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下川裕治 「新・バンコク体験」(双葉文庫)

旅行記や滞在記というのは、ちょっと旅行のガイド本とは違う、少し昔を書いた歴史書といった愉しみかたをすべきものではないかと思っている。というのも、旅行ガイド誌などに掲載されてから時間を経過してから、単行本や文庫本にまとめられた形になったとき、その国ではすでに昔のできごとになってしまっているし、こちら側としても日本の状況も変わってしまっているからだ。

そういった意味で、1998年頃に初出された本書は、20世紀の最後のタイ、バンコクの一シーンを切り取ったものとして楽しむべきだろう。
この1998年当時、タイは通貨危機の最中にあったから、書中にもでてくるバイクタクシーの衰亡の話や、バンコクから渋滞が消えた話、そしてバンコクっ子がワインをありがたがるのをやめて、再びタイ・ウィスキーに回帰しはじめた話などは、再度、経済成長を開始し、アジアの工業国としての立場を確立している現代のタイでは、すでに過去の話となっているかもしれない。ただ、その「当時」をタイではなく日本ではあるが、共有していた人間として、その時代を再度ふりかえって妙になつかしくなるのは間違いない。

章立ては

「道端のバンコク」
「バスの迷宮」
「タイ料理の進化論」
「南国の時間」

の4章

今の「タイ」であるかどうかはわからないが、我々のイメージの中にある南国の「タイ」にぴったりした旅のエピソードを提供してくれるのは間違ない。

それは

タイのタクシーはメーター制が主流になっているが、ひとたびスコールとなると、昔の交渉制の料金体系に変わっていく

とか

タイの野菜は、厳しい陽射しと肥料ももらえない状態でないと、あの辛味はでない

といったエピソード群であり、タイに浸って長い筆者によって紡がれる安心して読める「タイ」である。

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