ナンバー2という「魅力あるも、面倒くさい」生き方 ー 松平定知「歴史を「本当に」動かした戦国武将」

 
時代が不安定になると「戦国時代」とか「幕末」が流行るという話を聞いたことがあって、時代のわさわさとした落ち着かなさと先行きの見通せなさが、転変の激しかった二つの時代に生きた人に範を求めさせるのだろう。私の場合もそんな風なところはあって、人事や処遇などで、不遇感があったり、閉塞感があったりするときには、「戦国」「幕末」の人たちについて書いたものを読みたがる傾向がある。
 
ということで、今回は、松平定知「歴史を「本当に」動かした戦国武将」。
「本当に」というのはこの手の本のよくある売り文句で、歴史上の様々な出来事を動かしたのは、表で活躍した英雄、豪傑ではなくて実は・・・という秘話めいたものが通例なのだが、本書の場合は、ナンバー2が大事なんですよ、といったところで、このあたりは穏当な歴史読み物なので安心してほしい。
 
構成は
 
序章 歴史の陰には必ず「ナンバー2」がいた
第1章 黒田官兵衛に学ぶ「読心術」ーM&A時代を生き抜く知恵
第2章 直江兼続に学ぶ「直言力」ーオーナー企業を支える
第3章 石田三成に学ぶ「構想実行力」ー社業拡大を推進する
第4章 本多忠勝に学ぶ「市場開拓力」ー攻めと撤退の時期を見極める
第5章 片倉小十郎に学ぶ「プレゼンテーション力」ー綿密な計算とアイデア
第6章 藤堂高虎に学ぶ「転職力」ー技術で昇給を勝ち取る
第7章 細川幽斎に学ぶ「一芸力」ー文武両道こそ光る
 
となっていて、7人の戦国時代のナンバー2が取り上げられているのだが、それぞれが仕えた主君は、豊臣秀吉、上杉景勝、徳川家康、伊達政宗と当代を代表する人物ばかり。こうした人物に仕え、誅殺されなかったのはスゴイよね、と上司とブツカリがちな当方としては感心をする次第。
 
そのあたりは、
 
カリスマであるトップの心中はめまぐるしく変化します。寄ってくるものはかわいいのですが、寄り過ぎると疎ましい。力があるのは頼りになりますが、ありすぎるとのちのち厄介になる。
 
とか
 
仕事には優秀な部下が居ると助かるが、あまりに突出すると自分のポジションを狙っているのではないかと不安になる。特に自信喪失気味や、逆に自信満々で己が一番と思っているトップにとって、あまるに優秀な部下は怖い存在です。
 
といったところに微妙に現れていると思う次第。
 
ただ、そうした「歴史の巨人たち」を裏から支えたり、実権を握ってはいても。
 
企業も拡大戦略をとっているときは、アイデアと行動力がある参謀軍師型タイプがナンバー2にいるとトップは仕事がやりやすいのですが、ある程度の規模になり社員が増えると管理と効率のよい運営が求められ、官僚タイプが右腕にいれば効率よく運営できます。そういう意味では、秀吉には絶妙なタイミングに最適な人物がいたのです。
 
とか
 
家康は、時代の変化を読む能力に長けているトップです。
領土を拡大する時代には戦闘能力に長けた人こそ重要で、だから忠勝は重用される必要な人材でした。しかし天下統一がなされた今、政策実行能力のある官吏こそ必要な人材です。それを読んだ配置だったのです。そして、それを忠勝も見抜いたのに違いありません。黙って桑名に行くことを了承しました。
 
などなど、ナンバー2でいるのも大変なのである。
 
さてさて、組織人でいれば、いつも陽の当たるところばかりではなくて、むしろ自分の力が過小評価されていると思えることが多々あろうが、最後に
 
「数年昼夜奉公しても、気付かない主人であれば、代々仕えた主君であっても暇を取るべし。うつらうつらと暮らすのは意味が無い」高虎遺訓二〇〇か条の一つ
 
を引用して、この稿は了としよう。「士は、己を評価する人に対して忠誠を尽くす」のであるな、と夜郎自大の風もあるが、野放図に思ってしまうのである。
 

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