元許嫁・瑠璃の心を騒がせる”男性”が登場するのだが・・・ — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 菊花酒」(時代小説文庫)

最初、短編で始まった物語もシリーズ化してくると、だんだんと中編・長編となることが多いのだが、この料理人・季蔵シリーズも一冊で筋立てが完了するといった態になってきた。
さて、シリーズ第9弾の収録は
第一話 下り鰹
第二話 菊花酒
第三話 御松茸
第四話 黄翡翠芋
の4作
まず、最初の「下り鰹」で、前作で昔、盗賊であったことが明らかになった亡き松島屋のところから珊瑚細工の簪が盗まれたところが判明する所から始まる。どうやら骨董屋・千住屋の仕業らしいのだが、確証はなく、といったところだ。また、最初の「下り鰹」で、この巻の助演を務める内与力の清水佐平次に登場し、季蔵の武家時代の許嫁・瑠璃に気に入られた風で、季蔵が心穏やかでないところが次の話以降の微妙な布石になる。
料理は、江戸人が「猫またぎ」として下手に見ている「下り鰹」で、見事な料理をつくるもの。もっとも、下り鰹が脂がのって旨いのは現代では常識だから、まあここは季蔵の常識にとらわれないチャレンジ精神を評価するところ。
続いての「菊花酒」は最初、季蔵が春の筍料理に使う筍をいただく寺の住職の昔話から始まるので、てっきりそちらの方へ向うのかと思いきや、前話で登場する内与力・清水佐平次の家庭の話へと移っていく。奉行はこの清水に裏稼業も手伝わせたい様子で、品定めが始まるといったところ。奉行が手土産にする「万福堂」の最中が次話への橋渡し。
三話目は、急に舞台が変わって、江戸市中に出回る「松茸」の市場流通を操る謀みにかかわる話。松茸の大産地である松原藩の若い江戸家老がでてきたり、菓子の最中を商う「万福堂」がこれに暗躍していたりとやけに騒がしい展開である。「松茸」料理ということで、炊き込みご飯や吸い物、焼き松茸といったありきたりのものが多く、松茸を保存するための「塩松茸」や「干し松茸」あたりが珍しいところか。
最後の「黄翡翠芋」では、この巻で登場する清水佐平次と前話で登場する松原藩の江戸家老とか斬り合ってふたりとも死んでしまう。しかし、その骸が怪しげな僧侶によって持ち去られ、といった展開。この二人が「不滅愛」という紙切れをもっていたっていうのが、一連の珊瑚の簪をはじめとする秘宝の盗難事件と今回の二人の死亡事件の鍵なんであるが、「不滅」「愛」なんて言葉は通常の色恋沙汰でっは使わない類の言葉であるよね。
結局、松茸流通を闇で支配していた「万福堂」もこれに関連して頓死するのだが、本当の悪党はまだ見えて着ないところでこの巻は終了。「黄翡翠芋」ってのはどんな料理・・と期待するも、ちょっと肩透かしをくらわせられる。
ともあれ、季蔵と元許嫁・瑠璃との間で波紋を呼びそうな男は、最初さっそうと登場し、あっという間に露と消えてしまうのは、あっけないといえばあっけないのであるが、まあシリーズの安定的な展開のためにはやむを得んかもしれんですね。

コメント

タイトルとURLをコピーしました