2006年7月アーカイブ

この作品が、江戸川乱歩賞を受賞したときに、全共闘色が強いとか、学生運動の名残とかいろんな批評がされたらしい。

すでに全共闘、全学連も遠くなり、オウム真理教すらもかなり時間を経た今となっては、ちょっと古びたテロ犯罪のミステリとなっているようだが、どことなくノスタルジックに読めるのは、青春時代を引きずっているような主人公のアル中の中年バーテンダーと事件の謎も、これまた青春時代の復活みたいなところがあるからだろうか。


事件らしい事件は、冒頭の公園での爆弾テロ事件のみ。のみ、といっても昼下がりの日曜日でにぎわう都心の公園での爆弾テロだから、犠牲者は多いし、おまけに警察のエリートが娘と一緒に事件にまきこまれていたり、主人公が若いころ別れた恋人と、別れた原因となった主人公の闘争仲間も犠牲となってしまうという、なにやら過去の因縁が一挙にでてきそうな設定である。

で、期待に違わず、昔の恋人の娘が主人公に絡んできたり、広域暴力団が主人公の口を封じようと(事件の時に黒服の男を目撃した程度のことなのだが)執拗に襲ってきたりとか、主人公が学生時代に爆弾テロ事件を起こしている(1971年に事件を起こして22年間経って時候が完成している状況)ことから、今回のテロ事件の犯人として手配されたり、あれよあれよと展開していくのだが、それなりにテンポよく読ませるところが、流石、乱歩賞受賞と直木賞のダブル受賞作といったところか。

聖徳太子の腹心 秦 河勝の部下 子麻呂が斑鳩の里の事件を解決していく古代を舞台にした時代ミステリー。

収録は「子麻呂と雪女」「二つの遺恨」「獣婚」「新妻は風のごとく」「毒茸の謎」「牧場の影と春」の6編。

時代ミステリーといえば、せいぜい江戸時代の捕物帖が普通だろう。それを古代、とりわけ正史の事実の真偽すら定かではないところもある飛鳥時代に材をを求めながら、古代の時代風情をたっぷりと味あわせながら、きちんとしたミステリーに仕上げているのは、文壇(ちょっと古い表現だね)の重鎮 黒岩重吾氏の手練の技だと思う。


さて、それぞれにレビューすると、一話目の「子麻呂と雪女」は、子麻呂が冬の里で、雪女に見紛うような美しい女(キヌイ)を助ける話。この娘と子麻呂はなにやら怪しげなというか、恋愛沙汰のような関係になってしまうように思っていると、なんと、子麻呂が娘の国家的な大仕事の練習台に使われていることが明らかになるあたり、中年男のワビシサは、ちょっと我が身に凍みる。


二話目の「二つの遺恨」は、真面目に学問をしていると思った息子が、実は最近学校をサボっている。何故か、という理由探しと、斑鳩の里でおきた村の古くからの無冠ではあるが豪族(平群氏の郡司)の一族の一人と農民とのイザコザの理由さがしが並行して展開する。まあ、息子の方はm親の因果が子に報いといった感じの、息子の学校の教師の逆恨みなのだが、村の方は、この時代の古くからの氏族が衰え、新しい位階制度のもとで新興勢力が台頭していく様子が反映されていて、なにやら現在の様々な姿を彷彿とさせる。

仔猫のようなまん丸い目をした小男で、定職にはついてはいない。どうやって生計をたてているかは全く不明だが、時推理をさせたら抜群の才能を示す、「猫丸先輩」が登場する倉知 淳さんのデビュー作である。

収録は「空中散歩者の最期」「約束」「海に棲む河童」「一六三人の目撃者」「寄生虫舘の殺人」「生首幽霊」「日曜の夜はでたくない」の7作。
デビュー作ではあるが、それぞれに風味のかわった作品ばかりが用意されている。


最初の「空中散歩者の最期」は、男が墜落死している。ところがあたりの高いビルなどの建造物からは離れたところに落ちており、まるで空中を散歩している途中に、不意のアクシデントで落下して死んだような感じの事件の死因を推理するものであるし、「約束」は、公園でお話をするのを常としていた少女と中年の「おじさん」。その「おじさん」が公園で睡眠役自殺を遂げる。少女に自分の汚職を告白し、警察に自首することにするが、その前にもう一度少女に会って手品を見せる約束を果たさずに死んでしまった中年男の死の謎を解き明かすもの。
ちょっと間を飛ばして「日曜の夜は出たくない」は、恋する相手の男と別れた日曜の夜は近くで通り魔事件が頻発する。もしや、その男性の仕業では、と気をもむ女性の心配を晴らすといった風である。

池波正太郎さんと面識の深かった人たちによる食のエッセイである。

和食篇、洋食篇とふたつに分かれていて、それぞれに1月から12月まで池波正太郎の好んだ料理の数々が紹介されるほか、その品が登場する池波正太郎作品や料理のレシピもあわせて紹介されているという、かなり詰め込み状態の一冊である。

その品は、和食は天ぷらから泥鰌、鮎、鰻、新子、秋刀魚、洋食は食はコロッケ(クロケットというべきか)からカレーライス、ステーキ丼、もんじゃ焼き、カツレツなどなど、さすが池波正太郎の食道楽を象徴してか幅広い。そして、その料理もかなり凝っているものからざっかけないものまで多種多様である。

いくつか引用すると、鮎のところ(「和食篇 文月」)では

やっぱり鮎の塩焼きは、なりふり構わずこうやって食べるに限る。てづかみで、骨ごと頭からシッポまで食べてこそ鮎の塩焼きである。大体、骨ごと全部食べられるくらいの小ぶりの鮎でないとうまくない

といったあたり、鮎の香りが漂うようなところに、思わず唾を飲み込んだり、

ジェンダー城の虜

「バルーン・タウンの殺人」でデビューを飾った松尾由実さんの第2作。
今度は長編推理である。

今度の舞台は、団地なのだが、この団地、「夫は家事、妻は仕事」といった風に夫婦が役割を逆転させて生活しているか、あるいは同性愛の夫婦といった、ジェンダーを逆転させるか、ジェンダーを無視した人達しか住むことが許可されない(この団地、ある金持(水野真琴、というどうやら双子の片割れの女性)が自治体に寄付してつくった団地で、そこの入居もその金持が権限を持っているという設定だ)団地での事件である。


発端は、ここの団地に住むぼく(谷野友明)のクラスにアメリカ帰りの美少女(小田島美宇)が転校してくるところから始まる。
この小田島家。ジェンダーを逆転させているわけではなくて、小田島美宇の父親の小田島修は、料理とかもほとんどできない、どちらかというと亭主関白な方なのだが、そんじょそこらの家庭では真似のできないところを、この団地の寄付者にして町内会長の水野真琴に見込まれて、入居を許可されたらしい。なんと、この父親の職業、「マッド・サイエンティスト」なのだ。「マッド・サイエンティスト」っていうのが職業になるのかよくわからないのだが、乱暴に意訳すると、いろんなジャンルに顔を突っ込んで、学際的なパテントや特許をもっている人ってな具合かな。このキワモノぶりを買われて、水野町内会長の依頼で重要な機械をつくるよう頼まれたという次第である。

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