「現場の力」を発揮する方法論とは — 遠藤功「未来のスケッチ」(あさ出版)

企業や組織の成功譚に起因するビジネス書というのは、一種の危険性を有していて、その企業なりが時間の経過で業績を凋落させたり、不祥事で非難を被ったりすると、そのビジネス書で推奨した手法なりも、もろともに葬られてしまう。
その点、本書でとりあげる「旭山動物園」は、ひと頃よりは落ち着いたとはいえ、160万人の入場者が続いているようで、本書で説かれる手法やノウハウもまだ有効性をもっているといっていい。
構成は
 
プロローグ 旭山動物園の「現場力」を支えるもの
第1章 すべては「一四枚のスケッチ」から始まった
第2章 本物の競争力はどこから生まれるか
第3章 ほかと同じものを作ってもしょうがない
第4章 元気で強い「現場」をつくる三つの要因
第5章 「串団子」で個を活かす
第6章 顧客の「感動」が最大のマーケティング
第7章 大切なのはチャレンジャーであり続けること
エピローグ 「明るく、正直で、前向き」であることの強さ
となっていて、組織の成功の「昔話」の部分もあることはあるのだが、どちらかといえば、その「成功」の要因分析の記述が多いのが本書の良心的なところであろう。
で、本書で重要視されるのは「現場」ということで
語られる言葉が後ろ向きなものばかりでは、現場のモチベーションはずるずると低下していきます。現場が活力を失えば、同時に危機に耐えうる粘り強さも失われていきます、厳しい環境を乗り越えるときこそ、目線を下げ、未来を志向するための「旗」が必要なのです。辛くて大変なときだからこそ、夢を語り、理想を掲げる。それによって、いま直面する危機に立ち向かいう力も湧いてきます。
といったところは、いわゆる「現場主義」の論述と同じであるのだが、
うちは「串団子」なんです。団子ひとつずつを見れば、大きい、小さいといろいろある。大切なのは、それぞれの団子が一本の「軸」に刺さっていること。「軸」に刺さってさえいれば、大きい、小さいは個性であり、その個性を活かせばいい
といった、「本社」と違って「現場」の能力の不揃いなところや、
行動展示というイノベーションは、現場がこうして積み重ねてきた小さな創意工夫の総称といっていいでしょう。
イノベーションは一般的に「革新」と訳され、ものごとが一気に変わっていくことを連想させます。しかし、旭山動物園の場合、一日にして革新が起きたわけではありません。現場が一つずつ小さな創意工夫を積み上げて、振り返ってみたら、行動展示という大きなイノベーションとなり、差別化につながっていったのです
といった予算や人員が限られた現場の状況を踏まえた論述がされていて、よくある、本社から見た「現場重視」論であるとか、上から見た「現場認識」によくある「虚構の現場」に陥いっていないところは好印象。
もっとも、こうしたイノベーション、組織改革が成功しても、いつの間にか雲散霧消してしまうことはよくあることで、本書にいう
その多くはたとえ差別化に成功しても単発で終わってしまい、後が続きません。属人的なアイデアや小手先の差別化に終始しているからです。差別化とは、「信念」で裏打ちされた自分たちの存在理由、つまり「自社らしさ」にこだわり続けることにほかなりません
といったことに継続的に心せねばならないのは間違いない。
ともあれ、「思いを形にする方法」とか「現場重視のリーダーの在り方」とかは本書に直にあたってもらうとして、
旭山動物園が自らの現場力を高めることができた要因は、三つあると考えています。まず「何でも自分たちでやったこと」、次に「失敗を恐れずにチャレンジし続けたこと」、そして「現場の一人一人に、強烈な使命感があったこと」
という言葉を胸において、現場が頑張り、頑張れる体制・仕組みをつくることが一番大切なのかもしれんですね。

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