「若者世代に」ではなく、「現役世代」への提言書と捉えるべきか ー 常見陽平「できる人」という幻想(NHK出版新書)

「ノマド」や「就活」など加熱気味となる様々なデキゴト・モノゴトに「?」をつけることで、時折、物議を醸し出す常見陽平氏がの、辛辣であるが、当たっている所も多い「デキる人」への幻想に対する批判本である。
構成は
第1章 入社式にみる平成「働き方」史
第2章 「即戦力」はどこにいるのか
第3章 「グローバル人材」とは誰のことか
第4章 そこまで「コミュ力」が必要ですか
第5章 「起業家」は英雄なのか
終章 若者の可能性にかけるな
となっていて、批評の対称となるのは、あちこちの会社や就職相談会、ビジネスの商談会などで、したり顔あるいは自慢顔で語られるフレーズにまつわるあれこれで、その切れ味がかなり鋭い。
例えば入社式で語られる「チャレンジ」「挑戦」「プロ」「国際感覚」「創造性」「個性」といった言葉に関連して
入社式の訓示は、経営者こそが意識すべきである。これは正論だ。暗い時代お入社式を振り返ると、本来は経営者が考えるべきことを若者に添加していると感じてしまう。(P37)
と声高に語る会社のエライ人に横から冷水をかける。
さらに、第二章の「即戦力はどこにいるか」では、採用担当者のアンケートで「即戦力とは?」という問いに、「優秀であること」といったなんともな答えが多かったという「即戦力」という言葉の曖昧さというか、中身のなさも白日のもとにしてしまうのである。

極めつけは、何をしているかはわからないが、とにかくなんかスゴイ人であるらしい「起業家」についても
思うに、起業家というのは、いまやライフスタイルの一つではないだろうか。「何者かになりたい」という衝動の表れである。彼らは、会社に縛られていないようで、夢に縛られる「夢畜」と化していくのである。「できる人」という幻想のなれの果てだ。(P208)
と、起業家を、辛口が好きか甘口かといった食べものの好みのようにかる~く扱うのである。
ただ、筆者の主張の肝は、最終章で語られる「若者の可能性だけにかける」という言葉に集約されているようで、若者にしゃにむに強さとやる気を求めるのではなく、もともと経験も少ない若者に期待するなら、具体的な、金、チャンスといったサポートをしろよ、と当方のような現役世代あるいは引退したての世代に対する「(柔道のような)指導」なのであろう。
これからの社会、どうしたところで若者に任せるしかないわけだが、そうであるなら、普通の若者が活躍し、張り切れるような「場」を用意すべきであろうだろ、という現役世代あるいは今、決定権を多く持っている世代への注文とエールと思うのだが如何であろうか。

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