周りの闇が晴れつつも、事件は続く — 和田はつ子「あおば鰹」(時代小説文庫)

シリーズも三作目となると登場人物や設定も落ち着いてくるもので、本作ものその例洩れない。塩梅屋の新しい料理人となった季蔵、おき玖、弟分の豪介、三吉、北町奉行の烏谷、店の常連の喜平、辰吉、勝二といった面々が、それぞれ自分で動き出し始める頃であろう。
 
収録は
「振り袖天麩羅」
「あおば鰹」
「ボーロ月」
「こおり豆腐」
の四つ。
 
まず「振り袖天麩羅」は、塩梅とライバルでもある「夢さくら」という店の美人姉妹のあげる天麩羅が発端。「夢さくら」の若い看板娘たちと「さつま鯛」という美味な秘蔵の料理で塩梅屋の常連たちが、河岸を変えてしまうかもといったきこがおとずれつ中、その美人姉妹が、天麩羅の火が原因で焼け死んでしまうという事件がおきるというもの。事件の犯人当てというよりも、娘二人の母親の心の中に巣食っていた闇の深さに「うーむ」と唸る話。さらには、娘の取り違いもなお悲しいね。
さつま鯛という料理は、長次郎がおき玖に、「三枚におろした鯛を一夜干しにしてね、味噌につけて後、お砂糖をまぶして蓋付きの小鉢にいれて、すっかりお砂糖が溶けるまで待ってたべさせてくれた」ものらしい。
 
「あおば鰹」は江戸っ子の大好物「初鰹」絡みの話。先の「振り袖天麩羅」の事件の舞台の主人の意外な裏の姿が披瀝されるのだが、それはおいといて、話の主筋は、塩梅屋の鰹料理を食いに通ってくる、落語家と隠居風の老人の意外な関係の話。
 
「ボーロ月」は、珍しく「ボーロ」という菓子の話。先の話に出てきた落語家(五平)が父の商売を継いで廻船問屋になるのだが、その亡父が、毎年ボーロ菓子をつくって、この時代の孤児院に届けていた。これを五平も受け継ぐのだが、その孤児院の寺で幼馴染に出会う。彼女が出家した経緯に同情して援助をか投げている内に、寺の庵主が殺される。この庵主はみかけによらず孤児たちを虐待していたらしいのだが、犯人は孤児の一人なのか・・・、といった謎解き。尼になったとはいえ、人の業の深さってものが、なんとも「ざらっ」とした味がしますな。
 
最後の「こおり豆腐」は、ひさびさに江戸の闇社会を仕切る「柳屋の虎翁」の話。今回の話で、権勢をほしい儘にした虎翁も年貢の納め時となる。旗本の次男で菓子屋の婿養子となった虎翁が、実権を握っていく事情が語られるのだが、その過程で、「菓子屋」を小馬鹿にしていたことが原因とも思えるし、子供の気持ちを汲んでやらないと後で痛い目にあうよ、といったことか。
 
さて、塩梅屋の主要な人々は健在ではあるが、季蔵を取り巻いていた数々の闇が徐々に晴れていく第三巻である。闇が晴れつつある中で、季蔵は、「裏稼業」とどう向き合うことになるのかな、といったところは次巻以降か。
 

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