意識の慮外にあった古代マケドニアが以外に面白い ー 岩明均「ヒストリエ 5」

1巻の途中から、エウメネスの幼年時代から奴隷・放浪生活の回想に入り、ようやく4巻の最期でカルディアへの帰還となるのだが、5巻目では、そのカルディアからアレキサンドロス大王の父であるフィリッポス王との邂逅、マケドニアでの生活へと移る。
収録は
第39話 故郷カルディア・4
第40話 故郷カルディア・5
第41話 故郷カルディア・6
第42話 故郷カルディア・7
第43話 キュクロプス
第44話 深酒の王
第45話 アッタロスの家
第46話 大将軍の息子
第47話 進学と就職
第48話 王子・1
となっているのだが、「深酒の王」のところが芝居の舞台めいた構成になっていて、その中で「エウメネスに出会ってから6年経つが」といったフィリッポス大王の回想の場面が挿入されているので、筆者のイメージする「現在」はもう少し未来であるらしい。

マケドニアでまず世話になるアッタロスのところで、今後なにやらの展開が予測されそうなアッタロスの姪のエウリディケーや貴族の師弟と出会ったり、フィリッポス王の命令で、3〜4才の子供の喜ぶおもちゃを作らせられたり(王にはその年頃の子供はいないのだが、何故ってなところは本編で確認を)といった小ネタっぽいエピソードが多く語られる。
さらに、王宮図書館務めとなるリエピソードもこの巻ででてきていて、王宮図書館の膨大な書物、貴族の家譜といったものが、今後のエウメネスの智謀の冴えに影響しているような気もして、6巻以降の、今後起きるであろうマケドニアでのイベントあるいは成り上がり物語の基礎が収録されているといっていい。
私見なのだが、成り上がり物語っていうのは、成り上がっていく時点の景気良いエピソードを見るのもよいのだが、成り上がる前提となる彼を取り巻く人物や環境が解き明かされたりしているところを発見して、おお、ここに伏線がはってあったかと後で再発見するのも楽しみの一つであって、そのためにも、この辺りのエピソードは丁寧におさえておきたいところである。
また、このシリーズ、作者の基本的な傾向もであるのだろうが、あちこちに人生のそこかしこの場面で、使えそうなフレーズが散りばめられているのも読みどころで、例えば、フィリッポス王がカルディアの門を開かせて街を出る際の
問題は持続力なのだ。
門を開きっぱなしにする・・・
それには多少の「腕力」がいる
門をただ開けるだけなら「腕力」はわずかでよい
最も有効的と思われる箇所にチョンと軽く加える・・・
といった征服と支配に関するような意味深な言葉にふむふむと思ったり、
エウメネスと一緒に行きたいという兄に対し
壁の外の世界はさまざま変化に富んで面白いよ・・でも
強い覚悟を決めなきゃならない事もある
きみは無理をして城壁の外へ出るべきではないと思う
と断ったに対し、フィリッポス王が
あまり夢のないことばかり言うな。
おそらくヘロドトスもわりと気楽に世界を旅したのではないかな・・・
と所与の環境からの脱出の難しさと、脱出する者は案外考えなしに脱出しているのかもといった、決意の重さよりよりも思い切りのよさのほうが行動力の源泉としては大きいのでは思ってみたりするのである。
この稿の締めとして、フィリッポス王のアレクサンドロスとエウメネスの二人の才能の違いを象徴する
3度戦ったとしよう!
先の2戦はアレクサンドロス!
最後の1戦でエウメネスが勝つ

味方1万の兵のうち3千が討ち取られたとするな?
・・・すると
その3千の中に勇敢なお前(アレクサンドロス)の首があるような気がするのだ
対してエウメネス軍1万のうち9千を討ち取っても・・・その中にヤツの首は無い
を引用して了としよう

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