しばし、青春時代を思い出させる学校を舞台の本格ミステリーの世界に浸ろう。 — 青崎有吾「体育館の殺人」(創元推理文庫)

ミステリー、しかも謎解きを主眼とする「本格もの」はその舞台が大事で、心を騒がす浮世事や、欲にまみれた社会的事件がうろちょろしていてはいけないと思う。
その点、「学校」という、主な登場人物は教師と生徒という環境は本格ものの絶好の舞台であろう。
本書は、そうした「環境」を十分に生かし、神奈川県の風ケ丘高校の旧体育館でおこる事件である。

構成は

プロローグ 前口上
第一章は事件とともに始まる
第二章において探偵役が登場する
第三章は容疑者絞りに費やされる
第四章の末尾で全てのヒントが出そろう
幕間ー読者への挑戦
第五章は解決編である
エピローグ 舞台裏

となっていて、まずは、旧体育館のステージで、放送部の部長・朝島友樹(3年生)が刺殺されるところから事件は始まる。ナイフから指紋は検出されず、出入り口はどこも鍵がかかっていたか、生徒がいて”密室状態”という、まあ、典型的な滑り出しでありますな。

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そして、捜査に訪れる神奈川県 県警の捜査に来た警部・仙道、刑事・袴田優作の妹が同じ学校の2年生。卓球部・袴田柚乃。黒いセミロングの髪に、大きな瞳。肌は白く、練習着から伸びる腕も細めで、どこからどう見ても文学少女風、といった様子でなのだが、この細かな設定が活かされるところは、ちょっと見当たらない。

なおかつ、探偵役となる裏染天馬は、学校の文化部部室棟で無許可で暮らしている天才のオタクで、成績はこの前の試験で突如トップ。ワトソン役は新聞部部長・向坂香織。赤いフレームの眼鏡をかけ、ショートの神を留めるヘアピンも同じ赤といったところが事件を解いていく主なキャストである。

事件は、放送部の朝島部長殺害事件だけなので、本格モノによくある、連続殺人とかではないので、謎解きが好きな向きは、あれこれ浮気せずに一つの設定の謎に取り組むことが出来るのだが、当方のようないい加減な向きは、裏染や袴田柚乃、向坂を中心とした、ワチャワチャとした学園モノが展開される中で謎解きがされていくといったところを楽しむことが出来る。

遠い過去となってしまった、高校時代の記憶をあれこれと思い出させる、軽めの本格ミステリーでありました。

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