我々の血肉は「歴史」でできている — 出口治明『仕事に効く、教養としての「世界史」』(祥伝社)

ライフネット生命の社長である出口治明氏による世界史。

もともとは日本生命の重役で、ネットによる生命保険という革命的ともいえるビジネスモデルを創造したビジネスマンが「なぜ世界史の執筆?」という疑問が当然生じるわけで、詳しくは、本書の最後の「おわりに」のところを参照願いたいのだが、子会社への出向、本社での出世をあきらめたあたりが発端とは、当方も含め仕事面での不遇感にかられている向きには沁みる動機ではある。

さて構成は

第1章 世界史から日本史だけを切り出せるだろうか

ーペリーが日本に来た本当の目的は何だろうか

第2章 歴史はなぜ中国で発達したのか

ー始皇帝が完成させた文書行政、孟子の革命思想

第3章 神は、なぜ生まれたのか。なぜ宗教はできたのか。

ーキリスト教と仏教は「いかにして誕生したのか

第4章 中国を理解する四つの鍵

ー難解で大きな隣国を誤解なく知るために

第5章 キリスト教とローマ協会、ローマ教皇について

ー成り立ちと特徴を考えるとヨーロッパが見えてくる

第6章 ドイツ、フランス、イングランド

ー三国は一緒に考えるとよくわかる

第7章 交易の重要性

ー地中海、ロンドン、ハンザ同盟、天才クビライ

第8章 中央ユーラシアを駆け抜けたトゥルクマン

ーヨーロッパが生まれる前の大活劇

第9章 アメリカとフランスの特異性

ー人工国家と保守と革新

第10章 アヘン戦争

ー東洋の没落と西洋の勃興の分水嶺

終章 世界史の視点から日本を眺めてみよう

ということで、中心はヨーロッパ、アジア、アメリカの建国あたりの歴史書であるのだが、通史というわけではなく、出口氏の視点による歴史観といった風情で、例えば

当時の日本(倭)は中世のスイスのような一種の傭兵国家であったのではないか。そして、当時の韓半島や中国は分裂状態で傭兵のニーズが高い、特に九州に近い百済からのリクルートは強く、絶え間ない傭兵出撃に備えて、韓半島に傭兵たちの駐屯集落が会っても不思議ではない。それが後にいう任那の日本であったのでは

とか

ペリーの来日目的は、太平洋航路を開いて中国と直接クエ岸、大英帝国に内書くためであって、鯨が目的ではなかった

とか

中華思想は、中国が自分からいいだしたことではなくて、周囲のひtびとが勝手に中華ってすごい、中国ってすごい、と思い込んでしまったのが始まり

中国という国は、少なくともこれまでの歴史の上では、実はあまり対外的には侵略的ではない。むしろ侵略者を飲み込んでしまうところにある

といったあたりは、当方の常識として思っていた所を揺さぶってくれるし

イギリスの本質は、必要なものは、国王であってもよそから持ってくる。多少は理屈に合わなかったり、見てくれは悪くても、国が豊かになることを最優先させること

アメリカとフランスはともに人工国家であるところに特徴があって、実利ではなく理念を表に出すところに共通性と、いつも対立する理由がある

といったところは、それぞれの国の知り合いを思い浮かべれば面白い。

なかなかにふむふと唸らせられる歴史論が展開されて、さくさくと読めるのだが、最後に、身の処し方の羅針盤として

真の保守主義には、イデオロギーがないのです。観念的な丈夫恋うぞうが持っている世界観と、保守主義は無縁です。人間がやってきたことで、みんなが良しとしていることを大事にして、まずいことが起こったら直していこう。それが保守の立場です。

という言葉は、とかく「理念」に熱くなりがちな、当方を含む日本人の戒めとしようか。

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