100年長寿社会の陽の側面 — リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット「LIFE SHIFT – 100年時代の人生戦略」(東洋経済新報社)

「高齢者」の定義を”75歳以上”にしようといった、年金支給開始年齢の引き上げ云々を疑われるような話題もでてはいるのだが、日本の”国民年金”といった制度とは無縁のアメリカで出たビジネス書であるゆえ、ここは先進国での長寿化に対応した、人生設計の見直しとそれにあわせた労働環境についての純粋な提言書として読んでおこう。

ただ、アメリカも、例えば企業年金であるとか老後資金の備えについては、日本と共通の問題でもあり、これから急激な労働人口の減少と高齢化の進展に直面する日本、そして我々にとっては特に切実な問題といっていい。

構成は

序章 100年ライフ

第1章 長い生涯ー長寿という贈り物

第2章 過去の資金計画ー教育・仕事・引退モデルの崩壊

第3章 雇用の未来ー機械化・AI後の働き方

第4章 見えない「資産」ーお金に換算できないもの

第5章 新しいシナリオー可能性を広げる

第6章 新しいステージー選択肢の多様化

第7章 新しいお金の考え方ー必要な資金をどう得るか

第8章 新しい時間の使い方ー自分のリ・クリエーションへ

第9章 未来の人間関係ー私生活はこう変わる

終章 変革への課題

となっていて、1945年、1971年、1998年生まれの世代の比較を行いながら、100年のライフステージ下における「職業生活」「資金計画」「人間関係の構築」について語られている。

事の発端は、21歳ぐらいで教育期間を終え、60歳ぐらいまで働いて引退し、70歳で世を去るという1945年生まれの世代の「3ステージの人生」が、1971年生まれの、85歳ぐらいまで生きる世代、1998年生まれの100歳ぐらいまで生きる世代では、公的年金の運営困難による老後資金の調達難から、長い間働かざるをえなくなり、さらには医学の進歩により、健康に過ごせる期間が長くなることにより夫婦・親子・友人といった人間関係の変化も、といったことにある。

どうも、今回の著作は前著の「ワーク・シフト」よりは歯切れがわるく感じる。というのも、ワーク・シフトの中では好意的に捉えられていた技術の進化がAIの登場により、「コンピュータの処理能力が高まれば高まるほど、雇用の空洞化は加速する。高スキルの労働者も、テクノロジーに補完されるのではなく、代替され始める」といったむしろ負の影響も持ち始め、

テクノロジーによって消滅しない職に就きたいのなら、次の2つのカテゴリーから職を探すべきだ。一つは、人間が「絶対優位」をもっている仕事、もう一つは、人間が「比較優位」をもっている仕事

であり、

長い間働くジェーンは、生涯を通じてより多くの変化を経験し、より多くの不確実性に直面する。そこでジェーンに必要になるのは、もっと柔軟性をもって、将来に宝庫言うてんかんと再投資をおこなう覚悟をもっておくことだ

といった「不確実性」の幅が増していることにあるようだ。

ただ、まあ、こうした未来に関して不確実で不安の多い課題について、アメリカ人の著作らしく希望の光が垣間見える処方箋を見せてくれるところで、本書では「エクスプローラー」「インディペンデント・プロデューサー」「ポートフォリオ・ワーカー」のステージが提案されていて。

「エクスプローラー」とは

エクスプローラーは、一箇所に腰を落ち着けるのではなく、身軽に、そして敏捷に動き続ける。身軽でいるために、金銭面の制約は最小限に抑える。このステージは発見の日々だ。旅をすることにより世界について新しい発見をし、あわせて自分についても新しい発見をする

あらかじめ1年と決められたギャップイヤーとは違う。それはもっと長期間続く人生のステージだ。

エクスプローラーとして生きるのに年齢は関係ないが、多くの人にとって、このステージを生きるのにとりわけ適した時期が三つある。それは18~30歳ぐらいの間、40台半ばの時期、そして70~80歳ぐらいの時期である。

というものであり、

「インディペンデント・プロデューサー」とは

旧来の起業家とは異なる新しいタイプの起業家になったり、企業と新しいタイプのパートナー関係を結んだりして経済活動に携わる。旧来のキャリアの道筋からはずれて自分のビジネスを始めた人たちがこのステージを生きる。・・・特定の年齢層に限定されるステージではない。インディペンデント・プロデューサーとは、ひとことで言えば、職を探す人ではなく、自分の職を生み出す人だ。

インディペンデント・プロデューサーは基本的に、永続的な企業をつくろうと思っていない。事業を成長させて売却することを目的にしていないのだ。彼らが行うのは、もっと一時的なビジネスだ。・・・このステージを生きる人たちは、成功することよりも、ビジネスの活動自体を目的にしている

というもの。さらに「ポートフォリオ・ワーカー」は

異なる種類の活動を同時に行うのがポートフォリオ・ワーカーだ。ほかのステージと同様、これも特定の年齢層には限定されない。

この人生のステージでは、必然的にいくつもの動機に突き動かされて生きることになる。金銭的資産を増やすことも動機の一つになるし、人生とさまざまな可能性を探索することも動機の一つになる。

ポートフォリオ・ワーカーへの移行に成功する人は、早い段階で準備に取りかかり、フルタイムの職に就いているうちに、小規模なプロジェクトを通じて実験を始める。興味をもてそうなプロジェクトを試しに実行し、自分がなりたいポートフォリオ・ワーカーのロールモデルを見つけ、社内中心の人的ネットワークを社外の多様なネットワークに変えていく。

といったものであると紹介されている。

感ずるに、いずれも「変化への対応」と「移動」ということが組み込まれているようで、その意味で、いままでの3ステージのライフスタイルの「定着」「安定」イメージが薄くならざるを得ないのだが、長寿化と長期間の労働が必須になる社会を前提とすれば必然ともいえ、さらには収入手段も「ギグ・エコノミー(インターネットを介して単発のしごとを受注する仕組み)を活用するケースが多く」なるなど、今までの雇用形態とは結構変質しそうである。

保護主義、安定主義の志向を強めつつあるような今の時代であるが、いずれみせよ長寿で長い期間の職業生活を機嫌よく働いていけるように、既存の企業や政府・自治体をあてにせず、個人で準備を始めたほうがよさそうではありますね。

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