2006年12月23日

重松 清 「ニッポンの単身赴任」(講談社文庫)

日本の庶民の一シーンを切り取ることのできる作家ときたら。この人しかいないだろうってな感じに個人的には思っている重松 清氏が「単身赴任」を切り取っていくルポ。

この人の場合、どうかするとこちらの目を潤ませっぱなしの小説や表現に出くわすことが多くて、エラソウにしている「お父さん」としては、ちょっと注意が必要なのだが、このルポは、ちょっと醒めたところから「単身赴任」という事実をきちんと、そのまわりの情感も含めてとらえてある見事な一品である。


時代背景は、2000年頃から2003年頃にかけてのルポなので、バブル時の前に向かいっぱなしのイケイケドンドンの時期でもなく、「失われた10年」のまっただ中のように、出口の見えない暗さばかりでもない、なにかしら光明が見えそうで見えない、見えないようで見えている、中途半端でこそばゆい時期と「単身赴任」と言う家族の形態としては、ひどく中途半端な状態とが妙にマッチングしている。


私自身、幸いというか偶然というか「単身赴任」は、同僚や上司、部下たちがそういった暮らし・状況にあるという第三者的な立場からしか接したことがないので、実際のところはわからないのだが、「自由さ」とそれと同じくらいの「寂しさ」が、登場する一人一人の暮らしのそこかしこにじみでてくる。


登場する「単身赴任」の逸話は15話。


単身赴任の代名詞でもある「札チョン」(「札チョン共和国定例国家の巻」)から、ビジネスが大きく動いている中国・上海(「中国上海的獅子奮迅日本商社戦士の巻」)での単身赴任から南極(「やんちゃな鳶職人、南極へ行く」)まで単身赴任の場所もさまざまであれば、職種も役職もさまざま。

性別も男だけでなく、東京都の小さな島の村の女性教育長の単身赴任のエピソード(「男女三人「島」物語の巻」)まで登場する。


で、それぞれの悩みや暮らしぶりも様々なのだが、そこに共通するのは、

「単身赴任は、一つの家庭から二つの暮らしを生む。
 赴任先で一人暮らしをする父親と、父親(母親)のいない食卓を生む家族」

であり、日本のビジネスシーンと並行して存在する、日本の家族の暮らしの一シーンでもある。


できれば、働く父親や母親をもつ娘や息子たちに「うちのオトウチャン(オカアチャン)、サエナイけど、ガンバってんのかいな・・・?」と思ったときに、読んでほしいルポである。

2006年09月11日

宮嶋茂樹 「不肖・宮嶋 空爆されたらサヨウナラ」(詳伝社黄金文庫)

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体をはって、世界の戦場をかけめぐる、毎度おなじみのカメラマン宮嶋茂樹さんのコソボ紛争の体当り撮影記である。


と書いたところで「コソボ紛争」ってなんだったかな?と国際情勢にもかなり疎く、宮嶋氏の言葉で言えば「平和ボケ」している管理人は、素朴な疑問を抱いてしまい、ちょっとググってみる。


WikPediaによると


紛争は自治州内で90%を占めるアルバニア系住民が独立運動を行なったことにセルビア系住民及び連邦・セルビア政府が反発したことに端を発する。

コソボ自治州ではチトー時代の1974年憲法により大幅な自治権が認められていたが、セルビア当局は1990年7月、自治州政府・議会を廃止、事実上自治権を剥奪した。これを受けて9月には
アルバニア人議員が「コソボ共和国」の独立を宣言する。

しかし「コソボ共和国」は国際社会からも無視され、1995年のボスニア紛争終結の和平会議でもまったく顧みられることはなかった。

一向に進展しない情勢に業を煮やしたアルバニア系住民の中には、ルコバの非暴力主義では埒が明かないと、武力闘争を辞さない強硬派のコソボ解放軍(KLA)を支持する者も多くなった。

またアメリカやEUがコソボ解放軍を支援していたとの情報もある。コソボ解放軍は1997年7月頃からセルビア系住民へ対しての殺害や誘拐などのテロ活動を行うようになり、1998年には遂にユーゴ連邦政府は反乱を鎮定するべく連邦軍を送り込み、コソボ解放軍との間で戦闘となった。

というあたりが発端らしい。そして

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2006年01月15日

吉田ルイ子「ハーレムの熱い日々」(講談社文庫)

ハーレムに象徴される、アメリカにおける黒人問題に代表される人種差別について書かれた、もう「古典」といっていいほどの本だろう。恥ずかしながら、この本のあまりの有名さに怖気をなしていたのか、今まで読んだことがなかった。人種問題ということからある種の説教臭さ、プロパガンダ臭さを連想してのことだったように思う。


ところが、リサイクルショップで偶然手にして、立ち読みをしたら・・・

どうして、どうして、単純な思想本ではなく、ハーレムに暮らす人々を含めた一時期のアメリカのすばらしいルポではないですか。

本書で綴られているのは、筆者が大学卒業後、白人のアメリカ人と結婚して渡米する1962年から1971年までの記録である。時代的にはベトナム戦争まっさかりで、ケネディ大統領が暗殺されたり、黒人の公民権運動がピークを迎えるが指導者のマルコムXやキング牧師がノーベル平和賞受賞後数年して暗殺されたりしている、(管理人は、幼児期から小学校にかけての茫漠とした頃なので時代的な雰囲気を語れないのだが)かなり世界史的にも騒然としていたであろう頃である。

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2005年12月16日

辺見 庸 「もの食う人々」(角川文庫)

アジアから、ヨーロッパ、アフリカまでの様々な国で、人々は何を食っているかのルポである。平和な国から内戦が続いている国、内戦が終わった国まで、様々な国が登場する。

食べるものも様々なら、食べる人も、食べる環境も様々

バングラディシュでは、安さにつられて残飯の再販売に手を出しそうになったり

フィリピンのピナツボでは失われたジャングルの味に想いをはせ

フォーを残すベトナムの人に戦乱の終結と資本主義の浸透を感じ

ポーランドの炭鉱では、作業に参加した後のスープに舌鼓をうつ反面後日、作業をしないでのんだスープの味気なさを感じ

セルビアの国境付近の海で漁をし、鯖や鰯の焼き物やオリーブオイルがけを漁船の上で堪能したり

ソマリアで各国の国連軍の兵士のお国料理をいれた携帯食料(レーション)と、現地の人の何もいれない、何も味のない、一握りのぶつぶつ切れるパスタの格差に呆然としたり・・・・


普通の人が食べているものは、文化といういうよりも、その国の置かれている状況に、質も量も影響されるだけに、極度に政治的であり、経済的事情の産物である。
そこにあるのは、名物料理に象徴される歴史と伝統ではなく、金と力という現実である。

2005年12月11日

宮嶋茂樹・勝谷誠彦 「不肖・宮島 南極観測隊ニ同行ス」(新潮文庫)

世界のありとあらゆるホットスポット取材敢行する体当たりカメラマン 宮島茂樹さんの南極ルポ。

行程は、観測船しらせに乗り込んで、昭和基地を経て、南極大陸内部のドーム基地に2ヶ月滞在して帰ってくるというもの。
1年4ヶ月滞在する本式の南極越冬隊に比べたら楽なもの、といった感じで始まるが、どうしてどうして、現地に行けば、隊員並みに物資の運搬(食料から燃料まで持ち込まないと近くには物資はない(当たり前か)、おまけに近くまでは車やヘリで運んでも、基地内部へは人力運搬なのだ)をやらされたり、観測とか決まった仕事もないのだからと隊員のお手伝い(といえば聞こえはよいが、実質は下働き)に過酷に借り出されたり。カメラマンも楽ではなさそう。

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2005年12月04日

風樹 茂 「ホームレス入門ー上野の森の紳士録」(角川文庫)

自らもリストラされた筆者が、上野公園のホームレス達を訪ねる。ある人とは仲良くなり、ある人には疎まれ、ホームレスとの1年間のつきあいを書いたルポルタージュ、「風樹 茂 「ホームレス入門ー上野の森の紳士録」(角川文庫)」を読む。

筆者が訪ねた当時は、失業中の失業保険も切れそうな時期、つまり何時ホームレスになってもおかしくない時期に訪ね始めているせいか、ホームレスの中にすんなり入り込んでいるように思える。しかし、それにもまして、ホームレスが「景気が回復すればいつでも娑婆に戻れそうな人々がほとんど」であることによっているように思えてならない。

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2005年11月27日

塩野米松 「中国の手業師」(新潮OH文庫)

中国の職人たちのインタビューで構成された、革命以前から、文化大革命をへて、現在へと続く伝統の手工芸の記録。

収録は

陶磁器(景徳鎮)、急須(宜興)、櫛(常州)、切り絵(河南村)、凧(維坊)鳥篭(北京・南人村)、胡弓(北京・瑠璃廠)

といった品々。

インタビューを受ける職人たちは、いずれも昔の徒弟奉公の時代から、そうした手工業をはじめ今まで、その技をつないできた人たちの話である。

一様に、徒弟奉公の時代は、師匠に殴られはしたが、きちんと技術を盗みながら教えられてきたことを懐かしみ、今の時代は、弟子入りしてくる子供に強いことも言えない時代で伝承もままならないのを嘆く姿が共通している。

どうも、伝統芸能、技能の伝承といったことでは日本も中国も同じらしい。

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2005年11月13日

宮嶋茂樹 「儂は舞い上がった アフガン従軍記(下)」(祥伝社黄金文庫)

偉大なカメラマン 宮嶋茂樹のアフガン戦記。下巻では、アフガン、ジャポルサラジ入りしてから、アフガニスタン脱出、そして再入国

さて、アフガンのファイザバードを出発し、ジャポルサラジを目指す。
崖から、取材隊ごと転落して、機材一式を失ったポーランド人のクリスと共同通信の記者も同行である。

途中、ソビエト連邦のアフガン侵攻の時に、大量に打ち捨てられた戦車の墓場(といっても、中に人が住み着いていたり、キャタピラを塀代わりにしたり。戦車にとっては墓場だが、それなりに有効利用されている。)も通り過ぎる。文庫の表紙にも使われている砲塔に腰掛けている少女の笑いが明るい。

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宮嶋茂樹 「儂は舞い降りた アフガン従軍記(上)」(祥伝社黄金文庫)

偉大なカメラマン 宮嶋茂樹のアフガン戦記。上巻では、パキスタンから、どうにかこうにかアフガン入りし、ジャハルサラジ(重要都市らしい)へ着きそうで着かないところまで。

しかし、このタイトルの洒落、うちの娘に話をするとポカンとしていたし、うちのカミさんも事細かな話をしてやっと通じた。もはや玄人受けというか、かなりの親父かマニアというかオタクにしか通じないギャグになっている。時代の変化は恐ろしかー!!!

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