古代中国の、歴史上埋もれてしまった「中原と草原」のもう一つの大戦争 — 臏(ビン)〜孫子異伝(ジャンプコミックスデラックス)

岩波文庫版の史記列伝をみると、龐涓によって、膝から下を切断する刑を受けたということや、田忌将軍に雇用され、将軍が王子・貴族達との馬車レース、さらには魏の趙への侵攻を退けたり、龐涓との因縁の戦闘のあたりは記述があるのだが、残念ながら、匈奴の侵攻といった話はない。ましてや孤  といった話もなく、このあたりは作者の挟み込んだフィクションであるのだろうが、史実と史実の間に壮大なフィクションを混ぜ込むことができるか、というのが歴史小説や歴史コミックの肝であるので、このへんは作者の力量を誉めたい。

さて、筋立ては、斉国へ、匈奴連合軍が押し寄せるというところから始まる。田忌将軍と孫臏が宮中の権臣に疎まれて、連合軍を迎え撃つために、斉の首都、臨淄の城外に住む住民からなる兵を率いて向かうあたりから始まる。

当然のように自らの権力の拡大しか考えていない権臣や貴族あがりの驕り高ぶった将軍などなど、「この野郎」と思う人物は随所に配置してある。極めつけは、全巻を通じての悪役を割り振られている匈奴の単于で、超人的な知力と体力と武の技をもちながら、冷酷無比という、とんでもない存在なのだが、思うに、こういう倒すべきライバルを創り上げてしまったために、22巻までの全巻が匈奴との闘いに費やされ、魏都の戦争までは書ききれなかったというのが正直なところであろうか。

そして戦闘の舞台は、天然の橋である   という要害。ここの攻防戦で、なんと全巻が費やされてしまうわけで、圧倒的な兵力差を、孫臏の智謀で跳ね返し、最後は匈奴勢を退却させてしまうというわけなんであるが、あちこちに、孫子の兵法っぽいものがでてきて、それがどれもちょっと嘘くさいというのも妙な魅力ではある。

さらには、若者向けのコミックらしく、オネーチャンが、巨乳で、妙に色っぽいのが、そんな彼女たちが匈奴戦士の首を切り飛ばしたりする場面もあったりするので、そこは要注意ではある。

さてさて、キングダムや達人伝などなど、現在、中国の戦国モノは結構人気を誇っているのであるが、以前から、横山光輝の三国志をはじめ、漫画の定番モノであったのは間違いなく、最近、その勢いが復活したというべきであろう。このシリーズは完結しているので、全巻大人買いで、一気読みがオススメですな。

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