スポーツチームの組織づくりはビジネスに応用できるか — 岩本真弥『「脱・管理」のチームづくり 駅伝日本一、世羅高校に学ぶ』(光文社新書)

高校駅伝の名門「世羅高校」の陸上競技部監督で、2010年には、師走の都大路で男女アベック優勝を成し遂げた岩本氏の著書。

構成は

第1区 都大路、運命の一日

第2区 速い選手よりも強い選手を

第3区 どうやってチームを再生させたのか?

第4区 苦しみ続けた日々が教えてくれたもの

第5区 人口17000任の町が日本一になれた理由

第6区 タスキを次世代へつなぐ

第7区 日本陸上界、改革のための提言~青山学院大学陸上競技部・原晋監督対談

となっていて、男女アベック優勝のふりかえりが「第1区」「第2区」、成績が地に堕ちた世羅高校を、いかに再生したのかというあたりが「第3区」「第4区」「第5区」という仕立てである。

こうしたスポーツもの、スポーツチームの育て方として読むか、教育論として読むか、はたまた、営業組織を含むビジネスの組織づくりとして読むかは、それぞれの自由であるのだが、読むポジションをきちっとしておかないと妙な小道に入り込んでしまうことがあって、一般的に、スポーツを題材にした組織論を読む際に「注意がいるな」と思っているのは、日本人の「スポーツ好き」のせいか、スポーツチームを強くする方法論、組織論が、すべての場面で通用するかのような錯覚を抱いてしまうことで、その辺は、読者がいろいろ忖度しながら読まないといけないところであろう。

個人的に、一般社会での組織運営に活かせるよね、と思ったのは

優勝した翌年というのは難しいのだ。優勝という偉業を成し遂げたことで、選手はどうしても緩んでしまう。・・特に前年結果を遺した選手ほど成長が鈍り、チームの中心にならなければいけないはずが逆にブレーキになってしまいがちである。(P22)

といったところは、業績が急に伸びたり、プロジェクトがバカ当たりした時の戒めとして読めるし、

すべてのベースは生活にある(P54)

強さというのは何だろう?私は心がブレないことだと思う。どんな状況にもあわてないこと。想像していない事態にぶつかっても、あきらめず、腐らず、自分の頭で考えて冷静に対処できること。私が言う強さとは、つまり”心の強さ” ”メンタルの強さ”であり。そういう選手が最終的には結果を残せると思っている。

強い選手というのは失敗しない選手という意味ではない。彼ら、彼女たちはちょくちょくミスをする。しかしそこでズルズル崩れていかないのが強い選手だ。彼らは失敗を失敗で終わらせないリバウンド・メンタリティを持っているのだ。(P57)

といったところは、社員の育成の基礎的な指針として共通項は多いような気がする。

一方で

いくら速い選手でも生活態度の悪い選手は使わない(P101)

メンバーの中になるべくひとりは1年生を入れる(P106)

目の前の勝負も大事だが、それと同時に来年のこと、再来年のことも考えながらやっていかないとチームはつながっていかないのである。(P107)

ひとりに依存するチーム作り、「おまえはこれ」「おまえはこれ」とロボットにプログラムを打ち込むような練習ばかりしていたのでは、不測の事態が起こったときにまったく対応できなくなてしまう(P113)

といったところは、「教育」という場面での有効性は認めるものの、仕事をする組織づくりの面では、ちょっと二番目の優先事項かな、と思わないでもない。

さらに

大事なのは何と言っても我慢である。気になってもわざと言わない。言いたいと思っても、なるべき言い過ぎないようにする。・・・やはり上に立つ人間は、どうしてもいいたくなってしまうのだ。・・・それが普通だし、言ったほうが楽なのである。思ったことを呑み込むことのほうがよっぽど不健全で、自然に反した行為だと私自身も感じている。・・しかしそこで言ってしまえば、おしまいなのだ。もしも私が言ってしまえば、次もまた言わなければいけなくなる。・・・

そうすると生徒たちは、それが当たり前になる。こちらの指示を待って、言わなければ何も考えられなくなる、自分の頭で考えることを放棄してしまう。(P63)

というくだりは、西郷隆盛型のリーダー論の是非にもつながるところがあって議論を呼ぶところであろう。

なにはともあれ、金字塔をなしとげた人の言葉には多くの価値があるのは間違いないところで、どういうポジションで読むにせよ参考となるワードは多くあるので、組織づくりに悩んでいる向きには一読をおすすめする次第である。

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