吉原と芝居小屋は「謎」の宝庫 — 近藤史恵「にわか大根」(光文社文庫)

堅物同心+(女形の人気役者+人気花魁)のトリオの捕物帳の第3弾。

今回は、短編集なのであるが、それぞれの短編をつなぐ筋が流れているので、それなりの統一感があるという凝ったつくりの短編集である。

収録は

吉原雀

にわか大根

片陰

の三編。

ざっくりとレビューすると

「吉原雀」は、第2作で千蔭をさんざん引き回した挙句、千蔭の父親と祝言をあげたお駒と父親の千次郎が旅行に出かけるところから始まる。旅行に出ていて、お駒が家にいないという設定が、三作目を通じて展開される「平野屋のおふく」をめぐる騒動の発端となる。

本筋は、吉原で三人も遊女が立て続けに変死する。流行病が吉原に流行っているということないのだが、共通するのは、かかった医者が「小川幻角」という町医者にかかっていたことと「雀」。三人の遊女は皆死因が異なっているようなのだが・・・、といったところ。

「にわか大根」は役者話。先回に登場した「おふく」(お駒の稚馴染み)が継母に邪険にされて塞いでいるのをなぐさめるために、市村座の芝居を見に行くことにうる。ここは、この物語のもうひとりの主人公である水木巴之丞の、向こうを張る「村山達之助」という役者がいるのだが、どうも上方から帰ってから、芝居がやけに下手になっている。その理由は、とさぐっているうちに彼の一人息子が芝居小屋から転落死する、という事件

「片蔭」はスリの茂吉が擦りとった財布を投げ込んだ天水桶から水死体が発見される。水死体は、船芝居の役者・片岡円蔵。彼の芝居は、船芝居ではありながら出来の良いものであるし、円蔵はまじめで人当たりもよく、人に恨まれることもおよそない。おまけに円蔵の相手方の谷与四郎は、巴之丞の上方時代の知り合いでもある。さて、円蔵はどういう理由で殺されたのか、という筋。

三作ともそれぞれの関連はないのだが、三作を通じて、お駒の幼馴染「平野屋のおふく」が、タイミングよく玉島家に逃げ込んでみたり、駆け落ち騒動を起こしたり、と、堅物同心の玉島千蔭も、そろそろ年貢の収め時か、と思うのだが、作者のデウス・エクス・マキナは、そう簡単には許さないらしい。

となると、千蔭と梅が枝の行く末は・・・、といった予測も出るのだが、され、次作以降、この二人の関係をどうするか気になるところではありますな。

コメント

タイトルとURLをコピーしました