下川裕治「週末ベトナムで、ちょっと一服」(朝日文庫)

沖縄、台湾、タイと辿ってきたら、次は「ベトナム」を触れねば、東南アジアの旅とはいえまい、ということで、下川裕治流の
「ベトナムに来ると元気になる」
そういう日本人が多かった。僕もそうだった。ベトナム人は若く、疲れを知らない恵笑顔を浮かべ、ぐいぐいと迫ってきた(P8)
 という「ベトナム」である。
構成は
第1章 デタム通りの二十年
 日本からベトナムへの週末フライト
第2章 五千ドン、二十五円の路線バスがホーチミン・シティの足になる
 ホーチミン・シティの空港から市内へ。問われる視力
第3章 ベトナム勝利に姿を変えたフランス料理
 ホーチミン・シティの麺料理で米の七变化を味わう
第4章 チョロンからはじまった「フランシーヌの場合」世代の迷走
 ディエンビエンフーで描く「戦争の美学」
第5章 コーヒーの花を求めてバンメトート
 土足厳禁。ベトナムの長距離バス
第6章 ハノイに漂う中国を歩く
 ハノイ・ヒルトンという捕虜収容所
第7章 田舎と都市の格差に潜む社会主義
 とにかく遠い、ベトナムの列車旅
第8章 在住者がすすめる週末ベトナム
 現地の生活に溶け込むローカルな週末
 子供を連れて「プチ・リゾート」へ
 ローカル石場で出合うお宝雑貨
 ホーチミン発、温泉週末ツーリングのススメ
 ベトナムの軽井沢、”ダラット”
となっていて、通常の旅行記のように
ベトナム料理は器が違っても、ハーブたや野菜の山盛りが黙っていてもでてくる。フォーという代表的な麺もそうだ。ブンチャーというハノイ生まれのベトナム風つけ麺にも大量のハーブがついてくる。(P82)
バゲットに切れ目を入れ、そこにレバーペーストを塗り、最後にヌックマムという魚醤をふりかけるバインミーというベトナム風サンドイッチをつくりあげてしまった。・・・バゲットそのもの味も、フランス仁にしたら、ひとこといいたかったのかもしれないが、バインミーまでベトナム可すると、諦めるしかなかった気もする。バゲットも最後のところでベトナムの食べものになって広まっていった。(P94)
といったところから、ムール貝、フォー屋のビーフシチュー、ベトナムコーヒーなどベトナムの食の探訪的なところはきちんとおさえてあって、さすがに「フランス人は街づくりの詰めは甘かったかもしれないが、料理は残していった。(P92)」というフランスの植民地であったためのヨーロッパの美食とアジアの美食が融合したベトナムの魅力を伝えてある。

しかし、本書の真骨頂は、ベトナム戦争の時期に青春時代を過ごしていた「安保世代」の筆者が、その当時にベトナムに抱いていた印象と、今のベトナムの落差に戸惑うあたり。そこは長い間、中国の領土であった歴史をもち、社会主義の期間も長い北ベトナムと、中国と対立し、資本主義の経験も豊富な南ベトナムという南北に長く、それぞれの独特の歴史も長い地域が一つの国になっているというところから生じる、両地方の精神的な「距離感」でもあるようで、
「だいたい北と南は三百年前から別ば越だったんだよ。それを民族が一緒だからといって、ひとつの国になるというのもね」(P114)
ベトナム人にとって、民族統一を拒んでいるわけではなかった。民族というものへの意識が揺らぐのだ。彼らが民族統一を拒んでいるわけではなかった。しかし分断されたほかの国々に比べると、どこか熱意が薄いようにも映る。(P126)
といったところに現れていて、同じ東南アジアでも、タイやカンボジアといった国と違う「ベトナムの特殊さ」であろうか。
同じ東南アジアでも、筆者お得意の「タイ」「カンボジア」とは少し違った「ベトナム」でありますな。

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