カテゴリー別アーカイブ: コミック

奇妙な味のグリム童話 — 高橋葉介「ストーリィ−テラー」(ぶんか社)

毎度おなじみの奇妙な味の作者、高橋葉介の手による「グリム童話」である。

設定は、「月刊テラァ・ストーリィ」の編集者、九鬼奇句子(くききくこ)が一般の人から聞く不思議な体験、目撃談が紹介されるというもので、収録は

赤ずきん

ヘンゼルとグレーテル

ラプンツェル

ハーメルンの笛吹き

眠れる森の美女

シンデレラ

夏の庭、冬の庭

白雪姫

長ぐつをはいた猫

青ひげ

オオカミと7匹の子ヤギ

漁師とおかみさん

ろくろくび

おはなしの原典

の13篇+解説1篇。

で、グリム童話の設定や雰囲気を活かしながら現代(といっても昭和初期のイメージなのであるが)風の物語にしたてたストレンジ・ストーリィ−。

例えば、

就職難の折、小さな会社にやっと入社した女の子がはじめて本社に書類を届けにいかされるのだが、赤いベレー帽をかぶっていけといわれ、ついた本社で女社長の前で書類を開くとそこには・・(赤ずきん)

といったのや

家出した少女が、豪邸に連れて行かれ、そこの老主人の相手をさせられるのだが、その都度、相手は若返っていく。ついに年老いた少女は町に置き去りにされるのだが、彼女は、老主人からもらった靴をかかえて・・・(シンデレラ)

といった風に、怪奇風味だけでなく、皮肉な結末を付け加えるのが「ヨースケ」流というもの。

そのほか子供の臓器売買屋の話(ヘンゼルとグレーテル)や継母の過去の子供に守られる少女の話(白雪姫)などなど。

ありきたりの物語に飽きたら、こうした珍味もよろしいのでないかな。

田舎娘の立身出世の料理譚 — 本庄 敬・末田雄一郎「ハルの肴」(ニチブン・コミックス)

Kindle Unlimitedではコミックのシリーズ物が全巻対象となることがあるので、休日などに一気読みするというのが、当方の個人的な新しい楽しみ方になっている。

この「ハルの肴」もそんな類で、北海道から画家を目指して上京した春野ハルが、進学していた専門学校が突如閉鎖され、露頭に迷っていた所を両国の老舗居酒屋「大門」の主人に拾われて店に勤め始めのあたりから始まる料理人修行の物語で全8巻

「料理人修行」とはいっても新メニューの開発とか料理人勝負とか、料理をテーマにしたバトルものになる作品が多い中で、ハルという娘が「大門」の店の人や常連客や近所の人に見守られながら育っていく、という久々に見る人情もので、江戸期からの老舗とはいっても、居酒屋での修行であるせいか、腕の上達も料理の手法や技量取得というよりは、人とのつながりの拡大が、料理の腕の上達につながっている風に読ますのが斬新なところではある。

もっとも根底に、”ハル”が幼い頃に生き別れとなった父親の捜索という一筋を通してあるので、単純な人の輪の拡大万々歳というわけではないのであるが、ハルのひたむきさが丁寧に描かれているせいか、ときおりほろっとさせるのが妙手である。

初期の頃や6巻あたりで料理メニュー自慢や、料理勝負に向かいかけるところもあるのだが、「ハル」の物語にとどまっているのが個人的には好評価で、たまにはこうした真っ直ぐな成長物語を読むのも爽快ではありますな。

高橋葉介「怪談少年」(ぶんか社)

高橋葉介の名作といえば、妖艶で怪しげな美女が登場するホラーものというのが定番ではあるのだが、この「怪談少年」も姉「六道影絵)と暮らす少年「辻成」が出くわす怪奇譚。

収録は

「耳なし芳一」「茶碗の中」「猿の手」「竹青」「蜘蛛」「夢十夜」「笛吹かば我ゆかん」「妖女」「刺青の男」「黒猫」「幽霊屋敷」「変身」

特別収録「ハイ、オカアサマ」

ということで、特別収録以外は、古今東西の名作の題名が使われているのだが、お話は、最初の方はそれぞれの元の話の本家取りであったのだが、だんだんにもとの話とは離れていって独自の展開を始めていくところが全体を通してのミソ。

怪奇譚とはいっても、高橋葉介の描く女性が妖艶ではあるが妙な可愛さをもっているせいもあるし、主人公の「辻成」の能天気さもあってか、ソフト・ホラーといった感じで、全体の筋としては「辻成」の出生の秘密を軸にしているのだが、それぞれの話が独立したファニーテールである。

高橋葉介ファンもそうでない人も定番のデザートのアラモードといった感じで楽しめる。

花形 玲・本庄 敬「隠密包丁〜本日も憂いなし」

Kindle Unlimitedで提供されているコミック「隠密包丁〜本日も憂いなし」1〜4巻である。

設定は江戸時代後期、12代将軍徳川家慶が将軍の時、列強の姿はちらほらと見えてはいるが、幕末の動乱はまだ遠い時代である。

主人公は、歴代の御庭番というか、江戸市中で民の様子を監視している隠密で、料理の腕を生かして場末の飯屋で板前と働いている。市中で暮らしているうちに、この飯屋と娘に意識されるようにはなるし、町のとの暮らしに思わず役目を忘れる時も・・・、といった感じの、まあ安心して読める「時代もの」である。

時代設定的には大動乱の時代ではないものの、爛熟の時を経て熟柿が落ちるようなところで、キャストとしても遠山の金さんこと遠山景元とかなかなかの配役が可能な時代設定である。

いったいに時代ものが面白いときは、幕末のように時代がうねっていく時か、あるいはとろとろとした太平の時代の暴れん坊の話とかが通例であるのだが、熟れきっているのだがいつ落下するかわからないあやうい時代の物語というのも捨てがたいものがある。

で、こうした時は、権威がまだ大筋としては堅牢ではあるのだがあちらこちら綻んでいたりしていて、制度的な安寧に守られながら、カタルシス的な爽快感も味わえるという時でもある。

Ulimited対象のうちに4巻きまで一気読みするのが良いかな。

工藤かずや・池上遼一「信長」1〜8 (グループ・ゼロ)

このブログでもレビューしている「信長のシェフ」とか、TVドラマで話題になった「信長協奏曲」とか、変わり種の「信長モノ」が最近流行りではあるのだが、そこはオーソドックスな「信長」を押さえておいてでないと楽しみは薄いと思う次第。

そんな場合にうってつけであるのが、この工藤かずや・池上遼一の「信長」全8巻。

今のところ、Kindle Unlimitedの対象でもあるので、まとめ読みするにはもってこいでもある。

筋立ては、というと、信長の桶狭間の前夜辺りから始まって、本能寺で集結という、正統「信長」にふさわしいつくりで、妙な登場人物の登場もなく、まあ世間一般の信長像を学ぶという意味でもよい仕上がり。

かといって、まったく新味がないかというとそういうわけでもなくて、秀吉が実は素破・忍者あがりであった、とか、信長が天下を託せると思っていたのは光秀であったとか、それなりの独自解釈も織り交ぜてあって、独自性のきちんと確保されている。

変わり種信長とともに読んでおいてはいかがであろうか

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 15」(芳文社コミックス)

12~14巻と、結構、溜めの期間が長かったように思う、信長のシェフであるが、戦国期の大きな転換点、設楽原の戦が今回の見せ場。

しかも「信長のシェフ」では信長も冷酷で癇癖の強い”魔王”として描かれていないように、武田勝頼も、よくある二代目の典型ではなく、信玄を凌ぐほどの武勇と知略をもとながら信玄の急死に足場固めができなかった武将として描かれているので、信長の三重柵、鉄砲の勝利、と単純に説かれる、この戦も、その内実の解明は一筋縄ではいかなくて、異設楽原の地形を利用した”一夜城”のからくりと、鉄砲の射撃技術を織田勢勝利の要因のするあたり、なかなかの筋立て。

とはいうものの、設楽原の織田の勝因が、畿内の度重なる戦の経験と海外と交易による物量の輸入の容易さという「地域格差」と論破されると、居ながらにして経験値が貯まる”都会地”ならぬ辺境に住まう身としては、なんとも切なくなるのは確かではある。

また、武田勢敗北の中、落ち延びるかどうか迷っている気配の武田勝頼の姿を察して、織田信長の

「総大将は逃げねばならぬ。

ただの一武将のように武勇を誇り、華々しく散ることは許されぬ。

死ぬよりも過酷な敗戦の恥辱を一身に受け、自らの命により死した者達の骸踏みつけて、なお、逃げねばならぬ。

行きねばならぬ。それが総大将じゃ。それが出来るか・・?武田勝頼」

という言葉は、けして勝ち戦一色ではなく、数々の敗戦を乗り越えて最後に京をとった信長が、同じ才ある武将として武田勝頼を評価した言葉とも感じられて面白い。

さて、物語は武田勝頼の大敗北を受け、信長の天下布武のレベルが一段階上がる時期に至った。本能寺まで、もうちょっとではあるのだが、織田家、本能寺、松永久秀のもとにいる現代からのタイムスリップ者がどう動いていくか、佳境に至り始めたという感がいたしますな。

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 14」(芳文社コミックス)

さて、「静」の印象が強かった、12巻、13巻を経て、動着始めるのが14巻。

信玄の喪の明けた武田勝頼が、都を目指して動き始める。

当然最初に襲いかかられるのは徳川家康ではあるのだが、軍勢も多数で戦上手の武田勝頼の手にかかれば、高天神城は落城の目にあう。

ところが、家康は信長を信頼しており、信長の援軍が遅れたことも・・ていうのが表の歴史であるのだが、タイムスリップものの常道として、その陰には、この物語の主人公のケンがいて、ということで詳細は本書で確認を願いたい。

 

物語の後半は、武田領の百姓に捕獲されたケンが、武田と織田の設楽原の戦の前に、さてどうするか、といったところで、今回の巻ではまだ設楽原の戦前夜で終わる。なので、大活劇は次巻にご期待というところであるのだが、事件の真相は、事件の起きる前にあるというおが鉄則で、武田が敗れるべきして敗れた、という伏線はあちこちに張られているので、読み解いてみるのも一興である。

ということで、いくつか印象に残ったフレーズは

「勝頼様に長く仕える長坂殿も申しておった。

あの方の戦いぶりは信玄公より軍神と呼ばれる上杉謙信公に似ておられるーと。

あのお方は勇猛果敢して強すぎるのだ。なればこそ、勝頼公は信玄公に及ばぬのだ」

「後の関が原の戦いは天下分け目の戦いと言われているが、識者によってはそれは違うという。

本当の天下分け目となったのは、武田の長篠城包囲を発端とする、長篠・設楽原の戦いであるーと」

といったところ。

織田信長は、ある書によれば戦下手であったという話もあるのだが、戦上手は天下はとれぬというのも真実かもしれぬ。

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 13」(芳文社コミックス)

この「信長のシェフ」は動の巻と静の巻があるようで、この13巻はどちらかといえば「静の巻」

といってもドラマがちんたらしているというわけではなく、兵と兵がぶつかりあう戦乱ではなく諜報戦、心理戦の部類が展開されているというもの

出来事的には、武田勝頼が徳川領に侵犯を初め、信長はと言えば、上杉謙信が動かないように同盟を固めたり、官位を受ける代わりに蘭奢待の切り取りを強要したり、といったところで、そこそこドラマは展開しているのだが、やはり戦乱がないのが「静」の印象を強くしているのであろうか。

料理的なところで読みどころは大酒飲みの上杉謙信への献上物のところ。

献上物の難物は2つあって、一つは京の絵師、狩野派の洛中洛外屏風絵図の入手と火入れのの酒なるもの。なにやら、かぐや姫の無理難題っぽくなってきたのだが、この二つが上杉謙信が京に攻め上るのを留めるのであるから、やはり贈り物は大事というところか。

そして、もちろん屏風(屏風に込められた暗喩、という意味ですよ)が上京を断念させる一番の原因ではあるのだが、切れ味がよくて良いのが、興福寺の火入れの酒が手に入らなくての窮余の日本酒をつかった献上酒と武田信玄の上洛の際の様子を謙信が聞いての感想のところ。

酒好きで信玄の良き宿敵であった”謙信”の姿がなんとも味があるです。

 

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 12」(芳文社コミックス)

小谷城が落城し、浅井・朝倉滅亡後、本願寺に送られた後から、翌年の新年までを描いているのが12巻。

 

最初の方は、信長の隠密である「楓」の救出のエピソード。ここでケンは彼の料理の一つのジャンルを封印することになるのだが、それがこれからどう影響してくるかは、乞うご期待というところで、伏線をはったところで終わっている。

 

12巻の読みどころは、香料を手に入れるために堺へ出向き、女性の中国人貿易商と闘茶の席での料理披露と、浅井・朝倉滅亡後の信長の残虐性を象徴する、長政・久政親子と朝倉義景のドクロを肴に新年の酒を酌み交わした事件の信長の本音、といったところ。

信長の意外性を話の底に忍ばせるのが、この「信長のシェフ」の特徴でもあるので、残虐性あふれるエピソードが実は、といったのがお決まりではあるのだが、それを松永久秀の謀反後の処置と絡めて解いてみせたのは、流石、腕がよい調理。

 

物語は、後の細川ガラシャも登場してきて、満艦飾っぽくなってくるのだが、さてこれからどうやってまとまっていきますかな。

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 11」(芳文社コミックス)

さて、11巻は、信長の命によって小谷城に潜伏して、お市の方ほか娘達の救出を図る辺りからスタート。

初めのほうの、チェックポイントは、生意気そうでありながら、妙に可愛らしく描いてある「茶々」様で、後年の姿を彷彿とさせながらも、小谷城落城から娘時代のいわば落人暮らしが、その陰にはあったのかな、とまだまだ天真爛漫な姿に、妙に感情移入してしまう。

とはいいつつも、前半の読みどころは、小谷城落城にあたって、長政がお市の方を織田方へ逃すところ。ものの本によっては、豊臣秀吉ほか織田方の武将が、無理やりに城から落としたというものもあるんだが、長政・市夫妻には、悲劇の主らしく、夫婦の情愛ありつつもやむなく・・、といった泣かせどころが必要で、あまり人間の醜いところを描かない、この「信長のシェフ」は綺麗に料理してありますな。

 

で、なぜ浅井長政が裏切ったのかというところは、明智光秀がなで本能寺の変を起こしたのか、というところと同じくよくわかないところで、この物語では、「革新」に惹かれつつも、その破壊性についていけず、「古きよきもの」を慈しむところが原因と描いているようであるのだが、果たして作者の意中にあうかどうかは皆様のご判断で。

そして、この巻の最後の方は、木下藤吉郎が「羽柴」へと改名する小エピソードを挟んで、本願寺方へ幽閉された「楓」の救出の使者として、明智光秀と本願寺へと赴き、本願寺の料理人となっている「ようこ」と再会するところまで。もっとも再会とかいっても、「ようこ」は「ケン」を本願寺に取り込むよう顕如の命をうけてあれこれしようとするので、事はそうカンタンではないな、というところで、次巻へ続く。

 

小谷城落城、朝倉・浅井滅亡といった大イベントはあるのだが、どちらかというと「静的」な印象を受ける巻でありますな