さて ” Nippon” は勝利の道を歩めますか — 酒井祟男「タレントの時代ー世界で勝ち続ける企業の人材戦略論」(講談社学術文庫)

なぜ、日本のメーカーはこんなに凋落してしまったのか・・、という素朴な疑問を偉大いる向きであれば目を通しておきたいのが本書。最後のあたりは、「日本はエライ」「トヨタはすごい」という技術革新の礎とルーツは日本であった風のところは少々、大東亜共栄圏的な風味がして、うーむと思わないでないのだが、一時期一世を風靡した「MBA」に代表されるアメリカ式経営学が、日本のメーカーが凋落した原因といいきる辺りは小気味よくて「良し」である。

構成は

第1部 タレントの時代

1「ものつくり敗戦の正体」

2 時代の変化1 市場の成熟化=製造技術の成熟化

3 時代の変化2 情報化・知識化・グローバル化

4 売れる商品は設計情報の質で決まる

5 設計情報の質を決める人達

第2部 タレントとは何か

1 企業の活動を情報視点で見る

2 人間の労働を情報視点で見る

3 人のキャリアを情報視点で見る

4 タレントはどんな人たちか

第3部 タレントを生かす仕組み

1 なぜタレントを生かすのは難しいのか?

2 ソニーの失敗

3 トヨタのタレントを生かす仕組み

4 米国が学んだトヨタ

5 シリコンバレーのシステム

となっていて、第1部で「ものづくりの肝」は何かというあたり、第2部で、その”肝”を作りすのはタレントであること。第3部で、そのタレントをどう発見し育成するか、というのが主たる内容。

第3部の後の方は、トヨタの「主査制度」が論述の中心になってくるので、半ば強制的に「トヨタ方式」を学ばされる当方を含む管理的あるいは総務的なセクションのビジネスマンには少々食傷気味のところがあるので、眺め読みでも構わないだろう。

個人的に、ほう、と思ったのは、第1部では、「設計情報」についてのところ

設計情報とは「商品を作り出す上で必要かつ十分な全ての情報を含んでいるもの」で

設計情報のような「価値をつくりだす」ことが先進国では労働の多くを締めている。知識や情報を活用した、いわば「情報創造活動」が、先進国で働く人達の実質的な労働なのだ。それは同時に、先進国の企業活動そのものでもある。(P71)

とし、

スターバックスが所有している最も重要な試算は「ノウハウ」などの無形資産であって、各店舗の設備や不動団といった目に見える固定資産ではない(P74)

サービス業でももちろん、利益の大半を稼ぎ出すのは設計情報である。私達が買っているのは設計情報だからだ。スターバックスで私達が買っている価値は、スターバックス各店舗の従業員が生み出した価値ではない。彼らの労働は、いわば台本通り設計情報を転写しているだけである。(P75)

といったあたりを読むと、とかく現場の独自の「カイゼン」とか従業員の自主的な活動や朝礼などの精神活動に頼りがちな日本式の品質管理は・・と思わないでもない。

で、こういった「設計情報」を作り出すのが本書でいう「タレント」という人材で、それは『プロフェッショナルやスペシャリスト達を使って「質的に異なる新しい何か」を生み出す』で、タレントを中心に富を生み出す社会になりつつある、ということらしい。

そして第2部、第3部では

結局、定形労働の品質と生産性を高めて、原価を徹底的に引き下げた分を、こうした創造的労働に投資して、質の高い設計情報や優れたノウハウをつくりだすことが、日本と日本企業の生きる道である(P149)

とか

企業経営の専門家が実際の企業経営に成功している例はわずかしかない。その場合も学校で学んだ経営学の知識で成功している人はまずいない。じつは、経営学やMBAが役立つ業種や企業は、最初から限られているからである

MBAのプログラムでは、本書で述べてきたような設計情報の創造やノウハウ創造のような、知的資産をいかにしてつくりだすかというプロセスについては一切教えていない。その代わり、他人のつくった資産ゃ天然資源のような有形の資産を評価したり売買したりといったことが教えられている。(P189)

旧式の米国式経営や、学校で教えている経営学が有効なのは「古典的な資産」とか「権利」のようなシンプルな財を扱う単純なビジネスの場合だけである(P197)

と、一時期もてはやされた米国式経営とかMBAとかが形無しなので、当時、肩で風を来てっていた輩をいまいましく思っていた方々には溜飲が下がるかもしれないが、その反動で、集団行動や日本式の規律や精神性に妙に傾斜し始めた中で、果たして”タレント”の行動が思う存分できるかどうかは、経営陣がどう采配するかにかかっているということか。

本書での直接の対象は、企業経営ではあるが、自治体運営を含めた公的セクターの運営でも”タレント”の重要性は変わらぬように思う。タレントの発掘と、リソースの提供を、さて首脳陣はできるかどうかが、日本の企業や政府・自治体の浮沈にかかっていると思う所でありますな

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