北森 鴻 「瑠璃の契り」(文春文庫)

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美貌の古美術商 宇佐美陶子の旗師・冬狐堂シリーズ。 旗師とは店を持たない云々っていうのは、このシリーズを一度でも読んだことのある方なら、頭のどこかに記憶させられてしまうだろうから省略して、今回のシリーズでは、そうした厳しい商売をしている彼女に、飛蚊症という眼の障害が出る。 古美術商にとって眼は命。この病気を抱えた彼女の苦境につけこむかのように、様々なトリックやフェイクが仕掛けられる、ってな感じなのが、この一冊。

収録は

「倣雛心中」
「苦い狐」
「瑠璃の契り」
「黒髪のクピド」

の四篇。

登場する美術品は、木造の人形(倣雛心中)、若くして死んだ女性画家の抽象画(苦い狐)、色ガラスの切子椀(瑠璃の契り)、生き人形(黒髪のクピド)で、今までの陶器やら磁器、あるいは出土品といった、「古美術」という言葉から印象されるものとは、ちょっと違う品々が現れる。

それは、陶子や友人の硝子の過去の一面が少し明らかになるのとは無縁ではない。

「苦い狐」は、陶子の若い画学生時代と彼女が才能の限界を感じたエピソードとこの世界に踏み込むきっかけの一端が示されるし、「瑠璃の契り」は硝子の修行時代と彼女がプロのカメラマンとなった経緯を連想させる話が仕込まれている。

それにしても、このシリーズを読んで思うのは、古美術や骨董っていうのは、美術的価値とかや「美」を売り買いするっていうよりは、過去の「情念」や「思い」といったものを売り買いしているんだな、ってなことである。このシリーズに登場する人形にしても、周囲からは憶測もできない夫婦の感情を封じ込めたものや、過去の事件を封じ込めたものであるし、切子椀にしても、不幸な運命に見舞われた一家の「記録」というか「記憶」をその中に含んでいる。

そうした「情念」を鑑定し、評価し、そして値段をつけて売り買いするっていうのは、何か、その「思い」も背負い込むようで、因果ではあるが、味のある商売だよなー、と、最近は経営管理っぽい乾いた仕事をしている我が身と比べて思うのである。
きっと、そうしたあたりが、この作品の「静かな華やぎ」(ちょっと変な表現だけどね)に結びついているのだろう。

派手な殺人事件や社会的問題の暴露といった派手派手しいものはないけれど、しっとりと読ませるミステリーであります。

雨で部屋に降りこめられて、外に出る気になれない時にどうぞ。

お薦め度 ★★★★★

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このページは、が2008年12月14日 18:25に書いたブログ記事です。

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