信平の剣の技に憧れた、臣下志願が登場 — 佐々木裕一「公家武者 松平信平3 四谷の弁慶」(二見時代文庫)

由比正雪の残党の陰謀を阻止して、加増の上、四谷に屋敷を拝領し、松平信平の新しいステージ突入である。
 
収録は
 第一話 侍の嫉妬
 第二話 姉の心遣い
 第三話 荒武者の涙
 第四話 四谷の弁慶
 第五話 葵の旦那
となっていて、話的には第一話、第二話+第三話、第四話+第五話がグルーピングされている。
 
まず第一話は、信平の「四谷デビュー」。ただ、四谷というところ、当時は大名屋敷、旗本屋敷が満載で武家の天下の地であったらしいので、開拓まもない深川とはうって違って、寂しい割に面倒くさいところであったらしい。そこで、狩衣姿の公家出身であるから、まあ軋轢はあるには違いないのだが、若いゴロツキの一掃というのが四谷デビュー戦としては結構爽快なもの。
 
第二話+第三話は、信平と松姫の中を、信平の姉で家光の正妻であった本理院が間を取り持とうとする話と、松姫に憧れていた加藤清正の曾孫とのいさかいの話。まあ、このあたりは箸休めとして、ふわと読んでお行けば良いかな。
 
第四話+第五話は、信平に新しい臣下ができる話。話の大筋は、四谷で武家から刀を奪う「弁慶」まがいの辻斬りが出没して、その解決に信平が乗り出す話。まあ、「弁慶」を懲らしめるあたりではとまらず、盗まれた刀がまた騒ぎを起こすのだが、そこは本編で。公方様からの拝領刀の威力や、武家が刀に抱く特別な感情ってのは、廃刀令が出てから時がたって、もはや意識の片隅に欠片も残っていないのであるが、この物語はまだ「武家」ってものが信頼を得ていた時代の欠片を残していた頃の古の話であるよね。
 
家綱の治世は由比正雪の乱の後、保科、坂井、知恵伊豆といった宿老たちに囲まれて30年近く安定した時代という評価であるから、後の元禄の頃よりも、勃興期の清々しさと躍動があった頃と個人的には思っている。そんな時代の、「夢」物語、脂が乗ってきましたな〜。
 

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