出版社営業という馴染み薄い職業の持つ面白さ — 大崎 梢「平台がおまちかね」(創元推理文庫)

ひと頃、書店ないしは書店員の内幕的なことが流行ったことがあったのだが、月日と流行の過ぎるのは早いもので、書店より校閲という地味なのに妙に華やかな女優さんを使ったドラマが人気を博したばかり。

「平台がおまちかね」はそのどちらにも属さない、出版社の「営業マン」という、どうかすると消費者や作家に直に接しない分、書店員より地味なお仕事の周辺で起きるミステリー。もっとも、殺人や強盗、国家や企業転覆の企みなんぞは起きないので。安心して読めるソフト・ミステリーの類ではある。

収録は

平台がおまちかね

マドンナの憂鬱な棚

贈呈式で会いましょう

絵本の神様

ときめきのポップスター

の5編で、主人公である「井辻智紀」が新入社員として入社して、外回りでいろんな人物やいろんな謎に出会いながら成長していく、という物語ではあるのだが、恋愛沙汰はでてこないのでそこは注意のほど。

いくつかレビューすると、冒頭の「平台がおまちかね」は妬心から離れた小さな書店でどういうわけかそこだけのベストセラーが発生。その書店に何度も出向いている中で、全前任者と書店主との壊れてしまった信頼関係を再構築するとともに、主人公のジオラマ作成という、オタクそのものの性向も暴露される。

中ほどの「絵本の神様」は東北地方の書店を舞台にした、叔父叔母夫妻と甥の、最後はほっこりとする物語。単純化すれば、故郷を棄てた芸術家が故郷で再び家族愛の暖かさを再発見するお話

といった具合で、書店を舞台にしているのは間違いないのだが、本や書店を直接ミステリーのネタにしているところでないのが斬新であるし、主人公を含め登場人物が「良い人」のオンパレードであるところが、安心して読めるところである。「イヤミス」や「社会派」はうーむ、かといって「本格モノ」は肩が凝るよね、という向きにオススメである。

なお、この物語の主人公、本好きであることはそうなのだが、のめりこむタイプで、いれこんだミステリーはその舞台をジオラマでつくってしまうというオタクな趣味の持ち主。

いつか、名作ミステリーの間違いを、そのジオラマ作成で気づいてしまう、それがまた事件を生み、なんてな楽屋落ち的なモステリーも読んでみたいものでありますな。

コミック版もありますねー201809.24追記

 

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