徳本 栄一郎 「英国機密ファイルの昭和天皇」(新潮社)
アウトライン的には、「戦前編」は、日中戦争、太平洋戦争へと向かっていく日本の動きをなんとか回避しようとする日本の皇室とそれを支える和平派と英国の親日派の動きを、1924年の秩父宮の英国留学の裏で動く日英の思惑から1941年のチャーチルによる対日宣戦布告までを、そして「戦後編」は1945年のマッカーサー元帥の日本到着から1954年の吉田茂の講和後の英国訪問までを、皇室の廃絶危機、天皇の退位計画、果ては、ローマ教皇まで乗り出した、天皇のカトリック改宗の企てを軸にしながら、英国の公文書館に残されている機密ファイルから洩れ出すデータを、英国の関係者へのインタビューなどを交えながら叙述していくルポである。
しかし、単純な日英の皇室をめぐる戦前・戦後史ではなく、平和と日本の自立を目指す皇室、とりわけ昭和天皇の思いと、それを国家的な戦略として利用はするのだが、一方で立憲君主制国家の仲間として、あるいは、日本の行く末を心配する明治以来の友好国としての英国の、冷徹な国家戦略だけでは割り切れない関係性を表現した上質な歴史書といってよい仕上りになっている。
しかし、まあ、読み終わって、なんと多くの人達が日英という両国家を軸にしながら、さまざまな思いを、あるいは野望を遂げようとして係わり、夢破れていったことか、という思いにかられる。


