定番の猟師本ー千松信也「ぼくは猟師になった」(新潮文庫)

「山賊ダイアリー」がいわゆる猟師ブームを興したものといえるなら、そのブームを定着させたのが、この千松信也「ぼくは猟師になった」ではないかと個人的には思っている。山賊ダイアリーがどちらかというと「猟生活」の日常を淡々とレポートするに対し、アジア放浪、インドネシアなどの海外援助活動を経て、「猟師」となった記録である本書は、「猟」というものに「思想性」を持たせたという感がするのである。
構成は
第一章 ぼくはこうして猟師になった
 妖怪がいた故郷
 獣医になりたかった
 大学寮の生活とアジア放浪
 「ワナ」と「網」、ふたつの師匠
 飼育小屋のにおいがして・・・初めての獲物
 「街の中の無人島」へ引っ越す

第二章 猟期の日々
 獲物が教える猟の季節
 見えない獲物を探る
 ワナを担いでいざ山へ
 肉にありつく努力
 シカ、シカ、シカ、シカ、シカ・・・
 野生動物の肉は臭い?硬い?
 猟師の保存食レシビ
 毛皮から血の一定期まで利用し尽くす
 カモの猟期は根比べ
 スズメ猟は知恵比べ
 イノシシの味が落ちる頃
第三章 休猟期の日々
 薪と過ごす冬
 春のおかずは寄り道に
 夏の獲物は水の中
 実りの秋がやってきて、再び・・・
となっていて、漁師生活を始めた学生時代(といってもかなり留年をしているので、トウが立った学生ではあるが)から始まって、猟あるいは獲物の解体の仕方から、休猟期の暮らしまで、いわゆる「猟師の生活」のルポである。
ただ、当然、獲物を絞めるあたりでは、自らの手で罠にかかった如かとか猪を棒で「頭部をどつき」、失神させてトドメをさし、血抜き、解体といった作業で、少々エグいのは間違いない。ただそのエグさと猟生活とは不即不離なわけで、そこをきちんと描いている本書は、ありきたりの「ハンター本」と一線を画しているといっていい。
また、エコな云々とか、自然の命を云々とか、精神性のアピール度合いもボルテージが低いのも個人的には好印象である。
なんにせよ、フィッシングや家庭菜園と違い、やはりまだハードルの高い「狩猟」というもの。本書は、「自分でも」、というにはまだまだ動機付けが足りないが、自然とともに生きている人の一形態である「猟師」の生活を知る、初歩編としてよろしいのではないだろうか。
ぼくは猟師になった (新潮文庫)
木についた傷や足跡などからシカやイノシシの気配を探る。網をしかけ、カモやスズメをとる。手製のワナをつくる。かかった獲物にとどめをさし、自らさばき、余すところなく食べ尽くす―。33歳ワナ猟師の日常は、生命への驚きと生きることの発見に満ちている...

コメント

タイトルとURLをコピーしました