”自転車ロードレース”は戦略ゲームと捉えるべきか? — 近藤史恵「エデン」(新潮文庫)

前作「サクリファイス」で、日本ではあまり馴染みの無い「自転車ロードレース」というスポーツの世界を描き出されたのだが、本書は「サクリファイス」の主人公であった「白石 誓」の続編。

「サクリファイス」の最後の方で、スペインのチームからスカウトがかかっていたのだが、本作では、そのスペインのチームでアシストとしての実績をあげ、フランスのアミアンを本拠地とする”パート・ピカルディ”に移籍して、相変わらずクライマーでアシストというチーム内の位置関係にあるところは前作と引き続き。

本書の構成は

第1章 前夜

第2章 一日目

第3章 四日目

第4章 タイムトライアル

第5章 ピレネー

第6章 暗雲

第7章 包囲網

第8章 王者

第9章 パレード

となっていて、ツール・ド・フランスでの三週間あまりのチームの競技の様子がメインで、主人公の”誓(チカ)”は、チームのエースである、フィンランド人のミッコのアシストが役目なのだが、実はチームが解散の瀬戸際にいて、フランスの別チーム”クレディ・ブルターニュ”のエース”ニコラ”のアシストも、監督命令としてさせられる、という複雑なお役目も追加される、というのが今回のバックグラウンド。

自転車ロードレースというのは、自転車競技であるから当然、体を使うことがメインであるのだが、このシリーズを読んだら解るように、決してマッチョなだけのスポーツではない。むしろ、レースの駆け引き、それは相手を打ちのめすだけでなく、他チームを倒すために、時に敵と組んだり、一部のレースは手を抜いたり、といった複雑なものであるらしく、このあたりは、真っ向一本勝負の大好きな日本人には少し苦手な類であることは確か。

ただ、それは”スポーツ”、”記録競争”と見るからそうなのであって、”戦略ゲーム”の種類と思えば、レースで風除けともなる先頭を複数チームで代わりあったり、エースを勝たせるために”逃げ”てペースを撹乱したり、レースの速度コントロールを共同でやったり、とかあれこれとした作為も、作戦の一つ一つとして楽しめる。実際のところ、本書のレースの記述は、ほとんどがそうしたレース上の駆け引きと、エースを勝たせるため、そして、その隙間を縫って自分の成績をどう上げ、どうアピールするか、といったことがほとんどで、読んでいるうちに感情移入してしまうのは、作者の手練れの故か。

で、結局の所”パート・ピカルディ”は解散するようなのだが、レースの結果のせいか、主人公は、なんとかヨーロッパの別チームに移籍が叶いそうで、これからも”チカ”のロードレース参戦記が読めそうなのは嬉しいところでありましょうか。

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