「紙の本は滅びない」かもしれない。では「電子書籍」は?

 
「戦う! 書店ガール」というTVドラマが渡辺麻友、稲盛いずみの主演で始まっていて、個人的に稲盛いずみの儚げで妖しいところがファンではあるのだが、鼻の下を伸ばして見るわけにもいかない状態ではある。ご存知の方はご存知のようにドラマの底本は碧野 圭「書店ガール (PHP文芸文庫)」であるようなのだが、「書店」という本を売る場所そのものが、小説やドラマの舞台となっていくのも、「本」とりわけ「紙の本」がいままで人類史で担った役割の大きさというものだろう。しかし、時代背景的に「紙」の「本」が、危機的状態と言われているのは間違いなくて、「書店人」による、「書店」のことを考えた、「紙の本」擁護、といっていいのが本書 福嶋 聡「紙の本は、滅びない」(ポプラ新書)である。
 
構成は
 
第1章 電子書籍は、紙の本に取って代われるのか?
 もしも、本がなくなったら/本は便利な「乗り物」/黒船来航?「電子書籍の衝撃」の衝撃/本、それはいのちあるもの/ヴァーチャルとアクチュアル/「ペーパーレスオフィスの神話」/本屋の起源/定本は、紙か電子か?/「本は、失くなるから、いい」/「Web2.0」の迷走/著作権をめぐって/そして、電子書籍三年/アマゾンはどうしてこんなに強いのか?/マテリアル・フリーなコンテンツなどない
 
第2章 デジタル教科書と電子図書館
 ミネルヴァのフクロウ/マルチメディア/「これまでの教科書は間違っている」?/もっと議論を/ICT化議論は、教育の理念の変遷を顧みさせ、いまのありようを問う/校務へのICT導入/大学と出版/「書店も図書館も元気です、か?」/長尾構想
 
第3章 書店は、今・・・
 書店は、今・・・/迷い込め、本の樹海へ/「魅力ある書店の棚づくり」/「仕事」と「しごと」/右肩下がり/再販制の弾力運用とゆらぎ/RFIDタグの可能性/専門学校受付とグーグル/「せどり屋」と再販制の逆向きの崩壊/「古書」『IQ84』/「せどり屋」とアマゾン/倉庫と売場/「情熱を捨てられずに始める小さな本屋。それが全国に千店できたら・・・」
 
となっていて、いくつか引用すると
 
本の価値はーそれが学問であれ虚構であれー読んではじめて、読書という体験を通じてのみ現実化する。本への書き込みは、その体験の「痕跡」である。その「痕跡」は、読者にとって、一種の外部記憶装置である。そう、書物とはその書物が誕生する以前に生まれたコンテンツの記憶装置であるとともに、「読書体験」そのものの記憶装置でもありえるのだ。
一方、デジタル化されたコンテンツには、弱点がある。外部環境依存性の強さと書き換え・伝播の容易さである。
 
 
かってはぼくも、われわれ書店は数百立法センチの紙の束を売っているのではない。そこに書かれた情報を売っているのだ、と言っていた。しかし、やはりわれわれ書店が売っているのは、紙の束なのである
 
といったあたりに紙の本にかける著者の情熱が伺われる
 
ただ、事前に申し上げると、私は電子書籍推進派である。紙の本も人並みに買う方とは思っているが、携帯に面倒なので、多くの本は初読の時から自炊してしまうことも多い。
 
そんな立ち位置や、ブログの標題にも掲げているように「辺境」からみると、今の書店展開、書籍の配本は以前にもまして「都会中心」になっている気がして、まるで江戸期の長崎や江戸に行かないと、最新あるいは専門の書籍は手に入らなくなっている気がするし、手に入れるにも時間が余計にかかる事態が出現していると思っている。それは書店人の責任にはないかもしれないが、そうした環境下で辺境の「書籍」入手は電子書籍、せめてもAmazonの配本に頼らざるをえないのではない、と思っているのである。
 
 
 

 
そうした目からみると、本書の
 
本が「モノ」であること、紙の上にしっかりとテクストが定着していること、その存在感が、神経を集中してその本に向き合い、その本の世界に入り、「農を創る」にあたって、大切な要素である。
それは単に習慣の問題だ。現にアメリカでは、電子書籍のシェアがどんどん増加して「紙の本」にリプレイスしていき・・・という反論には次のように言おう。
もう、いい加減、アメリカの後追いをするのはやめたらどうだろうか
 
というあたりには、欧米追随云々の議論と電子書籍と紙の本の話をごっちゃにするのかどうかな、とか
 
授業現場や校務へのICT導入が万能薬であるかのような言説は、そこに大きな利権が存在するがゆえのセールストークと見たほうがよい。
(中略)
「教育を、特に初等中等教育を、経済成長の手段にするようになっては、国はおしまいであろう」という新井の言葉は、まったく正しい。
 
といったあたりには、ICTは万能ではないとしても過疎部の教育の充実が図られることはないのかとか、そこここにガチと小石を噛んでしまうような感触を覚えるのも事実である。
 
ただ、電子書籍と紙の本では脳の使うところが違っているため、紙の本で読んだほうが記憶に残るといった学説もあるのは事実。また、著者の書店や図書館にかける熱い思いはいやな感じをうけるものではないし、さらには「書店が、読者を誘い、迷い込ませる空間となるためには、何よりもその書棚が魅力的なものでなければならない」といった件(くだり)には、書店に足を運びながら、そこまで「書店の書棚」というものを意識してこなかった自らの不明を恥じるものでもある。
 
 
「まったく在庫の問題を心配しなくてよい電子書籍の販売のために開発されたキンドルが、在庫問題を引き起こす可能性を持ってしまった」という本書の主張もスマホ普及率が全体で50%を超え、20代では70〜80%に達しようとし、スマホ向けのKindleやKoboアプリも普及した状況下では色あせて見える。
 
電子書籍愛好家として、「紙の本はなくならない」という筆者の主張に同調はしつつも、電子書籍は減らないよ、とあまり根拠はないのだが、力説してみてこのレビューは了としよう。

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