江戸城御用達の甘い罠。一番悪どいのは「御上」かも — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 大江戸料理競べ」(時代劇文庫)

さて、調理人季蔵シリーズの第14弾は、江戸城への料理御用を独占している有名料亭「八百良」と並んで、江戸城へ料理を納入する店を決める料理勝負がメインテーマ。
 
収録は
 
第一話 新年福茶話
第二話 大江戸料理競べ
第三話 ごちそう大根
第四話 千両役者菓子
 
となっていて、第一話は季節が正月なので、鮑の身を細長く切り、薄く打ち伸ばして干した打鮑を、ぱらりと載せた雑煮とかといった料理も良いのだが、メインは質屋の大黒屋の黄金仕立ての仏像が元旦に消え失せてしまった謎をとくというもの。ただ、話の最初に出てくる、寺子屋で神童と言われる子供の噂話が、名料亭「八百良」が茶漬けに使う水をはるばる玉川の取水口から汲んできたという話や、初春狂言で人気の歌舞伎役者・中村春雷の噂とかとかがでてくるのだが、最終話でぐるりとつながってくるのでご記憶のほどを。
 
第二話と第三話は、この巻のメインストーリーで、江戸城の出入りを三料理店が競う料理比べなのだが、季蔵はこの競争には参加せず、監視人という役割。
競われるのは大根の料理で披瀝されるのは、漬物の大根を小指の先ほどの厚さに切り、水にさらして塩出しした後、出汁で煮合わせた「大根のぜいたく煮」、細かく叩かれた鶉肉を鍋にいれ、ひたひたに酒を注いでそぼろに炊き、これを小口に切った大根と交互に重ね出汁を注いで炊き上げた「そぼろと大根の重ね煮」、開いた穴子を湯通しして、鍋に入れ、酒、砂糖、味醂で煮含めたものに、皮を剥いて縦半分のして、小指の長さほどに切った大根を入れてやわらかく煮た「穴子大根」の三品。
さて、どれが一番?といった野暮なことは、この勝負に参加している「酔壽楼」の主人・又兵衛が変死して、どっかにいってしまう。さらには、第三話で、同じく勝負に参加した富士屋の女将・お美菜も毒殺され、この催しそのものが彼方にいってしまうという筋立てで、話の本筋は、この二つの変死・殺人事件の謎解きであるのだが、時代ものらしく、男女の仲が絡むのはいつものことか。
 
最終話の「千両役者菓子」で第一話の伏線が生きてきて、歌舞伎役者の中村春雷が、季蔵に菓子を注文する話が登場するのだが、本筋は、第二話・第三話の事件の犯人が明らかになるところ。それにも増して、驚くのは、この料理競べが催された幕府の意図なのだが、御公儀ってのは悪どい者の集まりなんでげすな、と思わず嘆息するのでありました。

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