曲者の組織論の奇妙な味 — 佐藤 優「組織の掟」(新潮新書)

鈴木宗男事件で連座して外務省を退職後、国際問題から現代政治、情報管理まで、守備範囲の広い文筆家として大成した、佐藤 優氏の組織論。

構成は

第1章 組織は自分を引き上げてくれる

第2章 上司には決して逆らうな

第3章 人材には適した場所がある

第4章 デキる部下を見極めよ

第5章 問題人物からは遠ざかる

第6章 人間関係はキレイに泳げ

第7章 ヤバい仕事からうまく逃げろ

第8章 斜め上の応援団をつくれ

となっていて、読む前の印象としては、事件によって組織を追われた氏の経歴から、組織には真っ向から批判的ではと思っていたのだが、

私は組織を嫌っているわけではない、なぜなら、組織には、独特の「人間を引き上げてくれる力」があるからだ。特に社会人になってからの最初の10年間は、どのようなlk医号や官庁に就職しても、新人が組織から吸収する内容のほうが、組織に貢献するよりも圧倒的に大きいのである(P4)

組織には、個人を強制的に鍛え、スキルを身につけさせる仕組みがある。中にはその組織にいるからこそ身につく専門的な技能もある(P19)

といった具合に、組織の有用性をきちんと認識しているところが流石というところではある。

ただ、素直な組織肯定の「組織論」かといえば、

もし上司の言うことがおかしいと思った場合には、3回まで反対意見を言ってもいい。3回意見を言っても、上司が同じ命令を下すときは、「わかりました」と答えて、命令を遂行することに全力を尽くす(P31)

とか

要は上司の方に、仕事を振らないほうがいいと判断してもらえばいいのだ。・・ただし、能力が低いことをアピールすると他の仕事にも支障をきたすので、個人の信条や性癖に基づいた理由のほうがいい。(P49)

会社も役所も競争社会だ、競争で勝つ人が出れば、必ず負ける人も出る。それだから処遇に不満がある人は必ず出てくる。このような状況で、処遇を改善するにおはどうしたらいいか。

有効な策としては、自分で文句を言うのではなく「あいつの処遇はちょっとひどいんじゃないか。能力をもっと活かすことができる場所に就けてやれ」ということを外部から言わせるというアプローチだ(P53)

などなど「一癖」ある組織論であることは間違いない。

元モサドの幹部から、外交官として仕事をしていたことが「カバー(インテリジェント・オフィサーが偽装する職業)」では言われたあたりのやりとりを振り返って

ごく一般的な仕事でも、仕事を辞めざるをえない状況が突然訪れる恐れは十分ある。組織がいつ個人を切り捨てるかもわからない。その時自分を助けてくれるのは、元いた業界や組織ではなく、複合的に身に着けた特殊なスキルやもうひとつの肩書ー、つまり・・「カバー」なのかもしれない

といったところは、氏の数奇な公務員人生を物語っていて、どちらかというと組織論としては「奇書」の類ではあろう。格式張ったものに飽きていて、奇妙な味をたまには、といった向きによろしいかな。

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