人間の天才がAIに向き合う — 羽生善治「人口知能の核心」(NHK出版新書)

AIが我々の仕事の多くを奪ってしまう、とか、イーロン・マスクがAIの開発・研究は人類にとって危険だと研究の中止を呼びかけているであるとか、AIへの評価はすべてがバラ色の温かい目を向けているとはいえないのだが、IOTなどAIは私たちの生活に深く入ってくるのは間違いのない事実。
本書は、そうした中、将棋界の天才児・羽生善治氏がAIの開発現場を訪ね、そのルポとAIについての氏の所見をまとめたもの。
出版は2017年3月であるのだが、2017年4月に電王戦第二局でポナンザがプロ棋士を破るといった、ディープ・ブルーによるチェス、アルファ碁による囲碁に続いてAIの力を見せることがあったのは記憶に新しい。
構成は
第1章 人工知能が人間に追いついたー「引き算」の思考
 レポート1 ディ婦ラーニングをさらに”深く”
第2章 人間にあって、人工知能にないものー「美意識」
 レポート2 「記憶」と人工知能
第3章 人に寄り添う人工知能ー感情、倫理、創造性
 レポート3 ロボットをどう教育するのか
第4章 「なんでもできる」人工知能は作れるかー汎用性
 レポート4 「汎用人工知能」実現への道
第5章 人工知能といかにつきあえばいいのか
 レポート5 人工知能、社会での活用
となっていて、中心は羽生善治氏によるルポ、途中「レポート」という形で同行取材陣の記事が入るといった形である。
まず「ほう」と思うのは、羽生善治氏の「思考の柔らかさ」である。羽生氏は1996年の段階で、コンピュータがプロ棋士をを任す時を2015年頃と答えているそうだが、その答えが合っているかどうかということより、注目すべきは「コンピューターに自分を含めたプロが負ける」ということを想像することができた、ということであろう。
そうした柔軟で緻密な頭脳のプロ棋士のAI開発レポートであるか、視点の面白さは当然であろう。
ルポ自体はアルファ碁を開発したディープ・マインド社のハサビスCEOの取材に始まり、人間と人工知能の思考の違いと将棋、人間のような人工知能(アトムみたいなもんだな)の開発の現在、そして人工知能に我々はどう向き合うか、あるいはどうつきあい、どう使うか、とAIを取り巻く情勢のほとんど全部に羽生善治氏がコミットし、コメントしている。
このあたりは、当方がたどたどしいレビューをするよりは、原書で、氏が現場に赴いて実際に見て感じた、躍動感あるレポート・考察を読んでいただくのがよいが、最後のところで示される
一方通行で知識を受け取ったとき、人間は進歩し続けることができるか。考え方を他社から悪阻笑うに、ソフトだけで強くなれるか
「学習の高速道路」を走る中で、大量の情報を得ることに追われて。かえって自分の頭で課題を解決する時間がなくなっていく、さらに本当に皆で「高速道路」を走って行くことが進化を速めることなのだろうか
といったAIと人間に関わる疑問は、自らがAIにどう関わるか、という側面で多数決で決めることでもないだろう。
今のところ、新たなラッダイト運動も、機械と自分とを同一視してしまうことも起きてはいないが、AIが我々の生活に浸透してくるつれ、現実化してくる可能性も大きいだろう。
さて、我々はAIと仲良くつきあえるんでしょうか、あるいは使いこなせるんでしょうか?早晩、それぞれが、それぞれの答えを出さないといけない時がくるような気がしますね。

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