「成功物語」で自らを元気づけないとやってられない時もあるよね — 田村潤「キリンビール高知支店の奇跡 勝利の法則は現場で拾え」(講談社+α新書)

「ブラック企業」といった働き方改革ものをレビューした直後に、こうした企業成功ものである。節操が無いと言えばないのであるが、精進料理の後は、がっつりとした肉も食いたくなるというものなのでお許しを願いたい。

さて、今回はビールの老舗、「キリン」の復活物語である。

構成は

第一章 高知の闘いで「勝ち方」を学んだ

1995年 高知の夜は漆黒だった

1997年 健康になろう

1998年 V字回復が始まった

2001年 ついにトップ奪回

第二章 舞台が大きくなっても勝つための基本は変わらない

四国での闘いー違う市場でも基本を貫く

東海地区での闘いー現場主義の徹底

全国での闘い、そして勝利

第三章 まとめ:勝つための「心の置き場」

となっていて、キリンの社長も勤められた、田村潤氏の高知支店長時代から、四国、東海の地区本部長、そして本社の営業本部長と、一旦はトップの座をアサヒに明け渡したキリンが、一位を奪還するまでの道筋を、現場から経営まで一貫して牽引役であった人の、中興の物語である。

で、その基本というのは、

海外で闘うにしても、やはりまず日本の地方のあるエリアで勝ち方を極めていることが非常に大事なのだそうです。そのエリアをよく見て、エリアの特性や住んでいる人、風土とか、チャネル全部ひっくるめて最も適切な正しい実績を上げることができた人間こそ、海外に行っても通用する。(P4)

ということらしいので、意外に現場主義で、理論より実践かな、という感じなのである。

そのあたりは、

結局、行動スタイルを変えることができるかどうかは、簡単に言えば視点や心の置き方を変えてみられるかどうかですし、人によっては身をすてられるかどうかということでしょう。すべてを投げ打って集中すると見えなかったものが見えてくる。当然、壁にもぶつかる。しかし、そこで死にものぐるいで壁を乗り越える。そこで今まで見えなかった景色が見える。そして自分の成長に気づく(P104)

といったところでも明らかであろう。

そして、やはり業績が悪くなったり、課題が頻出するところというのは、やはり「総務」「管理」のセクションが発言権が強くなり、現場を振り回し始めるのだなという当方の偏見を裏付けるような

本来、数字が悪くなったら、現場の営業を強化しなければならないはずですが、社内の会議を強化してしまう。

会議が好きな風土の会社は、実行への韓信は希薄になります。正しい施策をつくること自体への韓信が大きいから、会議が多いのですえ。そして習慣化した会議は、内向きの言い訳づくりの場であったり、何の課題解決にもならないものが多いのです(P126)

会議廃止で目に見えるいちばんの効果は、内勤の人数を減らすことに直結したことです。

資料作成や事前打ち合わせなど会議の準備と報告書が必要なくなったため、内勤業務が削減され、内勤者を現場の営業にまわすことができました。(P129)

そもそもキリンビールという会社は創業以来「お客様本位」「品質本位」という企業理念を掲げてきました。それなのに社員に評論家のようなタイプが増えてきていました。とくに現場から遠い本社はそうでした。施策を連発したほうが管理する側も目先が変わり、目標は立てやすい。現場はやらされ感があるが、たとえ成果が上がらなくても、上の命令に従っているのだから責任は問われない気楽さがある。それぞれ自分を安全な場所に置いて、業績が振るわなくても悪いのは他者で、自分はやるべきことはやっているという意識です。(P152)

といったところには、今は「現場」に身を置いていると、しみじみと実感するものであはある。といってもやはり、現場は現場で

成績が悪い視点ですから暗い雰囲気かと思いきや、意外に淡々としたものでした。自分たちは言われてことをそれなりにこなしているので、県全体の数字が悪くても仕方がない、という顔をしていました。(P23)

売り上げが悪くなると、本社は管理を強化しようとします。当時は、一月に20を超える施策と指示が届いていました。

こうした施策は得てして総花的なものになります。

支店の営業マンはそうした本社から四国地区本部を通して折りてきた指示をいわば酒販店に伝えに行っているというような状況でした。本社の施策を達成するためだけに動くようになると、得意先に行くたびにこちらの言うことが違ってきます。・・・キリンが本当に何を売りたいのかわからず、キリンという会社への興味や共感を失わせることになってしまいます。(P25)

といった動きを現場は現場でやってしまうので、この辺は本社や管理セクションばかりが悪いとはいえないのが辛いところである。

さて、経営立て直しの肝は

現場主義を貫き、自分の頭を使って工夫をしていると、少ないコストで最大の成果を呼び込むことが可能になってきます(P137)

で、

企業がほんとうに苦しく全体線で勝てないでいるときに、地方から変革が起きることがよくあります。中央から離れた地域という限られた場所だからこそ、雑音に惑わされることなく、現実をつぶさに見て分析し、地域のお客様の共感を得る活動を行えば、起爆的な変化をもたらす可能性が十分あります

であるらしい。現場の、地域・地方の力を信じて、今一度、頑張ってみましょうか。

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