍醐味なのだが、今回の掌篇たちは、「狐罠」「狐闇」で重要な脇役としてでてきた人物や、陶子の骨董商修行時代に出会った人物に関わる話が多く、「狐」シリーズの外伝のような扱いで読めばよいだろう。
「陶鬼」は、陶子が旗師を始めたころ商売敵であり師匠的な存在でもあった元陶工の死にまつわる話であるし、「奇縁円空」は、古材を扱う大槻の過去に起因する贋作・殺人事件である。
そして、なにより、楽しめるのは、骨董、民芸、古物の周辺で蠕く贋作師の姿や、「緋友禅」ででてくる「楊枝糸目」に代表される失われた古来の技術と格闘する工匠たちの姿だろう。

できれば、「狐罠」「狐闇」の後に読んでほしい一冊。

お薦め度 ★★★★

2007年11月08日

北森 鴻 「花の下にて春死なむ」(講談社文庫)

北森 鴻のミステリで、さすが巧いな!と思うのが探偵役の造型で、この「花の下にて春死なむ」のビアバー香菜里屋の工藤マスターも期待を裏切らない出来の探偵役である。 タイプとしては、北森氏お得意のアームチェアディクティティブなのだが、訳知りで世間知に溢れたバーのマスターといった役柄が、作品の静謐な感じをましている。

収録は
「花の下にて春死なむ」
「家族写真」
「終の棲み家」
「殺人者の赤い手」
「七皿は多すぎる」
「魚の交わり」
の6篇。

構成としては、不遇の俳人の隠された過去、故郷を捨てざるを得なかった彼の紐津をフリーライターの飯嶋七緒が探っていくシリーズ第1作であろう「花の下にて春死なむ」から始まり、香菜里屋を訪れるさまざまな客たちが関わる事件を経て、第1話の俳人が鎌倉で遭遇したらしい殺人事件の謎を解き明かす「魚の交わり」で終わるのだが、いずれも香菜里屋の店内での謎解きで締めくくられるのが、全篇を通じて静謐な印象を与えている。

とはいっても、読み口は静かでも、出てくる事件や謎はさまざまでいろんな味が楽しめるのはまちがいない短編集である。

作品中に出てくるマスターの涎のでそうな料理の数々といっしょにどうぞ。

お薦め度 ★★★

2007年08月04日

多島斗志之 「白楼夢ー海峡植民地にて」(創元社推理文庫)

こんな手練れがいたとはしりませんでした、と言うのが第一印象である。
物語の舞台は、大正9年、第一次大戦後のシンガポール。華僑の有力一族の呂家の娘、白蘭が殺害されている現場に主人公 林田がでくわすところから始まるのだが、のっけからぐんぐん読まされて、最後まで引きずられていくこと間違いなしである。


展開としては、犯人に間違われた主人公の逃亡行とそれと並行して、彼がシンガポールに来て、日本人の顔役になっていくいきさつや廃娼(売春宿の廃止と娼婦のシンガポールからの追放運動)、呂一族の若き統率者である呂鳳生との再会と、弟の虎生とのトラブル、そして現地のイギリス人社会の人間模様、華人社会の勢力争いなどがオムニパス的に語られて、主人公がシンガポールから逃亡する最終章へと流れていくのが大きな流れ。


最後のほうで、白蘭の本当の父親や、華人社会の秩序を維持するための、なんとも冷静(冷酷というべきか)な決断が明らかにされて、それがまあ、白蘭殺しの真相なのだが、こうした個人的な怨嗟に基づかない組織的な理由(きわめて民族的でもあるし、太平洋戦争の隠された遠因という意味で、きわめて政治的でもある)に基づく殺人っていうのも、時代的にはありえたのだろうな、国家の利益を巡ったやりとりというものに慣れていない戦後生まれの私としては、無理矢理納得せざるをえないところはあるのだが、読み物としては、良くできているのは間違いない。

こうした犯人捜しとは別にこの本で楽しめるのは、既に日本では失われてしまった「植民地」というものがもつなんとはない倦怠感と、南アジアという立地のもつねっとりとした暑さだろう。とりわけ、一環して流れる植民地のもつ出口のなさそうな閉塞感と疲れのようなものは、もはやリアルの世界ではなかなか経験できないものだ。

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2007年03月31日

北森 鴻 「狐罠」(講談社文庫)

「冬狐堂」こと宇佐見陶子シリーズのミステリー。 今回は、陶子が贋作をつかまされてしまうことから始まる贋作(フェイク)ミステリーである。

発端は、宇佐見陶子がヤリテ(いろんな意味で)の古物商 橘薫堂から発掘モノ(古墳などから出土した遺物。ほとんど盗掘などの非合法的手段によるものが多いらしい)と称する「唐様切子紺碧椀}(有り体にいうと青色のガラスの椀ってことか?)を手に入れるのだが、それが偽物。おまけに、それを買った時の道具立てが、贋作のフッ化水素の臭いに気付かないようにするために茶室で、茶を焙じて鼻を効かなくするという「目利き殺し」(品物の欠損を、あの手この手でごまかす技術)を仕掛けられてのこと。
プライドをいたく傷つけられた陶子は、橘薫堂に、目利き殺しの仕返しを謀むが、そのうち、橘薫堂の右腕とも称される女性従業員が殺されて・・・。
といったところからスタートする。

この「狐罠」で、陶子の別れた旦那さんが登場したり、殺人事件を調べる警察官が、かなり癖のある刑事二人だったり、キャストは豊富なのだが、なんといっても読んでいてワクワクするのは、贋作師の塩見老人と出会い、彼と共同で橘薫堂を仕掛けるための贋作を作っていく過程の様々な贋作の蘊蓄と、この世界に蠕いていた世界各地の贋作師のエピソードだろう。

例えば、室町前期の漆器の贋作の材料に、法隆寺の昭和の大改修の時に闇で手に入れた古材をつかうくだりや、漆のひび割れた古色を出すために人の脂肪を漆器も表面に塗り込んだり、といった小技やメーヘレンという贋作師がフェルメールの多くの作品の贋作を暴露したのだが、美術評論家や美術館は自らの鑑定の不確かさを認めたくないため、贋作師が贋作を白状しているのに専門家は認めないという事態が起きてしまったといった話が散りばめられていて、何時の間にか、なんでも鑑定団的世界と、ギャラリーフェイクの「贋作」的世界に引き込まれていってしまうこと間違いない。

展開は、この陶子の目利き殺しの意趣返しと殺人事件の犯人捜しが、陶子のまわりを交錯しながら進んでいき、橘薫堂が、戦後まもない頃のフェルナン・ルグロの贋作騒動に絡んだ、叩けばホコリがもうもうと立ちそうな話や、大英博物館ケミカルラボ出身の凄腕の元キュレーター(美術館や博物館の資料収集や研究の運営にも携わる上級学芸員みたいなものらしい)が橘薫堂側の贋作鑑定や偽造に関わってきたり、といったかなり盛りだくさんなものを絡みながら進んでいくのだが、結末は、「えっ、あんた味方と思っていたのになー」といった感じ。

文庫本の解説では本当の古物商の世界や贋作づくりの世界とは、ちょっと違うみたいなことが書いてあったが、野暮なことは言っこなし。所詮、つくりごとのミステリーなのだから、作者がつくり出す虚構の世界に、どっぷりと浸ろうではありませんか。

2006年12月24日

北森 鴻 「狐闇」(講談社文庫)

腕利きの古物商 冬狐堂こと宇佐見陶子が、銅鏡の取引をめぐって罠にはめられ、骨董業者の鑑札も剥奪され、あわや古物業界から葬り去られようとする・・・

ってな感じで展開する骨董業界ミステリー、とはいっても謎は、贋作とかいったことではなくて、明治期の国家的な陰謀事件(いやー、ひさびさに聞く由緒正しい表現だな)にまで結びついていく、大がかりな謎である。

もっとも、発端は、競り市で、陶子が、青銅鏡(光に透かすとなにやら影がうつる”魔鏡”という、それなりに怪しげなものなのだが)を手に入れたあたりから始まるので、そうした競り市の様子やら、陶子がはめられる素となる絵画の鑑定や贋作の作り方など、骨董業界、美術業界の”裏”的知識も豊富に用意されていて、本筋とは別のそうしたTipsもまた楽しいのが、北森 鴻のミステリーの良いところだ。


本筋は、蓮丈那智シリーズの「凶笑面」に収録されている短編「双死神」と連動していて日本古代の鉄器にまつわる蘇我と物部の対立に隠されている謎とか、明治初期、堺県知事 税所篤の古墳盗掘の真相まで及んでいく。

最後の方の古墳のトリックは、最初に「双死神」を読んでしまった方はネタバレでちょっと残念だろうが、それを上回る、国家的なミステリーが展開されていくので、良いとしてほしい。
しかし、こうした国家的な陰謀というか企みの話を聞くと、明治期の日本というものの脆弱性というか、列強の中にはさまれた心許なさといったものが、なんとなく現代の私にも伝わってくるのだが、一個の銅鏡から、国家的な陰謀までもっていってしまう、北森 鴻の力量はさすがである。


骨董というか古代の文物の蘊蓄を楽しみながら、宇佐見陶子が冤罪を晴らすための獅子奮迅の奮戦にワクワクするミステリーである。

2006年12月17日

北森 鴻 「触身仏」(新潮文庫)

「凶笑面」でデビューした民俗学者にして探偵役も果たし、おまけに中性的な美人ときている蓮丈那智シリーズの文庫本2冊目。


収録は
「秘供養」「大黒闇」「死満珠」「触身仏」「御蔭講」
の5作品。


1作目は、那智や助手の内藤がフィールドワークにでかけた先で事件に遭遇する設定だったのだが、今回は大学の構内や対談先など、那智たちのフィールド内で起きる事件がほとんど。まあ、1作目の見事な事件の解決手腕で、怪異自体が尋ねてくるほど、その道では名が売れたってことかもしれない。

ただし、フィールド内でおきるからといって、その事件はごく一般の謎解きではなく、それぞれにこってりと民俗学の味付けがされているので、そうした謎解きの周辺のディティールをこてこて味わうのが好きな人も(私もそうなのだが)満足して読める。

例えば

<供養の五百羅漢>の伝説にまつわる飢饉の秘話であったり、

口中に勾玉を押し込まれて死んでいたアマチュア歴史家の事件の中で語られる三種の神器の謎ときであったりして、

どうかすると、こうした周辺を読むためにミステリーを読んでいるような感覚になるあたり、北森 鴻の絶妙の語り口のなせる技なのだろう。しかも、事件もグロテスクすぎず、民俗学にありがちなコケオドシのおどろおどろしさがないあたりも、また良いのである。

これに収録されている最終話「御蔭講」で万年助手らしかった内藤に講師に道が開けそうになってくる。結論は明らかになってはいないが、那智にふりまわされて苦労を重ねている内藤くんの幸運を期待しておこう。

2006年12月14日

北森 鴻 「孔雀狂想曲」(集英社文庫)

北森 鴻の古物商人が主人公のミステリーとなると、「狐」シリーズの冬狐堂 宇佐見 陶子につながってしまうのだが、この「孔雀連想曲」は目利きではあるのだが商売下手で、ちょっと冴えない風采の雅蘭堂 越名集治が主人公。そしてアシスタントのようにからむのは小悪魔っぽい女子高校生 安積 といったシチューエーションで、古典的といってはなんだが、ちょっと安心できる設定。

収録は
「ベトナム・ジッポー1967」
「ジャンクカメラ・キッズ」
「古久谷焼幻花」
「孔雀狂想曲」
「キリコ・キリコ」
「幻・風景」
「根つけ供養」
「人形転生」
の8篇


いずれも、店の売り物であったり、買い付けに行った先の骨董にまつわる謎解き。

ミステリーっていうのは、事件の謎解きと並んで、使われているシチュエーションとかきっかけとなるモノとかの道具立てが結構重要で、興味を引く道具が用意されていれば、うかうかと作者の手にのっかって読み進んでしまうことになる。
そうした意味で、この連作短篇は、骨董屋という設定と、いわくありげな骨董品という、ワクワクしてしていまう設定と筋立てで、そうした条件がしっかりと満たされている。


国家的な陰謀とか時代の蔭に埋もれてしまった謎といった、こういう骨董ものにありがちな展開がないのも好印象である。骨董・お宝ブームのまだ盛んな折、登場する骨董品を想像しながら、読み進めるのも楽しい短編集であった。

(余計なネタバレなのだが「キリコ・キリコ」はあの現代美術の「キリコ」ではありません)

2006年11月21日

北森 鴻 「凶笑面」(新潮文庫)

<異端の民俗学者>蓮丈那智が、古来からの道具や伝承にまつわっておきる事件を解決していくシリーズの文庫本第一作。

収録は

「鬼封会」「凶笑面」「不帰屋」「双死神」「邪宗仏」

の5作品。

民俗学者が主人公のミステリーといえば、井沢元彦の「猿丸幻視行」の折口信夫とかが思い浮かぶ。
学者が主人公となると、その専門的なな知識を活用して、現実の事件を解決するというのが定番なのだが、そこは民俗学というとらえどころのない学問なので、「猿丸幻視行」と同じように、現実の事件もさることながら、古来からの文物や伝承に隠された謎そのものを解くといった風合いのミステリーである。

こうしたミステリーの場合、その文物や伝承そのものが、謎解きの一部になっていることが多くて、その文物やら伝承をつぶさに語ることが、ネタばらしにつながりかねないので、詳細に書くことは慎みたいが、

鬼の面をつけた人間が護摩壇の周囲で踊り狂う、東大寺の「修二会」に似た儀式に、いわゆる「六部殺し」が隠されている「鬼封会」

凶々しい笑いを刻んだ「凶笑面」の対極にあるのだが、古びた写真にしかその姿が残されていない喜人面

など、それぞれの一篇ごとに怪しげな道具立てが用意されていて、そのあたりの蘊蓄話をだらだらと追うのも楽しいミステリーである。

このうち「双死神」は日本の「古代における青銅器と鉄器を扱う部族というか民族の交替や、明治のはじめの古墳の当時の県令による大発掘というか大盗掘に端を発する「税所コレクション」の話など、北森 鴻の別シリーズである「宇佐見陶子シリーズ」につながっている。

筆者の北森 鴻が「量産がきかない」と言ったのも尤もで、丁寧につくりこまれた民俗学の種々のコンテンツを楽しむもよし、意表をつく謎解きを楽しむもよし、の短編集である。

2006年07月16日

藤原伊織 「テロリストのパラソル」(講談社文庫)

この作品が、江戸川乱歩賞を受賞したときに、全共闘色が強いとか、学生運動の名残とかいろんな批評がされたらしい。

すでに全共闘、全学連も遠くなり、オウム真理教すらもかなり時間を経た今となっては、ちょっと古びたテロ犯罪のミステリとなっているようだが、どことなくノスタルジックに読めるのは、青春時代を引きずっているような主人公のアル中の中年バーテンダーと事件の謎も、これまた青春時代の復活みたいなところがあるからだろうか。


事件らしい事件は、冒頭の公園での爆弾テロ事件のみ。のみ、といっても昼下がりの日曜日でにぎわう都心の公園での爆弾テロだから、犠牲者は多いし、おまけに警察のエリートが娘と一緒に事件にまきこまれていたり、主人公が若いころ別れた恋人と、別れた原因となった主人公の闘争仲間も犠牲となってしまうという、なにやら過去の因縁が一挙にでてきそうな設定である。

で、期待に違わず、昔の恋人の娘が主人公に絡んできたり、広域暴力団が主人公の口を封じようと(事件の時に黒服の男を目撃した程度のことなのだが)執拗に襲ってきたりとか、主人公が学生時代に爆弾テロ事件を起こしている(1971年に事件を起こして22年間経って時候が完成している状況)ことから、今回のテロ事件の犯人として手配されたり、あれよあれよと展開していくのだが、それなりにテンポよく読ませるところが、流石、乱歩賞受賞と直木賞のダブル受賞作といったところか。

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2006年07月15日

黒岩重吾 「子麻呂が奔る」(文春文庫)

聖徳太子の腹心 秦 河勝の部下 子麻呂が斑鳩の里の事件を解決していく古代を舞台にした時代ミステリー。

収録は「子麻呂と雪女」「二つの遺恨」「獣婚」「新妻は風のごとく」「毒茸の謎」「牧場の影と春」の6編。

時代ミステリーといえば、せいぜい江戸時代の捕物帖が普通だろう。それを古代、とりわけ正史の事実の真偽すら定かではないところもある飛鳥時代に材をを求めながら、古代の時代風情をたっぷりと味あわせながら、きちんとしたミステリーに仕上げているのは、文壇(ちょっと古い表現だね)の重鎮 黒岩重吾氏の手練の技だと思う。


さて、それぞれにレビューすると、一話目の「子麻呂と雪女」は、子麻呂が冬の里で、雪女に見紛うような美しい女(キヌイ)を助ける話。この娘と子麻呂はなにやら怪しげなというか、恋愛沙汰のような関係になってしまうように思っていると、なんと、子麻呂が娘の国家的な大仕事の練習台に使われていることが明らかになるあたり、中年男のワビシサは、ちょっと我が身に凍みる。


二話目の「二つの遺恨」は、真面目に学問をしていると思った息子が、実は最近学校をサボっている。何故か、という理由探しと、斑鳩の里でおきた村の古くからの無冠ではあるが豪族(平群氏の郡司)の一族の一人と農民とのイザコザの理由さがしが並行して展開する。まあ、息子の方はm親の因果が子に報いといった感じの、息子の学校の教師の逆恨みなのだが、村の方は、この時代の古くからの氏族が衰え、新しい位階制度のもとで新興勢力が台頭していく様子が反映されていて、なにやら現在の様々な姿を彷彿とさせる。

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2006年07月11日

倉知 淳 「日曜の夜は出たくない」(創元推理文庫)

仔猫のようなまん丸い目をした小男で、定職にはついてはいない。どうやって生計をたてているかは全く不明だが、時推理をさせたら抜群の才能を示す、「猫丸先輩」が登場する倉知 淳さんのデビュー作である。

収録は「空中散歩者の最期」「約束」「海に棲む河童」「一六三人の目撃者」「寄生虫舘の殺人」「生首幽霊」「日曜の夜はでたくない」の7作。
デビュー作ではあるが、それぞれに風味のかわった作品ばかりが用意されている。


最初の「空中散歩者の最期」は、男が墜落死している。ところがあたりの高いビルなどの建造物からは離れたところに落ちており、まるで空中を散歩している途中に、不意のアクシデントで落下して死んだような感じの事件の死因を推理するものであるし、「約束」は、公園でお話をするのを常としていた少女と中年の「おじさん」。その「おじさん」が公園で睡眠役自殺を遂げる。少女に自分の汚職を告白し、警察に自首することにするが、その前にもう一度少女に会って手品を見せる約束を果たさずに死んでしまった中年男の死の謎を解き明かすもの。
ちょっと間を飛ばして「日曜の夜は出たくない」は、恋する相手の男と別れた日曜の夜は近くで通り魔事件が頻発する。もしや、その男性の仕業では、と気をもむ女性の心配を晴らすといった風である。

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2006年07月09日

松尾由実 「ジェンダー城の虜」(ハヤカワ文庫)

ジェンダー城の虜

「バルーン・タウンの殺人」でデビューを飾った松尾由実さんの第2作。
今度は長編推理である。

今度の舞台は、団地なのだが、この団地、「夫は家事、妻は仕事」といった風に夫婦が役割を逆転させて生活しているか、あるいは同性愛の夫婦といった、ジェンダーを逆転させるか、ジェンダーを無視した人達しか住むことが許可されない(この団地、ある金持(水野真琴、というどうやら双子の片割れの女性)が自治体に寄付してつくった団地で、そこの入居もその金持が権限を持っているという設定だ)団地での事件である。


発端は、ここの団地に住むぼく(谷野友明)のクラスにアメリカ帰りの美少女(小田島美宇)が転校してくるところから始まる。
この小田島家。ジェンダーを逆転させているわけではなくて、小田島美宇の父親の小田島修は、料理とかもほとんどできない、どちらかというと亭主関白な方なのだが、そんじょそこらの家庭では真似のできないところを、この団地の寄付者にして町内会長の水野真琴に見込まれて、入居を許可されたらしい。なんと、この父親の職業、「マッド・サイエンティスト」なのだ。「マッド・サイエンティスト」っていうのが職業になるのかよくわからないのだが、乱暴に意訳すると、いろんなジャンルに顔を突っ込んで、学際的なパテントや特許をもっている人ってな具合かな。このキワモノぶりを買われて、水野町内会長の依頼で重要な機械をつくるよう頼まれたという次第である。

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2006年06月25日

北村 薫 「覆面作家の夢の家」(角川文庫)

”外弁慶”のお嬢さま 新妻千秋さんの登場する「覆面作家」シリーズもこれで最終巻。 推理世界の編集者 岡部了介とのコンビの息もぴったりあってきた感じだ。

収録は「覆面作家と謎の写真」「覆面作家、目白を呼ぶ」「覆面作家の夢の家」の三作。


まずは、「覆面作家と謎の写真」。このお話で、岡部了介の兄で刑事をやっている岡部祐介が、了介の「推理世界」のライバル誌、小説ワルツの編集者 静美奈子さんと結婚する運びとなる。

その会場「イワトビペンギン」で出会った、鳥飼さくらさん(この人も小説わるつの元編集者という設定だ)のもちこんだ事件。

事件の中身は、ディズニーランドへ友達で連れだって遊びにいって写真をとったが、その写真の一枚に、今はニューヨーク支社に転勤になっていて日本にいないはずの編集者の同僚が撮影されていたというもの。
まあ、ニューヨークに転勤した本人は生きているし、迷惑かけないなら生き霊ぐらいうっちゃっておけばよいのでは、と思うのだが、この謎を、お節介にもお嬢さまが解いてしまうという展開。

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2006年06月24日

井沢元彦 「織田信長推理帳 五つの首」(講談社文庫)

織田信長が探偵役を務めるミステリーである。織田信長といえば、癇癪持ちだが、頭もすごくキレそうなイメージがあるので、探偵役としては、結構うってつけかもしれない。


この「五つの首」は、まだ都へ上洛する前、美濃の斎藤龍興を、堺に追い払ったあたりで、織田家がまだまだ登り調子で、信長の癇癖が原因の暗雲はまだかけらもないような時期の設定である。


この時期、上洛の足掛かりを何も持たない信長としては、錦の御旗というか、上洛する何かのシンボルが必要だったのだろう。この話は、そのシンボルとなる「足利義昭」を越前朝倉家から、岐阜へ迎えようとする際におきる信長暗殺の謀略にまつわるミステリーである。

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2006年06月22日

ダン・ブラウン 「ダ・ヴィンチ・コード」

昨日の夕方から雨模様で、本当に梅雨になったのかな、と実感。

やっと「ダヴィンチ・コード」文庫本 全3巻を読み終えた。かなり時間がかかってしまったなー、というのが実感。
仕事の方も、ちょっと忙しくなっていたのも読み進めなかったのも一因ではあるのだが、やはり「キリスト教」というあたりが、読み飛ばしていけなかった大きな原因なのだろう。

筋書き的には、イエス・キリストとマグダラのマリアとの関係について、ある秘密結社(「シオン修道会」というらしい)が、カトリック教会(というより、教会をはじめとするキリスト教全般)の目から秘密を守り通してきた。その過去の総長の一人がレオナルド・ダ・ヴィンチで、彼は秘密に関する様々な示唆を絵画をはじめとする作品の中に残している、というのが底流にある流れ。

発端は、この秘密結社の現代の関係者と(と後でわかる)思われるルーブル美術館の館長が殺される場面から。
死体には自らが細工したと思われる「ダビデの星」やらブラックインクのダイイング・メッセージやらなにやら奇妙な仕掛けがあって、この館長の孫娘と犯人に間違えられたアメリカの学者が、その謎から導き出されるキリストの謎を解き明かしていくという展開である。

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2006年06月21日

松尾由美 「バルーンタウンの手毬唄」(創元推理文庫)

翻訳家兼妊婦探偵 暮林美央シリーズの3冊目である。

二人目の子供、砂央を出産した後の美央のもとに、「バルーンタウンの手品師」から登場した東都新聞の家庭欄の記者 友永さよりが訪れて、今まで公になっていない事件の話を聞いていくという設定になっている。

暖炉前の引退した名探偵から、若い人(小説家や新聞記者)が昔話を聞くという、ミステリーの一つの定番をしっかりなぞってある。たしか、岡本綺堂の「半七捕物帳」も同じような設定だったよね。


収録は「バルーンタウンの手毬唄」「幻の妊婦」「読書するコップの謎」「九カ月では遅すぎる」の4編。

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2006年06月20日

高野和明 「十三階段」(講談社文庫)

犯行時刻の記憶を失ってしまい死刑囚にされている男、「樹原」の冤罪を晴らすため、刑務官と、前科を持つ青年が調査に乗り出すという筋立のミステリー。 書名の由来は、死刑が執行される絞首台の階段数が13であるように言われているところなのだが、どうやら13段の絞首台がつくられたことは、巣鴨プリズンの絞首台を除いて日本ではないらしい、と書中にある。この巣鴨プリズンのものはアメリカ軍作成らしいから、この13というのは、やはりキリスト教盛んなところの風習なのだろう。

このミステリー、最初は、死刑囚が刑の執行のために呼び出される場面から始まる。ページ数にしてはさほど割かれていないのだが、呼び出される男が暴れ、咆哮し、嘔吐する様子が、「樹原」を通して描かれているあたり、かなり陰惨な滑り出しである。
さらに、出所者の出所してからの様子を冷静に書き出しているあたりは、最初の死刑の呼び出しの場面と同じく気が滅入るものではある。例えば、被害者への賠償で工場や家を手放している青年の両親とか、学校を止め、家をでた弟とか、犯罪というのが被害者だけでなく加害者の家族を巻き込むものであることを思いしらされる。


さて、探偵役というか主人公が、刑務官というのも珍しいが、それと前科をもつ出所したての青年というコンビも珍しい。

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2006年06月11日

鯨 統一郎 「新・世界の七不思議」(創元推理文庫)

バーテンダー松永のバーで繰り広げられる、大学で世界史を専攻している早乙女静香と、民間の与太話的歴史の謎解明を行う雑誌ライター 宮田六郎との、歴史バトル第2弾である。


収録は「アトランティス大陸の不思議」「ストーンヘンジの不思議」「ピラミッドの不思議」「ノアの方船の不思議」「始皇帝の不思議」「ナスカの地上絵の不思議」「モアイ像の不思議」の7篇。

どちらかといえば、日本歴史やアジア歴史の謎対決が多かった、前作に比べ、今回は、とんでもなくグローバルになっている。


しかも、今回のバトルの証人となるのも話がグローバルになったにふさわしく、アメリカはペンシルバニア大学の教授で古代歴史学の権威 ジョゼフ。ハートマン教授である。

で、この教授の前で、早乙女静香と宮田六郎の歴史謎解きバトルが始まるのだが・・・案の定、宮田の推理はキテレツである。

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2006年06月10日

鯨 統一郎 「邪馬台国はどこですか」(創元推理文庫)

ちょっと人を食ったミステリーをいくつも発表している鯨 統一郎氏のデビュー作である。


舞台は、素人に毛の生えた程度のバーテン 松永が勤めるバー.
大学の文学部の教授で日本古代史を専攻している三谷教授と同じ大学の助手の早乙女静香、そして民間の研究家らしい(職業限りなく不明状態の)宮田六郎三人が、酒を飲みながら、世界史の大事件や謎について、推理を与太をとばす、という設定の、なんとも人をくったような設定である。

収録は「悟りを開いたのはいつですか?」「邪馬台国はどこですか?」「聖徳太子はだれですか?」「謀反の動機はなんですか?」「維新が起きたのはなぜですか?」「奇蹟はどのようになされたのですか?」の6篇。

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2006年06月05日

松尾由美 「バルーン・タウンの手品師」(創元推理文庫)

妊婦探偵 暮林美央の登場するバルーン・タウンシリーズの2冊目。


今回の収録は、「バルーン・タウンの手品師」「バルーン・タウンの自動人形」「オリエント急行十五時四十分の謎」「埴原博士の異常な愛情」

この本で、美央さんが二番目の子供を妊娠していることがわかり、再びバルーン・タウンに戻ることになる。一人ならずも二人目までも、あっさり妊娠してしまうとは、実は、この暮林夫婦、実は、婦唱夫随よろしく仲がとんでもなく良いのでは、と思ってしまう。ついでに、バルーンタウンの隠された謎にまで迫ろう、という2冊めなので、美央ファンは必読。

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2006年06月04日

松尾由実 「バルーンタウンの殺人」(創元推理文庫)

翻訳家にして妊婦探偵の暮林美央が登場するバルーンタウンものの第一作である。少し前に「赤ちゃんをさがせ」といった助産婦探偵ものを読んだついでに、この「バルーンタウン」シリーズ、妊婦探偵ものをレビューしよう。


話の舞台は、近未来。人工子宮が発達した中で、あえて昔ながらにお腹で赤ちゃんを育て、出産をすることを望んだ女性たちが、出産までの間を穏やかに暮らすためにつくられた街、バルーンタウン(散文的にいうと東京都第七特別区というらしい)である。

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2006年05月31日

青井夏海 「赤ちゃんがいっぱい」(創元推理文庫)

前作「赤ちゃんをさがせ」で、ワトソン役の聡子さん、陽奈ちゃん、ホームズ役の「伝説のカリスマ助産婦」明楽先生の最強の助産婦シリーズの2作目で、今回は長編。


ところが、聡子さんは、元ダンの宝田さんとヨリを戻して、2番目の子供ができた為に、育児休業中である。大事な収入源と栄養調達源が休業中に、なんと陽奈ちゃんは。アルバイト先の助産院をリストラされてしまうのである。

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2006年05月26日

青井夏海 「赤ちゃんをさがせ」(創元推理文庫)

「スタジアム 虹の事件簿」で自費出版デビューした、青井夏海のユーモアミステリー第2弾。


今度はワトソン役もホームズ役も助産婦さんである。ワトソン役を務めるのは、自宅出産専門の出張助産婦の聡子さんと陽奈(ひな)ちゃんの二人組。そしてホームズ役は、二人の報告を聞いて推理をめぐらす「伝説のカリスマ助産婦」明楽先生という設定である。

分類すれば、安楽椅子探偵の分野に入るのだろうが、ワトソン役の一人、駆け出し助産婦の陽奈ちゃんのドタバタした、とんでもなく明るいところが、こうした安楽椅子探偵ものによくある取り澄ました感じをなくしている。

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2006年05月20日

北村 薫 「覆面作家の愛の歌」(角川文庫)

「覆面作家は二人いる」でデビューした、外弁慶(?)のお嬢さま 新妻千秋さん登場の第二作目である。 収録は「覆面作家のお茶の会」「覆面作家と溶ける男」「覆面作家の愛の歌」の三作

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2006年05月18日

北村 薫 「覆面作家は二人いる」(角川文庫)

ミステリ雑誌の「推理世界」に、新人賞応募〆切をすぎた原稿が送られてくる。 箸にも棒にもかからない応募原稿かな、な、と思ったら、「面白い。着想といい展開といい、非凡である。・・・ただ、ところどころ確かに妙である。テレホンカードというものが何なのか分っていなかったり、突然世にも難しい言葉が出てきたり、取ってつけたような手順(!)のおかしなベッドシーンがあったりする」というわけで、「推理世界」の中堅編集者の岡部了介は、有望(そう)な新人ミステリー作家を担当することになる、といったところからスタートする。

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2006年05月02日

井沢元彦 「義経はここにいる」

いまさら「義経伝説」かなー、おやじの定番 大河ドラマも戦国時代に移ったしねー、とは思ったのだが、リサイクルショップに安く出ていたので、あまり考えずに購入。


で、読みはじめたのだが、そこらあたりの「義経北行伝説」を無責任に煽るものではなかった。
むしろ、奥州平泉の当時の情勢や仏像の様式まで、幅広くとりあげながら、岩手の地元大企業におこる殺人事件と「義経北行伝説」を双方とりまぜながら展開していっている。


文庫本の解説で「物書きの世界には「化ける」という言い方がある。ある瞬間に大きく飛躍した状態を言うのだが、まさに井沢君はこの作品で化けた」と、歴史ミステリーを得意とする同業者の高橋克彦に言わしめているように、信長もののミステリーから「逆説の日本史」にまで至る、「言霊」「怨霊」をキーワードにした歴史理解へとつながっていく、記念碑的作品といってよいであろう。

と、いうことで、筋立は、岩手県で幅広い分野の事業を一手におさめる佐倉グループの一人娘の婿探しのところからスタートする。
実の息子達が三人もいながら、末娘に婿をとって事業を継がせるっていう設定は、匈奴や蒙古の遊牧民族の末子相続でもあるまいし、ちょっと設定としてどうかいな・・・と思っていたら、最後の方で、しっかり「義経」と結びつける仕掛けになっているので要注意。

事件自体は、この一人娘の佐倉志津子の結婚相手となった森川義行が殺される。しかも、婚約披露のパーティーに酒樽に切断された首をいれた状態で発見されるという、ちょっとグロな設定。
義行が殺されたと思われる時刻に下関で、志津子の兄とシンポジウムに出席していた、このミステリーの探偵役の古美術商、南条 圭は、昔、志津子の結婚相手に所望されながら断った経緯から、この謎解きに乗り出すことになる、っていうのがおおまかな筋立。

この現代での殺人の謎解きを主テーマに最初のうちはしておきながら、「義経は平泉で本当に死んだのか」という現代の事件とは、およそ関係のなさそうな歴史の謎解きを並行させていき、実は、この歴史の謎の解答が、現代の事件の解答にもなっているというアナグラムを成立させる、という典型的な歴史ミステリーに仕上っている。

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2006年04月30日

芦原すなお 「嫁洗い池」

「ミミズクとふくろう」に続く、八王子に住む、売れない作家の「ぼく」と「妻」の、ふんわりとしたミステリーである。話の都度、警察署を異動している、同級生の「河田警部」もすこぶる元気である。 収録は、「娘たち」「まだらの猫」「九寸五分」「ホームカミング」「シンデレラの花」「嫁洗い池」の6篇。

前作では、河田警部が持ち込んでくる事件ばかりでなく、「ぼく」が出くわす事件もあったのだが、今回は河田警部の持ち込み事件がほとんど。おまけに、この警部、「ぼく」の「妻」に事件を依頼する時には、持ち込んでくる(もちろん、料理してもらった後は、警部も盛大に食べるのだが)郷土の食材も、このミステリーを読むときの別の楽しみのひとつ。


一つ目の「娘たち」は「河田警部」の同僚の「岩部氏」の家出してしまった娘さんの捜索。娘さんというのは、まじめな女子大生で、成人式に父親の買った晴れ着を着る約束をしていたのに、成人式前に家出をしてしまった、という設定。
ネタバレは、「お父さん、あんまり厳しくすると、娘さんがグレちゃいますよ」といったところなのだが、高校生の娘をもつ父親の私としては他人亊ではない。

で、この娘さんを探しに六本木のクラブなぞを訪ねるのだが、「この町はすかん」といった河田警部の感想や、僕の「いい身なりの若い娘もずいぶん多い。華やかなものだ。日本にはやっぱり金があり余っているようだ。」という表現がある。ほかのところに「アトランタ五輪」というキーワードが出てくるから、1996年あたり、バブルがはじけて、「失われた十年」のまっただ中のあたりの東京、六本木を思い浮かべると「なるほどね」と、いくつかの徒花を思い出す。


二つ目の「まだらの猫」は、密室殺人事件。ある金持が離れで殺される。扉には、密室だから当然鍵がかかっていて被害者の首には毒を塗った吹き矢が刺さっていた、という事件。ネタバレは、吹き矢は殺人の道具ではない、というところや、やたら元気で脂ぎっていた被害者に苛められてきた人間の逆襲といったところ。

この篇で、高松の郷土料理らしい、「アラメ」と「ヒャッカ」というものが登場。前者は海草、後者は葉野菜らしいのだが、現物にお目にかかったことがないので、味の論評はできない。文中の表現を信用すれば、「それぞれを熱いご飯に載せて食べると、もう、あんた。」というぐらいらしい。

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2006年04月29日

青井夏海 「スタジアム 虹の事件簿」

野球をまったく知らないのに、夫の死に伴って「東海レインボーズ」のオーナーとなった虹森多佳子。彼女は、いつも優雅なドレスに身を包み、球場に訪れるのだが、なぜか、野球場周辺で奇妙な事件に遭遇してしまう。

おっとりした口調で、彼女が謎解きをするのとあわせて、万年最下位チームの「東海レインボーズ」が、どういう風のふきまわしか優勝争いに食い込んで行く、というミステリーとスポーツドラマをあわせたような構成のミステリー。

収録は

「幻の虹 ー東海レインボーズ対京華チャレンジャーズ 1回戦」
「見えない虹 ー東海レインボーズ対札幌ポラベラーズ 4回戦」
「破れた虹 ー東海レインボーズ対北九州スキップジャック 13回戦」
「騒々しい虹 ー東海レインボーズ対中央フリークス 18回戦」
「ダイヤモンドにかかる虹 ー東海レインボーズ対難波マシンガンズ 26回戦」

と、シーズンの最初から、優勝決定の試合までの、野球の1シーズン。

第1話の「幻の虹」は、虹森多佳子オーナーの初登場作。彼女が野球観戦をしている近くで遠慮容赦ない野次を飛ばしている関西弁の3人組(話の最後の方で関西の人間ではなく、関西の野球の応援の様子に惹かれて、見様見まねで関西弁を使っている仙台人であることがわかるのだが)。彼らの近くで、野球をみるでもなくスコアボードを気にしていた陰気な男が、突然、鞄にいれた一万円札を撒きはじめる。その男のいうには、息子を誘拐した犯人から、この野球場でお金を撒くよう脅迫されたというのだが・・・、という事件。

途中でおきる殺人事件と絡んで、アリバイづくりもうまくやらないと、アリバイづくりにならなくなる、とりわけ金が撒かれると、我を忘れる人間はでてくるからねー、というあたりがネタバレか。


第2話の「見えない虹」は 野球を通じて知り合ったペンフレンドが、始めて会ってデートをする話。しかし、女性の方は容貌に自信なく、つい美人の妹の写真を自分だと偽って、男へ送ってしまっていた。彼女は、妹が急病になり、申し訳ないので謝りにきた姉、という設定で、彼氏と大ファンの東海レインボーズの試合を見ることになる。ところが、球場周辺で、高校の教師(かなりねちっこく生徒をいじめる教師だったらしい)が、自宅でヘッドフォンをつけたまま撲殺されるという事件がおきていて、彼氏が、その高校の卒業生、おまけに、その教師にいじめられて高校を退学したということがわかり、殺人犯人と疑われることに・・・、といったもの。

ちょっと犯人に疑われることになるきっかけが唐突かなー、と思わないではないのだが、このカップルの将来に免じて許すとしよう。ネタバレは、生徒をいじめにひっかける道具にヘッドフォンカセットやラジオを使っていた教師が、ヘッドフォンを好んでつけるか、といったあたり。

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2006年04月23日

黒崎 緑 「しゃべくり探偵の四季ーボケ・ホームズとツッコミ・ワトソンの新冒険ー」

見事な「しゃべくりミステリー」、というか「漫才的ミステリー」というか、あっとおどろくミステリーの叙述の新方式を披露した「しゃべくり探偵」の続編である。


収録は「騒々しい幽霊」「奇妙なロック歌手」「海の誘い」「高原の輝き」「注文の多い理髪店」「戸惑う婚約者」「怪しいアルバイト」の7篇。

ところが、「しゃべくり探偵」で見せた「保住」と「和戸くん」のコンビのしゃべくりミステリーは最
初の2篇までで、あとは、「保住」は、第三者のように事件の当事者たちの周辺にぼやっと現れてきては事件を解決していく(「注文の多い理髪店」に至っては店主の話の中にしか登場してこない)という、存在感が、大阪のたこ焼のように、どーんとあった前回とくらべ、なんとなく軽やかである。とはいっても、安楽椅子探偵は健在。事件の関係者からの聞き取りで、事件を推理してくという構図は変わらない。


第1話の「騒々しい幽霊」は「和戸くん」の妹が結婚することになり、新居を祖母の住んでいた家に構えたのだが、そこに幽霊、というかポルターガイストがでる。
人気がないところで電灯がついたり、茶碗や皿が割れている。しかも、その茶碗や皿は、家に置いてあるものとは違うものばかり、というもの。ネタは、最近の「お宝ブーム」に象徴される古びた皿や茶碗が原因で、伏線の張り方が見事なのだが、それにもまして、和戸の妹の顔をネタにした、関西の漫才さながらの、かけあいが楽しめる。


第2話は、「奇妙なロック歌手」。
最近売りだしそうなアマチュア・ロック・バンドを結成している友人の家が盗みに入られる。それも、送った覚えのない懸賞の温泉旅行に当選して旅行している最中のこと。
どうやら、その懸賞自体が、仕組まれたものらしい感じがするのだが、盗まれたものは旅行料金をちょっと上回るぐらいの現金とエレキギター。エレキギターは近くのごみ捨て場に捨てられているのが発見されるから、どうも仕掛けのわりに儲からなかった窃盗事件。しかもエレキギターは、捨てられていたのをチューニングしたら、音がよくなったらしいから、盗難にあったほうも、あながち損ばかりではない。といった妙な事件の謎。

ネタバレは、若気の至りを、後で責任をとらないといけなくなるとは、しんどいよねー、といったあたり。ヴィンテージギターがどんなものか、よくわかっていないので、つまらない寸評はやめよう。

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2006年04月22日

黒崎 緑 「しゃべくり探偵 ーボケ・ワトソンとツッコミ・ホームズの冒険ー」

全編、関西弁の「しゃべくり」という、なんとも大阪っぽいミステリーである。


配役は、ホームズ役が「保住」、ワトソン役が