時代は移りゆく。作者も、登場人物も、そして読者も — 北村 薫「太宰 治の辞書」(創元推理文庫)

久しぶりにお会い出来ましたね、という感慨のもとに再会しながら、ああ、なんかあの時代に共有していたような感覚はもう戻らないよな、というのが、昔親しかったのだが、離れて久しい友人に対して感じてしまうことがある。
残念ながら、このシリーズも数年経って、今の「私」に再会するとそういう思いにかられてしまった。
収録は
花火
女生徒
太宰治の辞書
白い朝
一年後の「太宰治の辞書」
二つの「現代日本小説大系」
となっていて、それぞれの筋立てを少しばかりすくいあげると「花火」は芥川龍之介とピエール・ロティと作品との関係を、自らの日常の思い出と重ね合わせたものであるし、「女生徒」は太宰治の「女生徒」が、実は無名の女性の日記からのパクリであったという話。さらに「太宰治の辞書」は太宰の『生まれてすいません』という言葉が無名の詩人の一行詩であったことを発端にする物語であるように、いずれも有名な文豪たちの、これまた有名な文学作品の「秘史」といったものである。
その「秘史」を辿る「私」も雑誌社の編集者としてベテランの域に達していて、中学生の子供もいる「お母さん」になっているし以前のシリースでも相方であった春桜亭円紫さんもすでの大真打ちである。変わらないのは、旧友の「正ちゃん」の性格ぐらいなもので、時の経過というものは、きちんと登場人物たちにかぶさってきている。
で、「変わってしまったよね」という実感は、実は当方の読書傾向とか年齢を重ねてしまったことによるのかもしれなくて、当時の、なんとなく本の香りを漂わせながら、街中の謎解きを思い出しつつも、今回は、その謎解きが文豪たちの作品にまつわるものは主であるところに、ビジネス書やライフハック本の思考に塗られた当方の思考回路がきしみをあげているのかもしれない。
残念ながら、本には読むべき年頃があるのかもしれないですね。

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