術中に嵌って楽しむべし、円熟の変調百物語 — 宮部みゆき「三鬼」(日本経済新聞社)

怪談もの、怪奇話というと、とかく読後がざらざらしたものが残りがちのものが多いのだが、宮部みゆきさんの怪談ものは、最後の方になにかしら「救い」「光明」のようなものがある。

この三島屋変調百物語のシリーズもそんな風で、それは、聞き手の三島屋主人の姪「おちか」の明るさとあわせて、三島屋の人々の懷の深さもあるのかもしれない。

【収録は】

第一話 迷いの旅籠

第二話 食客ひだる神

第三話 三鬼

第四話 おくらさま

となっていて、今回は、冬の怪異譚が中心である。

【あらすじ】

ざっくりとレビューすると

◯「迷いの駕籠」

「迷いの旅籠」は今の東京・神奈川を流れる鶴見川の上流の「小森村」での出来事。そこの村娘の「おつぎ」が語り手を勤めるのだが、不思議を語ろうとして語りつくせぬ子供の話しぶりがなんとも可愛ゆくもある。話の大筋は、村の名主の隠居が死んだ隠居所に、死んだ者たちがあの世から帰り始めるというもの。死者に寄せ生者の思いは様々であるな、と実感する。

◯「食客ひだる神」

「食客ひだる神」は、繁盛する弁当屋に憑いた「ひだる神」の話。その弁当屋は繁盛しているにもかかわらず、夏の一定期間を休業するのが店のきまり。そのいわれが、主人が創業の時から取り憑いている「ひだる神」にあるらしいのだが・・・、というもの

◯「三鬼」

「三鬼」は堅物のお武家様が語る話。山陰の外様の小藩「栗山藩」の元江戸家老が、若い頃、妹の悪さをしかけた藩の重臣の息子を懲らしめた咎で、領内北部の山へ疾走した「山番士」の代わりとして送られるのだが、そこでの怪異譚。送られた山里の村は二つに分かれているのだが、その間の村人の行き来はほとんどない。そこで前任者の疾走した謎をおいかけるうちに、村で不幸がおきるときに現れる、黒い籠を被り蓑を着込んだ怪しい者に出くわすのだが、さてその正体は・・・、という話。

◯「おくらさま」

最後の「おくらさま」の語り手は、若い娘の身支度をして、妙に意識も若い老婆。彼女は老舗の香具屋のお嬢様であるらしいのだが、その店では店の「蔵」につく守り神がいて、その名が「おくらさま」。その守り神は店を火事などの災厄から守ってくれるのだが、そうした事態がおきると神通力が切れるのか、神様の代替わりが必要になる。その代替わりになるのは、その店の娘と決まっているのだが・・・、というもの。物語の途中で、この婆さんは忽然と座敷から消えてしまい、後半は、この香具屋を探して全体の謎を解き明かす展開となり、久々に座敷の外にでる話。どうも、この三島屋ものは「蔵」がからむと第一作の「家鳴り」のように、座敷の外での謎解きが主流となるようである。

【まとめ】

さて、短編のシリーズ物は巻を重ねるに連れてマンネリ化して、長編化の道を歩んでしまうことがよくあるのだが、この三島屋シリーズは、短編のままクオリティを維持しているところが、流石、手練の技。「瓢箪古堂」という新たなキャストも登場して、ますます円熟度を上げておりますな。おちかさんのプライベートな身の振り方もそろそろ気になるところでありますが、残念ながら、今回は進展はありませんな。

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