カテゴリー別アーカイブ: ブックレビュー

「天保の改革」の本当の姿はどうだったのか — 西條奈加「涅槃の雪」(光文社)

時代小説でよくある時代設定は、江戸時代では、武張ったものでは享保、幕末。町人ものでは、元禄、文化文政といったところが多いのだが、本書は、遠山の金さんこと、遠山北町奉行を登場人物に加えるとはいえ、時代的には少々暗い、天保時代である。

収録は

茶番白洲

雛の風

茂弥・勢登菊

山葵景気

涅槃の雪

落梅

風花

となっていて、遠山景元が北町奉行として登場するあたりから、天保の改革の嵐がう吹き荒れ、突然に水野忠邦の失脚と側近たちの処刑まで。主人公は、北町奉行所の吟味方与力の「高安門佑」で、彼が、端女郎の「お卯乃」に出会うところから物語は始まる。

その後、遠山景元の部下として市井の情報を入れる任務を与えられ・・といった形で、天保の改革によって、江戸の華である芝居や、商売の基礎であった「株仲間」の破壊の現場に立会うといった、”改革”による庶民の暮らしの大変化の集合体が本書である。

であるので、主たる読み方は、遠山景元、矢部定謙といった庶民派と、水野忠邦、鳥居耀蔵といった改革断行派とのせめぎあいが読みどころであるのだが、通常なら「悪役」としての色合いが強い「改革断行派」も実は、幕府の行く末を慮っての所作であり、しかも立脚点が、食を断って自死した矢部の死に方をめぐって、お卯乃の

どんなに泣いて頼んでも、常松は食わなかった……あたしら一家は、常松の命を食って生き延びたんだ!

という言葉と、鳥居耀蔵の

先の飢饉で餓死した民百姓のおうが、よほど無念というものだ

あの飢饉で、国中でどれほどの百姓が餓え死んだことか。それを承知であのような死に様は、ご政道を預かる者として言語道断だ

という言葉が重なる時、どちらが正か邪か、グラついてくる。

とはいうものの、こうした四角張った物語の読み方以外に、お卯乃が高安の家に「お預け」になって、同じ屋根の下で暮らし始め、彼女の越中での弟との悲しい思い出を聞いたり、江戸市中の見回りや芝居見物を一緒にしたりとか、くっつきそうでくっつかない二人の仲をやきもきしながら読み進める別の楽しみもある。

二人の仲がどうなるか、最後の方でおもわぬ仕掛け人によるどんでん返しがあるのだが、それは本書でお確かめあれ。

血湧き肉躍る活劇でもないし、胸がすっきりする捕物もないのだが、なにやらしっとりと読める時代小説でありますよ。

しばし、青春時代を思い出させる学校を舞台の本格ミステリーの世界に浸ろう。 — 青崎有吾「体育館の殺人」(創元推理文庫)

ミステリー、しかも謎解きを主眼とする「本格もの」はその舞台が大事で、心を騒がす浮世事や、欲にまみれた社会的事件がうろちょろしていてはいけないと思う。
その点、「学校」という、主な登場人物は教師と生徒という環境は本格ものの絶好の舞台であろう。
本書は、そうした「環境」を十分に生かし、神奈川県の風ケ丘高校の旧体育館でおこる事件である。

構成は

プロローグ 前口上
第一章は事件とともに始まる
第二章において探偵役が登場する
第三章は容疑者絞りに費やされる
第四章の末尾で全てのヒントが出そろう
幕間ー読者への挑戦
第五章は解決編である
エピローグ 舞台裏

となっていて、まずは、旧体育館のステージで、放送部の部長・朝島友樹(3年生)が刺殺されるところから事件は始まる。ナイフから指紋は検出されず、出入り口はどこも鍵がかかっていたか、生徒がいて”密室状態”という、まあ、典型的な滑り出しでありますな。

そして、捜査に訪れる神奈川県 県警の捜査に来た警部・仙道、刑事・袴田優作の妹が同じ学校の2年生。卓球部・袴田柚乃。黒いセミロングの髪に、大きな瞳。肌は白く、練習着から伸びる腕も細めで、どこからどう見ても文学少女風、といった様子でなのだが、この細かな設定が活かされるところは、ちょっと見当たらない。

なおかつ、探偵役となる裏染天馬は、学校の文化部部室棟で無許可で暮らしている天才のオタクで、成績はこの前の試験で突如トップ。ワトソン役は新聞部部長・向坂香織。赤いフレームの眼鏡をかけ、ショートの神を留めるヘアピンも同じ赤といったところが事件を解いていく主なキャストである。

事件は、放送部の朝島部長殺害事件だけなので、本格モノによくある、連続殺人とかではないので、謎解きが好きな向きは、あれこれ浮気せずに一つの設定の謎に取り組むことが出来るのだが、当方のようないい加減な向きは、裏染や袴田柚乃、向坂を中心とした、ワチャワチャとした学園モノが展開される中で謎解きがされていくといったところを楽しむことが出来る。

遠い過去となってしまった、高校時代の記憶をあれこれと思い出させる、軽めの本格ミステリーでありました。

ジム・ドノヴァン「何をしてもうまくいく人のシンプルな習慣」(ディスカヴァー携書)

サラリーマン生活がなんとなくうまくいかない時、っていうのはよほど幸運に恵まれた人以外は誰しも経験するもの。そんな時に、自分を景気づける方法ってのはいろいろあると思うんだが、一番ベーシックなのは自己啓発書とかビジネス書を読むっていうあたりであろう。そんな時に、かなり手軽に前に押し出してくれるのは、アメリカものっていうのを当方は確信している。

本書は、湿った我が身を、力強く前に押し出してくれる自己啓発本で、構成は

第1章 自分の人生に責任を持つ

第2章 ポジティブに考える

第3章 目標を定める

第4章 行動を起こす

第5章 人との関わりを築く

第6章 毎日を楽しむ

第7章 夢を実現する

第8章 より大きな成功を目指す

付録 習慣を身につけるエクササイズ

となっていて、全部で81のHINTでこちらを元気づけてくれる、という仕掛けである。

そのHINTなのだが、例えば

自分が手に入れたいものに常に意識を向ける

であるとか

なにか問題に突き当たって悩んだら「問題を前向きに解決できるような質問を自分に問いかける」

時間をとって、自分の業績と活動をリストアップする。そうすれば、自分のたいへん大きな業績を上げていることがわかる。自分がいかに多くのことをしてきたかに気づき、さらに多くのことを実行する動機づけになる

あるいは

安定しているものがあるとすれば。それは自分の能力だけだ。いまやっていることが好きならば、それがうまくできるはずだ

といったように、無条件に後押ししてくれるのが、こうしたアメリカ風の自己啓発本の良いところ。

そして「いま直面している問題に関して前向きの質問を考え、答えを書いてみよう」とか「なりたい自分のように考え、話し、行動しよう」といったところには、楽天的なフロンティアスピリットを感じてしまうな。

 

だいたい何か問題に直面して落ち込んでいる時は、自分の能力がどうこうというより、精神的なパワーレベルが落ちていることが大半であるので、そうした時には難しく考えずに、自分押し出してくれる言葉で勢いをつけてくれるこんな本がよいですね。

”グループ”は、こうやって”チーム”になる — 「今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則ージャイアントキリングの流儀」(講談社)

Kindleの講談社の50%ポイント還元セールも2月8日までなので、このあたりで、先日紹介した「今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則」をレビュー。
 
筆者は楽天大学の学長をつとめる仲山進也氏で、「ジャイアントキリング」というサッカーマンガのシーンを使いながら、「グループ」を壊して、「チーム」をつくり、その「チーム」をさらにステップアップする方法論が本書。
 
構成は
 
はじめに
第1章 新チーム始動 ステージ1 フォーミング
第2章 巻き起こる嵐 ステージ2 ストーミング
第3章 チームワークの誕生 ステージ3 ノーミング
第4章 生き物みたいなチーム ステージ4 トランスフォーミング
おわりに
 
となっているのだが、本書の表題に「今いるメンバーで」となっているように、組織に新外人戦力を入れたり、リストラによってチームを変質させたり、といった外科的手法ではなく、構成員の気持ちや取り組み方を変えることによる「チーム」の「改変」であるところがまず「良」。
 
というのも、こうしたチームや組織の改革を考える際に、中途から新戦力をどういれるがが中心になって、旧戦力のことはおきざりなることがよくあるのだが、現実の話、旧メンバーを入れ替えがデキるなんてことは少なく、既存勢力+αで難題をクリアしないといけないことが大半なのでこの視点は重要である。
 
さらには
 
ストーミングが起こり始めると、組織全体のパフォーマンスが低下して非効率なのえ、多くの人は元のフォーミングに戻そうとしたり、そもそもストーミングが起こらないように予防してしまうわけです。その典型が先ほどの「優秀過ぎるリーダー」です。すべてを自分で支持して組織をコントロールしようとするため、ストーミングの余地がありません。
 
といった、既存の「デキる人」意識に水をかけるあたりは着目すべき。
 
また、
 
「モチベーション」という言葉を使うのは、モチベーションが低い人に多いということ。モチベーションが高い人は、「楽しい〜」と言いながら活動していて、そもそもモチベーションのことなど意識していない場合が多いようです
 
といったところは、ちょっと皮肉な指摘ではあるな。
 
もちろん、コミックを土台においていているので、現実はそううまくいかないだろうな、と思うところもあるのだが、「チームの作り方」をわかりやすく解説してくれている本であることは間違いない。ジャイアントキリングの愛読者でない方も、いかがであろうか。
 

「炊き込みご飯」よろしく事件の種類がてんこ盛り — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 秋はまぐり」(時代小説文庫)

料理人季蔵シリーズの17弾目の「秋はまぐり」は、表題通り、季節は「秋」。前作の「夏まぐろ」を前編に、今巻を後編に、といった感じで読むとよい。収録は

第一話 長屋はぎ

第二話 さんま月

第三話 江戸粋丼

第四話 秋はまぐり

最初の「長屋はぎ」は旨いと評判なのだが限定100個しか売らないという「おはぎ」の名手の婆さんが誘拐される。そして解放の条件が「おはぎ」を500個作って売るという、ふざけた内容のもの。当然のように季蔵が手助けに乗り出すわけだが、誘拐の本当の理由に、とあるお武家の秘宝が・・・、といった筋。

残りの「さんま月」「江戸粋丼」「秋はまぐり」は最初の「長屋はぎ」を導入譚にして、石原屋という油問屋を主な舞台に事件が展開する。この店の15年前にかどわかされた娘・藤代が名乗り出てくるのだが、この娘の真贋の確認を縦糸に、死んだ主の遺した金の仏像の相続争いを横糸に話が展開。途中、この藤代を名乗る娘が変死したり、最後の「秋はまぐり」では死人の蘇りとその死人に殺された噺家も出て、と相も変わらず殺人事件がぽいぽいと起こるのもこのシリーズの特徴ではある。最後は、前作「夏まぐろ」で出てきた、死人づくりの黒幕も顔を出し、さらに、夏まぐろで謎のままになっていた別嬪の女の正体も明らかになって・・、といったところで、江戸の闇の黒幕退治、といったいつものところに収めて溜飲を下げる。

そして、今回の惹かれた料理は

刻み終えた秋刀魚には、生姜汁と醤油、酒、味醂少々で味をつけておく。

昆布で出汁を取った大鍋に、短冊に切り揃えた大根を入れて火が通るまで煮て、ここに、刻んだ秋刀魚をつみれのように丸めて加える。石づきをとってばらしたしめじは最後である。

という秋刀魚の「するもん汁」や

俎板の上のなまり節がほぐされ、大きめにほぐした身と細かな見が容易された。

牛蒡もまた、やや厚くそぎ切りにしたものと、薄く笹がきにされたものが必要だった。

酒、醤油、味醂、少々の砂糖、生姜汁の入った二つの小鍋に、大きめのなまり節と厚めのそぎ切り牛蒡、細かくほぐした身には笹がきが合わされ、各々別々に煮付けられる。

細かなほぐし身と笹がきのほうは、準備してあった米と合わせて鰹飯に炊き込まれた

という「かつお牛蒡ご飯」こと、名を改めて「江戸粋丼」。双方とも地味ではあるが、しっかりとした味わいがありそうで、酒の肴にはならずとも、腹の空いた時にがっつりと食いたい「飯」ものが登場する。

本巻は、誘拐事件あり、大店の財産争いあり、死人の蘇り話あり、とかなりの盛り沢山なのであるが、これは秋に旨い炊き込みご飯と同じで、それぞれの材料の旨味を味わいながら、最後は満腹になりつつもお代りをしてしまう、秋の味覚によく似合った構成ではありますな。

Kindleの講談社の書籍・雑誌・写真集50%ポイント還元のオススメ・ビジネス本 7つ

Kindleで講談社の書籍・雑誌・写真集50%ポイント還元セールが2月8日まで開催されているので、当サイト的にオススメのビジネス本をピックアップ

まずは「キリンビール高知支店の奇跡」。いわゆる、業績が不振になった老舗の復活本であるのだが、熱血さが懐かしい。さらには、中野剛志の、アメリカのビジネススクール崇拝をこてんぱんにやっつけた「真説・企業論ービジネススクールで教えない経営学」や、「伝える・プレゼンする」を体系的にとらえた「明日のプランニング」も対象になっている。そういえば、先だって、コミック無料本で紹介した「GIANT KILLING」をモチーフにした「今いるメンバーで「大金星」を挙げるチームの法則」もリリースされてますね

さらには、アップル本の定番「スティーブ・ジョブス」上、下も。カリスマ経営者の熱気と冷めた部分の二つを知るには、これが一番であろう。本来ならスティーブ・ジョブズとあわせて、アップルの立役者ウォズアニックの「アップルを創った怪物」を読むと、アップル草創期から今に至るまでのアップル神話が眺望できるのだが、残念ながらこいつは講談社本ではないので、ポイント還元は一割。ダイヤモンド社の特売を待とう。

 

自己啓発分野では、スーザン・ケインの「内向型人間のすごい力」。もとは「内向型人間の時代」という単行本だったと思うけど、その文庫本版。外向型がとかくもてはやされる時代にただでさえ肩身の狭い思いを抱えている「内向型」の多くの人々を元気づけてくれる。もうひとつは、ダニエル・ピンクの「モチベーション3.0」。仕事にかぎらず人生の様々なことをやっていくに必要な「モチベーション」というやつなのだが、なんともとらえがたいものであるのも確か。ここらで、きちんと分析しておくことも必要かも。

ダニエル・ピンクといえばフリーランスやノマドの流行を予言した本ともいえる、「フリー・エージェント社会の到来」が有名なのだが、残念ながらもこれもダイヤモンド社だ。なので、50%還元ではないのだが、フリーランスの研究に興味のある人には定番本かな。

今回の還元は、講談社学術新書や講談社+α文庫のうち、切れ味の良いものが多くリストアップされている印象。ブックオフなどの古書店でも、定価の半額ぐらいの値付けが多いので、ポイント還元といえ、定番のものを、おトクに購入できるチャンスでありますな。

 

「成功物語」で自らを元気づけないとやってられない時もあるよね — 田村潤「キリンビール高知支店の奇跡 勝利の法則は現場で拾え」(講談社+α新書)

 

イノベーションはベンチャーの専売特許ではない? — 中野剛志「真説・企業論ービジネススクールが教えない経営学」(講談社現代新書)

 

 

マグロ料理の陰に殺人劇あり — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 夏まぐろ」(角川時代小説文庫)

料理人季蔵シリーズの第16弾のメイン素材は「まぐろ」である。本書によると、「まぐろ」は江戸っ子が珍重しない魚の代名詞らしく、

一年を通して獲ることのできる鮪は、下魚とされる秋刀魚や鰯にくらべても、さらに格が低かった。冬場、鮪の赤身を角に切り、葱と一緒に鍋に放り込んで似て食べる葱鮪にして、珍しい鯨汁はもとより、浅蜊や蛤を同様に使った鍋に比べてお、ずっと人気がなかったのである。脂の多い鮪は犬も喰わないとされて、猪や鹿、牛等の薬食いにも列せられず、丸ごと埋められて肥料にされることもあった(P82)

とのことであるから、現代の「鮪」の禁漁まで起こることを考えると、なんとも羨ましい限り。

収録は

第一話 幽霊御膳

第二話 夏まぐろ

第三話 茶漬け屋古町

第四話 山姫糖

となっていて、今回は怪談ものと戯作者・樫本喜之助が、結婚する女の昔死に別れた妹を呼び出して一緒に祝言をあげる「幽霊婚」での殺人から始まって、老舗の骨董屋・山本屋光衛門の甥・姪の因果な所業というところでお終いになる、オムニパスではあるが、四話が繋がっているという展開。

このシリーズの特徴ともいえる「料理話」は、「千切りにされた浅草海苔と炒り立てで芳ばしい胡麻、赤穂の塩」で食する「お茶漬け」も気を引くのであるが、やはり、「かんかんに熱した小さな鉄鍋の底に、腹なかのサクを人差し指ほどに切った一切れを、箸で摘んで押しつける、じゅっと音がしたとたん、裏に返してまたじゅっと焼く」炙り鮪や、「炭火でさっと炙った鮪皮を千切りにして、横長のお沖合皿の手前に盛り付ける。梅風味の煎り酒を隠し味に用いた酢味噌は、別の小鉢に入れて鮪皮の上に置き、戻したワカメ、千切りにした胡瓜、蒸した葱の茎を色良く横に並べ、箸でそれぞれを酢味噌に浸して食べる」鮪皮の酢味噌和え、といった「鮪料理」に惹かれるのは、現代人ゆえか。

事件そのものは、結婚相手の毒殺あり、据え物斬りの材料として死体を横流しする医あり、果ては、金持ちの兄妹のきまぐれのような殺人とか、まあ想像力たくましくすると血生臭さで、うっぷとなりそうなのだが、数々の料理がその生臭さを和らげいるのが救いか。

まあ、ミステリーと料理というのは、「美食探偵もの」とか「ネロ・ウルフもの」とかで、その親和性は証明済みなのであるが、時代小説でも例えば、池波正太郎の「鬼平」シリーズとかの先例はあるのだが、この季蔵シリーズは、謎解きの複雑さよりも、出て来る料理の多彩さと旨そうなところがなによりに特徴であろう。

さて、少々がっつりと鮪丼を食うか。あっさりとお茶漬けにするか、久々に夜食に悩みそうですな。

生活や仕事を変える「Tips」の総覧。これだけ揃うと、かなり壮観である。 — 堀 正岳「ライフハック大全」(KADOKAWA)

副題に「人生と仕事を変える小さな習慣250」とあるように、一頃一世を風靡したが、最近はさほど耳にすることも少なくなった「LifeHacks」「ライフハック」に関しての筆者の集大成本といっていい。
 
構成は
SECTION00 始めよう「人生を変える7つのライフハック」
SECTION01 時間管理「時間は増やせる」
SECTION02 タスク管理「小さな勝利を積み重ねる」
SECTION03 集中力・ストレス対策「やる気も仕組み化」
SECTION04 読書・情報収集・学習「情報は減らして管理する」
SECTION05 発想・アウトプット・思考「自分だけのアイデアがある」
SECTION06 コミュニケーション&チーム「味方は増やせる」
SECTION07 日常生活・旅行「ちょっとした快適さを」
SECTION08 習慣化・やめない技術「人生を変える小さな習慣」
となっていて、LifeHacks.jpやシゴタノなどの、サイトで取り上げられる、日常生活で効率化をするための手法のオンパレードである。
 
最初に「ライフハックという言葉を最近聞かなくなった」と言ったのだが、これはけして悪口ではない。むしろ「ライフハック」に代表される、生活や仕事のカイゼンのため、大上段に振りかぶって変更していくのではなく、小さなTipsの積み重ねにによって変えていく、さらにはTipsそのものの開発を楽しむといったスタイルが定着したゆえのことでもあろうと思っている。
 
こうしたTipsの集大成による生活の改良というのは、大げさなシステムを組んだり、あるいは何か大きなマシンを購入したり、といった金銭的にも時間的にも大きな手間を要する手法と比べて、一つ一つの効果は少ないながらも集まれば大きな効果を生むし、個人が導入しやすい、という特徴をもっている。そしてこれは大げさに言えば、大きな組織の凋落を発端とする個人が個人の力でなんとかしなければならない現代にマッチした手法といえなくもない。
 
そして、そうした多くのTipsが、組織に頼らずに生きていこうとする「個人」を応戦するものともなっていて、これは双方が相乗的に影響しあって、動きを拡大させている、と言っていい。
 
当方としては、今の「人出不足」に後押しされる「働き方改革」の流れは、既存組織の強化に向うのではなく、組織が解体される一方で、個人のワークスタイル、あるいは仕事への忠誠心が悪用される危険性を持っていると感じているので、こうしたライフハック・ツールで予め武装しておくのは、とても大事なことであろう。
 
まあ、250ものハックネタが紹介されているので、あれもこれも、と試してみたくなるのが人情ではあるが、ライフハックスのTipsは、スパイスのよく効いた小皿料理のようなところがある。一度にたくさん食べると自家中毒をおこしかねないので。自分が必要なことを考えて、チョイスしながら試すのが肝要かとは思いますな。

季蔵が旅をすると目先が変わって新鮮ですな — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 春恋魚」(時代小説文庫)

「春恋魚」とは「はるこいうお」と読ませて秋刀魚の糠漬けのことらしく、本書で季蔵が旅する磐城平で、飢饉に備えるために、秋口に大量となる秋刀魚を長く食すための工夫の料理であるらしい。今回は「武家もの」の色合いが強く、捕物帳らしいのは良いのだが、読み下すには、武張った、固めの筋が多い。
収録は
第一話 煮豆売り吉次
第二話 鮟鱇武士
第三話 春恋魚
第四話 美し餅
となっていて、前半の二作が、「お助け小僧」という義賊にまつわる話で、「煮豆売り吉次」は、杉野屋という旅籠の道楽者の主夫妻を諌める話なのだが、これがきっかけで「お助け小僧」の正体がばれそうになる話。でてくる料理は「花まんじゅう」という雛節句の菓子は出てくるがどうもぱっとしない。第二話の「鮟鱇武士」は、人は殺さないはずの「お助け小僧」が磐城平藩の江戸屋敷の土蔵を破って、ついでに勘定方の中川という侍を殺害したという嫌疑がかかるもの。そしてここの江戸家老がまた食い意地の張った上に意地の悪い男なのだが、果たして土蔵破りと中川殺しの犯人は本書でお確かめあれ。微に入った料理は少ないのだが
鍋で乾煎りした肝に味噌を加え、火が通ったところで、付け根の食感が独特のヒレやアラ、身を加える、大根は細切りにして加え、煮込む。あんこうから汁が出るので瑞は必要ない
という「鮟鱇のどぶ汁」はちょっとそそられるね。
第三話と第四話は、磐城平藩の事件を解決した後、そこの若殿様に頼み事をされて、磐城平に出向く捕物話。頼まれたのは、城下一の海産物問屋いわき屋の若主人殺しの謎解き。謎の陰には、先代の殿様の女道楽があって、女にだらしない殿様はとかくお家騒動の元をつくるのは定番であろうか。
惹かれる料理は、途中の水戸の「白子屋」というしみったれた小店で食す、「ぶつ切りにした骨付きのあんこうの身と葱しか入っておらず、澄んだ汁の味付けは市をだけであった」という白子のはいらない「あんこうの白子汁」と「骨付きの白身のぶつ切りを唐揚げ」にした「白子揚げ」というもの。
こうした気取らない、ざっかけなものに惹かれるというのは、年齢をとって、油についていけなくなったせいか、と思い、少々寂しくなるのではあるのだが。
さて、このシリーズ、江戸市中での事件が主で、品川、新宿とかの近くの宿場にも行かないのが通例なのだが、今回は、出不精の季蔵も、お奉行と大名に頼まれるとそうもいかないのか、北関東へはるばる旅をする。ちょっとした変わり種として楽しめますよ。

時代は移りゆく。作者も、登場人物も、そして読者も — 北村 薫「太宰 治の辞書」(創元推理文庫)

久しぶりにお会い出来ましたね、という感慨のもとに再会しながら、ああ、なんかあの時代に共有していたような感覚はもう戻らないよな、というのが、昔親しかったのだが、離れて久しい友人に対して感じてしまうことがある。
残念ながら、このシリーズも数年経って、今の「私」に再会するとそういう思いにかられてしまった。
 
収録は
 
花火
女生徒
太宰治の辞書
白い朝
一年後の「太宰治の辞書」
二つの「現代日本小説大系」
 
となっていて、それぞれの筋立てを少しばかりすくいあげると「花火」は芥川龍之介とピエール・ロティと作品との関係を、自らの日常の思い出と重ね合わせたものであるし、「女生徒」は太宰治の「女生徒」が、実は無名の女性の日記からのパクリであったという話。さらに「太宰治の辞書」は太宰の『生まれてすいません』という言葉が無名の詩人の一行詩であったことを発端にする物語であるように、いずれも有名な文豪たちの、これまた有名な文学作品の「秘史」といったものである。
 
その「秘史」を辿る「私」も雑誌社の編集者としてベテランの域に達していて、中学生の子供もいる「お母さん」になっているし以前のシリースでも相方であった春桜亭円紫さんもすでの大真打ちである。変わらないのは、旧友の「正ちゃん」の性格ぐらいなもので、時の経過というものは、きちんと登場人物たちにかぶさってきている。
 
で、「変わってしまったよね」という実感は、実は当方の読書傾向とか年齢を重ねてしまったことによるのかもしれなくて、当時の、なんとなく本の香りを漂わせながら、街中の謎解きを思い出しつつも、今回は、その謎解きが文豪たちの作品にまつわるものは主であるところに、ビジネス書やライフハック本の思考に塗られた当方の思考回路がきしみをあげているのかもしれない。
 
残念ながら、本には読むべき年頃があるのかもしれないですね。