古代日本の定番”北九州”の隠された秘密(関 裕二「古代史謎解き紀行 Ⅲ 九州邪馬台国編」)

 
古代史謎解き紀行も「ヤマト(畿内)」、「出雲」ときて、さてここらで主砲登場。万を持しての「旧九州」ということで「古代史謎解き紀行 Ⅲ 九州邪馬台国編」である。”主砲登場”の雰囲気は、「はじめに」で紹介されている、九州の短大のT教授が東京の歴史シンポジウムで「邪馬台国からやってきたTです。」と自己紹介したというところにも現れている。
 
とりわけ「邪馬台国」ネタというのは、単なる史実の解明というよりは、歴史的な疎外感と中央への反発といった感覚とないまぜになっていることが多く、邪馬台国=出雲論者が「古代の繁栄の喪失感」に彩られているに対し、邪馬台国=九州論者は「中央からの独立意識」に彩られているように思うのだが、これは個人的な偏見かも。ただ、邪馬台国=畿内論者もどうかすると、「昔は日本の中心なのに、なぜに今は関東・江戸に負けてるんや」というところが見え隠れするのが、この話題の難しいところか・・・・・。
 
さて、本書の構成は
第1章 久留米の謎と邪馬台国論争
第2章 大和(やまと)の台与(とよ)と山門(やまと)の卑弥呼
第3章 宗像三神と北部九州の秘密
第4章 宇佐八幡と応神天皇の秘密
第5章 天孫降臨神話と脱解王の謎
となっていて、「纒向」を古代複数勢力の寄合所帯と捉える観点から、邪馬台国の北進説を考えるとどうかしら、といったところが主眼。
 
筆者の古代勢力観は、ヤマト、吉備、出雲、北九州といったところが拮抗していて、それが蘇我、物部といった古代豪族へとつばがるといった感じで、一つの集中権力による支配の色合いが薄くて、最近の「リージョン」的な世界観に微妙にマッチしていて現代風といば現代風。
 
本書でちょっと覚えておきたいのは、神功皇后の関連で「武内宿禰」というこれからの第4巻、第5巻で重要な意味合いをもってくる人物がクローズアップされていること。
 
少しばかりネタバレをすると、筆者は北九州の卑弥呼を攻め滅ぼしたのが後継者と魏志倭人伝に出ている「台与」で、卑弥呼死後に国内を混乱させた男王が「武内宿禰」と目していて、そのあたりを日本書紀や古事記の応神天皇や神功皇后の記述に、いかに違和感なくマッチさせていくかが筆者の腕の見せどころで、ここは一般読者は筆者の案内に従って、レールの上を走るトロッコよろしくあららと楽しんでおけばよいような気がする。
新井白石の「邪馬台国偽僭説」とか日本霊異記の「仏像を豊の国に捨てた」といった話や「トヨの祟り」を当時の朝廷はひどく恐れたといった各種異説珍説もごろごろでてきて、「歴史読み物」のワクワク感とちょっと怪しげな風情が出てきているのが好ましいところ。
 
個人的な思いを言えば、日本書紀の書かれた頃の史実は正しいが、神話時代や欠史十代のあたりの話は皆うそっぱちという通説もちょっといい加減な気がして、人間何かしら事実の欠片や話の元ネタがないとえんえんと嘘もつけないのじゃないの、というのが本音ではある。こうした筆者の古代ヤマト政権への言説も、これはこれで正しいのかもしれないぞ、と思って、せんべいでもばりばり齧りながら楽しむっていうのが、素人なりに機嫌よく古代歴史とつきあうコツのような気がしているのである。

 

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