季蔵が旅をすると目先が変わって新鮮ですな — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 春恋魚」(時代小説文庫)

「春恋魚」とは「はるこいうお」と読ませて秋刀魚の糠漬けのことらしく、本書で季蔵が旅する磐城平で、飢饉に備えるために、秋口に大量となる秋刀魚を長く食すための工夫の料理であるらしい。今回は「武家もの」の色合いが強く、捕物帳らしいのは良いのだが、読み下すには、武張った、固めの筋が多い。
収録は
第一話 煮豆売り吉次
第二話 鮟鱇武士
第三話 春恋魚
第四話 美し餅
となっていて、前半の二作が、「お助け小僧」という義賊にまつわる話で、「煮豆売り吉次」は、杉野屋という旅籠の道楽者の主夫妻を諌める話なのだが、これがきっかけで「お助け小僧」の正体がばれそうになる話。でてくる料理は「花まんじゅう」という雛節句の菓子は出てくるがどうもぱっとしない。第二話の「鮟鱇武士」は、人は殺さないはずの「お助け小僧」が磐城平藩の江戸屋敷の土蔵を破って、ついでに勘定方の中川という侍を殺害したという嫌疑がかかるもの。そしてここの江戸家老がまた食い意地の張った上に意地の悪い男なのだが、果たして土蔵破りと中川殺しの犯人は本書でお確かめあれ。微に入った料理は少ないのだが
鍋で乾煎りした肝に味噌を加え、火が通ったところで、付け根の食感が独特のヒレやアラ、身を加える、大根は細切りにして加え、煮込む。あんこうから汁が出るので瑞は必要ない
という「鮟鱇のどぶ汁」はちょっとそそられるね。
第三話と第四話は、磐城平藩の事件を解決した後、そこの若殿様に頼み事をされて、磐城平に出向く捕物話。頼まれたのは、城下一の海産物問屋いわき屋の若主人殺しの謎解き。謎の陰には、先代の殿様の女道楽があって、女にだらしない殿様はとかくお家騒動の元をつくるのは定番であろうか。
惹かれる料理は、途中の水戸の「白子屋」というしみったれた小店で食す、「ぶつ切りにした骨付きのあんこうの身と葱しか入っておらず、澄んだ汁の味付けは市をだけであった」という白子のはいらない「あんこうの白子汁」と「骨付きの白身のぶつ切りを唐揚げ」にした「白子揚げ」というもの。
こうした気取らない、ざっかけなものに惹かれるというのは、年齢をとって、油についていけなくなったせいか、と思い、少々寂しくなるのではあるのだが。
さて、このシリーズ、江戸市中での事件が主で、品川、新宿とかの近くの宿場にも行かないのが通例なのだが、今回は、出不精の季蔵も、お奉行と大名に頼まれるとそうもいかないのか、北関東へはるばる旅をする。ちょっとした変わり種として楽しめますよ。

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