”What Is life?”(人生とは何か?) — 小野美由紀「人生に疲れたらスペイン巡礼ー飲み、食べ、歩く800キロの旅」(光文社新書)

アジアやフランス・ドイツといったところを歩く若い女性の旅行記は珍しくないのだが、スペインのしかも「巡礼の旅」という題材は珍しい。
構成は
第1章 スペイン巡礼とは何か
 カミーノ・デ・サンティアゴ7つの魅力
 スペイン巡礼基礎知識
 巡礼の費用と持ち物
第2章 わたしの巡礼
 緑の山脈を越える、肉体の道
 草原をひたすら歩く、頭の道
 ゴールに向かう、魂の道
第3章 自分らしい巡礼路を楽しむために
 巡礼路は一つではない
 美食のスペインを味わい尽くす
となっていて、目次を見た段階では、ありきたりの旅に飽きてしまった女性ライターが、巡礼の旅に挑戦。巡礼の旅の途中で出会う美食とハプニング、そして旅の案内といったところか、と思っていたらそうではなかった。
仕事に疲れてパニック障害になり、仕事を辞めた筆者が、韓国人の宗教学者で、世界各地の聖地を巡っている金教授に言葉を思い出し、再出発をするためにスペインのカミーノ・デ・サンティアゴの巡礼に赴くといった内容が第2章。
なので、第1章、第3章の巡礼の旅のガイド的なところと第2章の巡礼のルポのあたりは風合いがかなり異なると思っておいたほうがいい。
で、巡礼の旅と言うと、近くは四国の札所巡りがあるのだが、筆者が触発された金教授の言葉とは
人生と旅の荷造りは同じ。いらない荷物をどんどん捨てて、最後の最後に残ったものだけが、その人自身なんですね。歩くこと、旅することは、その「いらないもの」と「どうしても捨てられないもの」を識別するための作業なんですよ、聖地というのは、すべて、そのための装置なんです。私の人生は残り長くて20年ぐらいだけど、その間にどれぐらい、いらないものを捨てられるかが、「自分が何者だったか」を決めるんです
という。およそ「旅のススメ」とは異なったもので、巡礼の旅とはそうした言葉にsんボライズされるようなものであるらしい。
で、旅の行動的には、「35日をかけてフランス南部 サン・ジャン・ピエド・ポー から聖地サンティアゴ・デ・コンポステーラを目指して歩く(時折、タクシー、バスを利用する人はあるらしいのだが)旅」なのだが、「巡礼旅」らしく、アウトドアやウォーキングの旅とは違い、出会う人も、旅好きだった夫と3年前に死別し、その気持ちを整理するために巡礼旅をするアメリカの女性であったり、知的障害のある兄と会社経営をしている父親と同行している、実は親と仲の悪い弟であったり、就職難で喘ぐ韓国から父親と喧嘩の末一時逃げ出して巡礼旅をする韓国の女子大学生であったり、それぞれの事情が重たいのである。
筆者はこの34キロを歩く旅の中で、出会った人から
あなたはまだ、他人の時間に引きずられているのよ。都会の慌ただしくて、人に左右される時間のまんま。でも、それじゃ体を壊しちゃうわ
とか
毎日、月曜日だ、火曜日だと思ってする仕事はいけないよ。毎日が土曜、日曜、祝日と思えるような仕事に就きなさい。私は働いていた41年間、1日も”仕事をした”と思ったことはないよ
とか
人が人に何かを与える方法ってたくさんあるわ。でもそれは人それぞれ違う形なの。・・一つだけそれを見つけるために必要な言葉を教えてあげる。”Do what you want to do”(あなたがやりたいことをしなさい)よ
といった言葉をかけられながら、病み疲れた心を癒し、解放し、新たなステージに移って(あえて登っていく、という表現はやめておく)いくのだが、そのアドバイスも、筆者のそれぞれの心のステージごとの色合いに沿ってなされていくっていうのが、やはり「巡礼旅」というものであろうか。
旅の途中、ブラジルから来たマルコスから発せられた”What Is life?”(人生とは何か?)という問いに筆者が旅のゴールでどういう結論を出したか、は本書を読んでもらうとして、久々に「硬派」な旅行記でありました。

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