「ヒロシマ」は遠くなったか、近いままか — こうの史代「夕凪の街、桜の国」(双葉社)

「この世界の片隅に」の映画で大ブレークをした、こうの史代さんのコミックなのであるが、彼女の取り上げるものは「この世界・・・」も本書も「ヒロシマ」である。そう、実はとても重いテーマなのである。

 

収録は

「夕凪のまち」

「桜の国(一)」

「桜の国(二)」

の三編で、ヒロシマの原爆にあった「平野さん」の一家の二代にわたる物語である。

始まりの物語の「夕凪のまち」は、被爆後、生き残って広島の街に暮らす「平野皆実」の青春の淡い恋物語である。彼女は原爆で父、妹を亡くし、姉も後遺症で死没しているという境遇。幸いなことに弟の「旭」は関東の伯母宅に疎開して無事だったのだが、すでに故郷・広島は遠い存在になっている、という設定。話の筋は、彼女と職場の同僚との恋物語なのだが、好意を抱きつつも踏み切れない。それは被害者であるとともに、見捨てた者であるという負い目の故であるが、

しあわせだと思うたび

楽しかった都市のすべてを

人の全てを思い出し

すべて失った日に引きずり戻される

お前の住む世界はここではない、という誰かの声がする

という言葉はやけに重い。

第二話、第三話の「桜の国」は、「皆実」の弟の「旭」とその娘「七波」の物語。被爆していないはずの「旭」がなぜ、というところは、彼の妻が被爆しているから。

話の筋は、「旭」の広島行を、「七波」が幼馴染の「東子」とともに尾行する、といった展開。原爆の英j強を世代的に引き継がないはずの、七波の弟「凪生」と「東子」の恋の行方が、「ヒロシマ」が遠くなったように見えて、実は身近に存在していた、ということに思わず嘆息する。「皆実」から「七波」へ、そして次の世代へ、物語は繋いでいかなければならない。

 

今回は、少々、重いコミックのレビューでありました。

 

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