敗れた者の物語再び —  伊東 潤「城を噛ませた男」(光文社)

先だっての、”敗れた者”の物語の続編というべきのなのが本書で、時代背景は戦国末期の天下統一の頃。というのも、「敗れた者」の物語に心惹かせるには、強大で、しかも狡猾な敵方の奸計に落ちたり、あるいは奸計に落ちつつあると知りつつも・・、といったことが必要であるような気がする。

その点で、本書の収録は

「見えすぎた物見」

「鯨のくる城」

「城を噛ませた男」

「椿の咲く寺」

「江雪左文字」

となっているのだが、すべてが敗者の物語ではなく、敗者をつくった者の物語など、敗者にまつわる様々な物語ということで、”変形版”というのが正しいか。

例えば、「鯨のくる城」は豊臣秀吉軍に包囲された北条氏の支城で鯨を使って奇想天外な撃退戦を挑む物語であるし、「城を噛ませた男」は、今の大河(真田丸)でおなじみの真田昌幸の謀略物語で、ちと苦味のある話である。そしてこういった「敗者」の話をと読み続けると、敗者になるべきしてなる条件というものはほとんどなくて、いわば運次第というものであると思うのだが、敗者と敗れなかった者の分け目は「江雪左文字」の主人公が父親に言われる

「人は望んでも手に入らぬものには妬心を抱く。それゆえー」

「刀は鈍いように見せておかねばならぬ。いざという時にだけ、その切れ味を見せればよいのだ」

といったところにあるのかもしれない。

といっても「敗者の物語」は結構な苦味を持つものもあるので、あまりたくさんを一挙にはよくないかも。すこしづつ服用すれば、よい薬となりましょうね。

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