怪談落語の影には、昔の未解決事件あり — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 へっつい飯」(時代小説文庫)

シリーズ8作目の季節は夏で、6作目と同じ趣向で、落語仕立てである。ただ、6作目と少々異なるのは、収録されているそれぞれの話が完全に独立ということではなくで、太い筋を基本において、一つの話としてまとまりをもっていること。
 
収録は
「へっつい飯」
「三年桃」
「イナお化け」
「一眼国豆腐」
の4話
 
おおまかな展開は、夏の盛りの暑さを忘れる趣向で、落語の怪談会が開かれることになる。もちろん、落語にちなんだ季蔵の料理が供されることになるのだが、怪談会の進行に併せて殺人事件が起き、昔の盗賊の事件の解決に繋がっていくというもの。
 

語られる怪談は、「へっつい飯」が”へっつい幽霊”、「三年桃」が”三年目”、「イナお化け」が”お化け長屋”、「一眼国豆腐」が”一眼国”で、それぞれ供される料理は、それぞれ、熱いかけ汁をかける丼飯、桃の白酒かけ、イナ(ボラの小さいの)尽くしであらいと梅和え・竜田揚げ・押し寿司・イナ饅頭、江戸と上方の豆腐料理で、木綿豆腐を使った田楽と冷やうどん豆腐。

 
中でも聞いたことがないのが「イナ饅頭」で
 
(イナのワタをとり、背骨まで取り除いたものに)甘味噌の八丁味噌に、戻した干し椎茸と葱、人参のみじん切り、麻の実を加えて練ったもの・・を腹からたっぷりと腹に詰め
 
焼いたもので、本書によると「尾張」に伝わる料理らしい。
 
もうひとつは「冷やうどん豆腐」で
 
きしめんのように切った豆腐を、汲み立ての井戸水で冷やし・・煎り酒で煮付けに使う、味醂風味以外のもの、梅風味、鰹風味、昆布風味を倍に薄めてつゆに
 
したもの。どちらも、夏には気を引きそうなものではある。
 
本書で気になるのは、殺された岡っ引きの娘、美代吉親分と同心・田端の中なのであるが、その結末は素ご想像どおりではあるが、最後の方で明らかになる。一方で、最後でどんでんをくらわせられるのが、親切そうな顔に隠された、旧悪の顔というやつなのだが、このシリーズの悪人には珍しく、人間、年齢を重ねて守るべきものができると、骨の髄まで悪に染まっているのが、幾分か抜けていくのかね、というところ。

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