スナック菓子のようなサクサク・ミステリー — 柴田よしき「石狩くんと(株)魔泉洞ー謎の転倒犬」(東京創元社)

ミステリーには世間と同じように流行り廃りがあるもので、本格モノが流行った頃もあれば、松本清張や森村誠一の”社会派ミステリー”が全盛だった頃などなど、その時の時勢に応じて移り変わっていくもの。とはいうものの、この魔泉洞シリーズのように、かるすぎるタッチのミステリーが全盛を誇ったという時期は、あまり記憶になく、どちらかといえば、スナック菓子のような間食的な扱いであるといっていい。

収録は

時をかける熟女

まぼろしのパンフレンド

謎の転倒犬

狙われた学割

七セットふたたび

の五編で、見ておわかりにように、題名は、著名なミステリーのもじりであるのだが、話の筋立ては、底本とは関係ない。

ざっくりとレビューすると

「時をかける熟女」は、本書の主人公である「石狩くん」と、もう一人の主人公、占い師の「摩耶優麗」がでくわす導入篇。彼がビルのカーペット敷きのアルバイトをしているところで、優麗にリクルートスーツ+ノーパソ+デジカメの衝動買いで財布が空っ穴になっているところを見抜け変えるところから始まる。その後、バイト代を掏られて、と急展開し、とりあえず摩耶優麗の「占いの館」魔泉洞に就職するまで

「まぼろしのパンフレンド」は、魔泉洞に就職して優麗の付き人を始めた石狩くんが、優麗とともに、占いのお客の恋人の失踪事件の解決に乗り出す話。「パン」に込められた失踪のヒントは果たして、といった筋。

「謎の転倒犬」は彼女イナイ歴の長い石狩くんが、良家のお嬢様に出会うのだが、彼女の飼い犬はどういうわけか散歩の途中で突然寝転んでしまうようになったのだが、このわけと、日本と外国との二国間交渉の行方がからんでくるという、ちょっとした政治的陰謀もの。

「狙われた学割」、前の「謎の転倒犬」でめでたくお知り合いになった良家のお嬢さん、野瀬さん達との合コンで、彼女のお友達の「見知らぬ男が改札口で、期限切れ間近の定期券を掠め取っていった」という妙な盗難事件を、合コン会場に入りこんだ優麗が推理するというもの。

「七セットふたたび」は、魔泉洞経歴も長くなってきた石狩くんは、優麗のタレント本(当然ゴーストライターが書いているのだが、まてよ、”当然”というのは変か)に校正を担当するまでになっってるのだが、職場で校正中に、何者かに襲われ、原稿を奪われてしまう、という事件の解決。

といったところで、見るからに深刻さもなければ、社会的な悪の糾弾もなく、さりとて恋愛ネタや因縁モノでみないという、サクサクカリカリと読んでいける軽~いタッチのミステリーで、謎ときのネタも、緻密さではなく、炭酸飲料のスカッとした味わいのようなネタである。

まあ、難しい悲痛な顔で読むのもミステリー、寝る前に寝酒代わりにクイッと読むのもミステリー。ミステリーに貴賎はないというもので、シチュエーションに応じて愉しめばよいんでありましょうね。ミステリーで深刻ぶりたくない人にオススメであります。

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