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立身出世だけにとらわれない、汎用的な「リーダー論」の基本書の一つ — 河野英太郎「99%の人がしていないたった1%のリーダーのコツ」 (Discover)

前著「99%の人がしていないたった1%のコツ」で仕事の段取り関係のビジネス本で評判をとった著者の今度は「リーダー論」。
「リーダー論」というと、どうしても会社などの組織上の「地位」と密接不可分なところがあって、例えば佐々木常夫氏の「そうか、君は課長になったのか」とかは管理職という側面がセットになっているのだが、本書は、そういう会社内のランクとは別の「リーダー論」として読むべきで、それは「はじめに」の冒頭の
 
リーダーとはあくまでもチームや組織で仕事をする上の「役割」であり、特別、り‥ダーが偉いわけでも、価値が高いわけでもない
 
といったところで、立ち位置を示している。
 
 
で、構成は
 
CHAPTER1 メンバー選びのコツ
CHAPTER2 仕事の依頼のコツ
CHAPTER3 メンバー評価のコツ
CHAPTER4 トラブル対処のコツ
CHAPTER5 チームを前進させるコツ
CHAPTER6 モチベーションを高めるコツ
CHAPTER7 人を育てるコツ
CHAPTER8 自分を整えるコツ
 
となっていて、「組織管理」ではなく「チーム管理」という色彩が強い印象で、
 
実際には、すべての領域で自分が「トップ」であることを優先した結果、チームの目標が達成できないほうが、人心は離れていきます。
いかに自分より優れた人に働きやすい環境を提供するかが、リーダーの仕事であるとすらいえるのです
 
 
 
リーダーや一部のだれかばかりがメンパーを引っ張り、それ以外のメンパーはあとに続く、というチームであってはいけません。
それではチームで仕事をしている意味が半減します。
リーダーの能力以上の成果が出ない組織になってしまうのです
 
といったところを見ると、いわゆる「立身出世術」とは一線を画するリーダー論であり、「リーダーの職能」論として読むべきであるようだ。
 
であるから
 
チーム編成をするときは、「前に出て引っ張る人」「全体を冷静に見渡す人」「専門分野で貢献する人」「それぞれを支える人」など、個々のリーダーシツプの特徴を見極めることが重要です
 
 
仕事の制り振りを考えるとき、どうしても一部の人に仕事の配分が集中してしまうことがあります。
 
私はそれでもやはり、まずはうまくやれそうな人に依頼すべきだと考えています。過去の経験では、できる人というのは私の想定以上のパフォーマンスを出すケースがほとんでした
 
と「組織をうまく運営する」というよりは「組織体のパフォーマンスを上げる方法」といったところが顔を出すのはやむを得ないが、一方で、会社などのオフィシャルな組織だけでなく、いわゆる「組織」全般でのリーダー論として汎用性は高い。
 
 
ただ、もちろん
 
駆け込んできた人に対して「解決策を考えてからもつてこい!」という対応をしてはならないということです。
なぜなら現場で解決策を考えているうちに、解決できないところまで状況が進んでしまうことがあるからです。
 
といった組織運営のコツも披瀝されているのでご安心を。
 
初版が2013年であるので、すでに4年が経過した本ではあるが、基本書は少々以前の本であっても、目を通しておくべきで、この本もその「基本書」の一冊である気がしますね。
 

サラリーマンにいつか訪れる「定年後」を機嫌よく生きるための処方箋 — 楠木 新「定年後 50歳からの生き方、終わり方 」(中公新書)

自営業やフリーランスの人、あるいは経営者の方々には、「定年」なんて他人に決められた物事に様々なことを左右されるなんて、といった思いがるだろう。しかし、今のところ、日本の多くの人は「勤め人」であることに間違いはないし、ましてや、高度成長からバブル、ロスト・ジェネレーションの時代と時は巡っても、未だに「勤め人」「サラリーマン」になるために、就職戦線が活発なことは間違いない。
 
本書は、そういう「定年」を扱ったもので
 
プロローグ 人生は後半戦が勝負
第1章 全員が合格点
第2章 イキイキした人は2割り未満?
第3章 亭主元気で留守がいい
第4章 「黄金の15年」を輝かせるために
第5章 社会とどうつながるか
第6章 居場所を探す
第7章 「死」から逆算してみる
 
となっている。読後感としては、どうしても「男目線」からの定年論となっているのは筆者が「男性」であるゆえかも知れず、さらには、同じ勤め人であっても、家庭経営という別事業を抱えながら働いている「キャリアウーマン」とは、会社や役所への依存感が違うからかも知れない。
 
とはいっても「男性」であり、かつ結構、「社畜」であったと思う当方にはこの「定年」本は身にしみることも多くて
 
会社員生活を直線的な上昇イメージの連続で捉えると、いずれ自分の老いや死の現実にたじろがざるを得なくなってしまう。
逆に、上昇するイメージにとらわれなくなると、年齢を経ながら新たな自分を発見できる可能性が広がり、同僚や上司だけでなく子どもや老人の素晴らしさも実感することができる。
また会社や家族、自分の住む地域の姿も違って見えてくるのである。
社内の中高年の時期を自分の到達点と見る考えから脱出しなければならない。
 
といったあたりは、会社人生も最終コーナーに至り、自らの着順がはっきりしてきた我が身を思わず振り返って、今まで置いてきたものに思いをはせてしまうんである。
 
まあ、今まである程度「会社人間」でなければ、会社人生を振り返って「定年」という強制的な退場に思いをはせることはない。ただ、人生80年はおろか、100年となろうとする中では、会社の「定年」で人生が終わらないことは明白で、会社人生を人生の一コマと割り切り覚悟ないと、どうも機嫌よく寿命を全うできない時代であるらしい。
 
本書によれば
 
私は、中高年以降に新たな働き方を見出した数多くの会社員を取材してきた彼らの多くは、会社員人生から見れば「挫折」と思えるようなことを経験して、そこからイキイキとした働き方、生き方を見出している人が多い。
 
ということで
 
それでは会社の仕事以外のものを手にするのにどのくらいの時間軸で考えればよいのだろう。
中年以降に会社員から転身して別の仕事を始めた人たちのインタビューを繰り返していた時に「一区切りつくまで3年」と発言する人が多かった。
 
ということを前提に
 
1点目は、何に取り組むにしても趣味の範囲にとどめないで、報酬がもらえることを考えるべきである
 
2点目は、望むべくは自分の向き不向きを見極め、自らの個性で勝負できるものに取り組むことだ。
 
ということが定年後の長い人生を機嫌よく暮らすことには重要であるようだ。
 
要するに、定年後は
 
定年後にイキイキと過ごしている人たちの共通項は何かと、ノートに一人一人を書き出して眺めていた時に、はたと気がついた。
彼らは、このローカル路線バスの旅をしているのではないかと思ったのだ。
つまり目的地へ向かうコースを自ら選択して、周囲の人の助けを借りながら進む。
高速バスやタクシー、鉄道に乗るのとは違って、自分が進む道筋を自分で切り開いている。
決して他人任せにしていないのである
 
といった本書の最後の方のアドバイスをもとに、自分の目線と判断で、自分の好きなこと・やりたいことをやっていくってことが必要なのかもしれません。でも、これって、今時、勤め人でなく、フリーランスを薦める場合に言われていることに似てませんか・・。
 

「現場の力」を発揮する方法論とは — 遠藤功「未来のスケッチ」(あさ出版)

企業や組織の成功譚に起因するビジネス書というのは、一種の危険性を有していて、その企業なりが時間の経過で業績を凋落させたり、不祥事で非難を被ったりすると、そのビジネス書で推奨した手法なりも、もろともに葬られてしまう。
その点、本書でとりあげる「旭山動物園」は、ひと頃よりは落ち着いたとはいえ、160万人の入場者が続いているようで、本書で説かれる手法やノウハウもまだ有効性をもっているといっていい。
 
構成は
 
プロローグ 旭山動物園の「現場力」を支えるもの
第1章 すべては「一四枚のスケッチ」から始まった
第2章 本物の競争力はどこから生まれるか
第3章 ほかと同じものを作ってもしょうがない
第4章 元気で強い「現場」をつくる三つの要因
第5章 「串団子」で個を活かす
第6章 顧客の「感動」が最大のマーケティング
第7章 大切なのはチャレンジャーであり続けること
エピローグ 「明るく、正直で、前向き」であることの強さ
 
となっていて、組織の成功の「昔話」の部分もあることはあるのだが、どちらかといえば、その「成功」の要因分析の記述が多いのが本書の良心的なところであろう。
 
で、本書で重要視されるのは「現場」ということで
 
語られる言葉が後ろ向きなものばかりでは、現場のモチベーションはずるずると低下していきます。現場が活力を失えば、同時に危機に耐えうる粘り強さも失われていきます、厳しい環境を乗り越えるときこそ、目線を下げ、未来を志向するための「旗」が必要なのです。辛くて大変なときだからこそ、夢を語り、理想を掲げる。それによって、いま直面する危機に立ち向かいう力も湧いてきます。
 
といったところは、いわゆる「現場主義」の論述と同じであるのだが、
 
うちは「串団子」なんです。団子ひとつずつを見れば、大きい、小さいといろいろある。大切なのは、それぞれの団子が一本の「軸」に刺さっていること。「軸」に刺さってさえいれば、大きい、小さいは個性であり、その個性を活かせばいい
 
といった、「本社」と違って「現場」の能力の不揃いなところや、
 
行動展示というイノベーションは、現場がこうして積み重ねてきた小さな創意工夫の総称といっていいでしょう。
イノベーションは一般的に「革新」と訳され、ものごとが一気に変わっていくことを連想させます。しかし、旭山動物園の場合、一日にして革新が起きたわけではありません。現場が一つずつ小さな創意工夫を積み上げて、振り返ってみたら、行動展示という大きなイノベーションとなり、差別化につながっていったのです
 
といった予算や人員が限られた現場の状況を踏まえた論述がされていて、よくある、本社から見た「現場重視」論であるとか、上から見た「現場認識」によくある「虚構の現場」に陥いっていないところは好印象。
 
もっとも、こうしたイノベーション、組織改革が成功しても、いつの間にか雲散霧消してしまうことはよくあることで、本書にいう
 
その多くはたとえ差別化に成功しても単発で終わってしまい、後が続きません。属人的なアイデアや小手先の差別化に終始しているからです。差別化とは、「信念」で裏打ちされた自分たちの存在理由、つまり「自社らしさ」にこだわり続けることにほかなりません
 
といったことに継続的に心せねばならないのは間違いない。
ともあれ、「思いを形にする方法」とか「現場重視のリーダーの在り方」とかは本書に直にあたってもらうとして、
 
旭山動物園が自らの現場力を高めることができた要因は、三つあると考えています。まず「何でも自分たちでやったこと」、次に「失敗を恐れずにチャレンジし続けたこと」、そして「現場の一人一人に、強烈な使命感があったこと」
 
という言葉を胸において、現場が頑張り、頑張れる体制・仕組みをつくることが一番大切なのかもしれんですね。

ビジネス読書には「教養書」が必須 — 山口 周「外資系コンサルが教える読書を仕事につなげる技術」(中経出版)

帯に「MBAに行かずに独学だけで・・・」「1000冊読んで・・・」といった言葉が踊るので「多読の読書術」と思うむきもあるかもしれないが、むしろ「精読の読書術」といった趣があるので注意しておいたほうがいい。
 
構成は
 
第1章 「仕事につなげる読書」6つの大原則
第2章 【ビジネス書×何を読むか】ビジネス書は「これだけ」読めばいい
第3章 【ビジネス書×どう読むか】古典には読む「順番」がある
第4章 【教養書×何を読むか】好きな本を読んで「ライバルと差別化」する
第5章 【教養書×何を読むか】情報の「イケス」をつくれ
第6章 「書店を散歩する」技術
第7章 「本棚」で読書を仕事につなげる
特別付録 これだけ読めばいい!「ビジネス書マンダラ」
 
となっていて、「仕事のための読書で「教養書」の扱いが出てきていて。これは
 
逆に言えば、経営学を学ぶにあたっては次々に出されるビジネス書の新刊を読む必要はない、ということです。
 
という考えによるもののようだが、このあたり、他の著書と同じく、山口氏の独自の切り口・斬新さが光るところであろう。
 
本書には、コンサルタント経験を活かした、特定分野に短期間に詳しくなる方法として
 
「知的生産」にかかわる仕事をしていると、短期間である分野の知識を集中的に学ばなければならない場面があると思います。
(中略)
このようなときにお勧めしたいのが、入門書5冊+専門書5冊=10冊の「1日読書」です。午前中を入門書の斜め読みに、午後は専門書の拾い読みにあてる、というのが基本的なプログラムです。
(中略)
5冊を午前中の2〜3時間を使って斜め読みします。斜め読みでは㈰図表だけ、㈪パラグラフの冒頭で自然と引き込まれた箇所だけ、を読みます。どんなに長くてもおそらく1冊につき30分程度で済むはずです。
午後は専門書。午前中につかんだ全体像やキーワードをもとに、特に深めたい部分を集中して読みます。
(中略)
ここでポイントになるのが、期限を1日に限定するということです
 
といったテクニックも随所に照会されているので、それを拾っていくのも本書活用の一方法だが、当方的には
 
定番のビジネス書がビジネスにおける規定演技だとすれば、リベラルアーツに関連する書籍はビジネスにおける自由演技に相当します。そして、そこでどれだけユニークな本を読み、それを自分の血肉としてアウトプットにつなげていくかが、「その人らしさ」を左右することになります。
 
成功する人には「さまざまな出会いや偶然を、前向きに楽しめる」という共通項があることがわかっています
 
といったことを基本にして
 
自分が重要だと思った情報は、脳内に記憶するのではなく、いつでもアクセス可能な場所=イケスにそのまま泳がせておき。状況に応じて調達し、他の情報と組み合わせて調理=知的生産するほうが合理的です
 
 
1冊の本でインプットした情報(魚)をイケスにいれるためには、次のようなステップで1冊を3回読みます
ーーーー
1回目:線を引く、2回目:5つ選ぶ、3回目:転記する
ーーーー
1回目→2回目→3回目と、自分にとって必要な情報をスクリーニングしていくのです
筆者の場合、アンダーラインの箇所がどんなに多かったとしても、イケスに放り込むのは基本的に5カ所、どんなに多くても9つまでにしています
 
あるいは
 
本の活用方法は2つしかありません。ひとつは、重要と思われる箇所を転記して必要に応じていつでもアクセスできるようにすること。もうひとつは、折りに触れて再読することです。
 
といった、読書による「継続的な知的生産」の手法をすくいとっていくというのが良いようだ。
 
本書に引用するスティ−ブ・ジョブズの言葉によると
 
創造性とは「なにかをつなげること」なんだ。クリエイティブな人に対して、どうt¥やって創造したのかを尋ねたら、彼らはちょっとバツが悪いんじゃないかな。なぜなら、実際になにかを作り出すなんてことはしていないから。彼らはただ自分の経験から得られた知見をつなぎ合わせて、それを新しいモノゴトに統合させるんだ
 
とのこと。自分は独創的でないから・・と悩まず、読書による「創造性の創出」にチャレンジしようではありませんか。

「論理的思考」は究極の仕事術ではないかも — 山口 周「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか」(光文社新書)

「美術」といえば、当方の学生時代は、よほど成績が良くて、しかも絵心のあるというかなり特殊な、語弊を恐れず言うと、コミックの中でしかないようなものだったのだが、どうやら、エリートというか組織の決定権を持つ人にとっては、重要な価値判断は「美意識」が肝なのよ、ということらしい。
 
構成は
 
はじめに
名門美術学校の意外な上顧客
忙しい読者のために
本書における「経営の美意識」の適用範囲
 
第1章 論理的・理性的な情報処理スキルの限界
第2章 巨大な「自己実現欲求の市場」の登場
第3章 システムの変化が早すぎる世界
第4章 脳科学と美意識
第5章 受験エリートと美意識
第6章 美のモノサシ
第7章 どう「美意識」を鍛えるか?
 
おわりに
 
となっているのだが、基本のところは、コンサルタントが力説する「ロジカル」なんとか、とか、論理性などいうことは実はマジックワードではなくて
 
確かに、過去の経営史を紐解いてみれば、優れた意思決定の多くは、論理的に説明できないことが多い。つまり、これは「非論理的」なのではなく「超論理的」だということです。一方で、過去の失敗事例を紐解いてみると、その多くは論理的に説明できることが多い。つまり「論理を踏み外した先に、いくら直感や感性を駆動しても、勝利はない」ということです。
 
といったことらしく、これはよくある社内研修やらMBAの真似事研修を、真っ向から否定するもので痛快ではあるし、
 
億万長者で、ステレオコンポ会社のCEOであるハーマンは、MBA取得者を雇うことにまったく値打ちを感じないのだという。その代わりに、と彼は言う。 「『詩人をマネージャーにしなさい』と言うんだ。詩人というのは独創的なシステム思考ができる人だからね。彼らは自分たちの住む世界を観察し、その意味を読み取る義務を感じている。
 
といったあたりには、今までの「デキる人」という認識を揺さぶってくる。
 
で、そうした論理的思考がもたらすものが、ともすれば「常識」とか「世間知」というものから離れがちであることはなんとなく感じていて、そこを
 
わかりやすいシステムを一種のゲームとして与えられ、それを上手にこなせばどんどん年収も地位も上がっていくというとき、システムに適応し、言うなればハムスターのようにカラカラとシステムの歯車を回している自分を、より高い次元から俯瞰的に眺める。そのようなメタ認知の能力を獲得し、自分の「有り様」について、システム内の評価とは別のモノサシで評価するためにも「美意識」が求められる、ということです。
 
と看破する論調は小気味良い。
 
そして、では、そうしたシステムに用意される判断基準から離れた時の「基準は何か
」ということについては
 
「自分がいいと思うかどうか、ピンとくるかどうか」が最終的な意思決定の立脚点であって、データや説明などは参照しない、むしろそんなものが必要になっている時点で、そのデザインはダメだというわけです。
 
 
システムの内部にいて、これに最適化しながらも、システムそのものへの懐疑は失わない。そして、システムの有り様に対して発言力や影響力を発揮できるだけの権力を獲得するためにしたたかに動き回りながら、理想的な社会の実現に向けて、システムの改変を試みる。
 
といった、ちょっと「ヒネ」た対応が必要となるようだ。
 
なんにせよ、「エリートの判断ミスによる業績凋落」や「組織的隠蔽による企業危機」といったことが、どぷやら日常茶飯のように生じている今、
 
システムを改変できるのはシステムの内部にいて影響力と発言力を持つエリートですが、そのエリートが、システムの歪みそのものから大きな便益を得ているため、システムの歪みを矯正するインセンティブがない。システムに参加しているプレイヤーが各人の利益を最大化しようとして振る舞うことで、全体としての利得は縮小してしまうわけで、これはゲーム理論でいうナッシュ均衡の状態です。これが、現在の世界が抱えている問題がなかなか解決できない本質的な理由です。
 
といった、「はぐれ者」の処世方法が有効になっているようなのであるが、さて、個人的にどうこなすか、結構、難しい処世術ではありますな。

「礼」に始まり「礼」に終わる「掃除」で評判を勝ち得た会社の真髄は? — 遠藤功「新幹線お掃除の天使たち」(アサ出版)

最近、偽装やら違法な検査体制などが続発して、日本企業の美点といわれていたものが、かなり揺らいでいる。しかも今まで評判の高い企業でおおがかりな不正がでてくるものだから、企業の成功物語や好事例をとりあげると、あとから「あらら〜」となることがあるのだが、本書で取り上げられている「テッセイ」は、評判になったのが2016年のはじめで、そこから評判を落としたと言ったニュースもネット上にはく、まずは安心してレビューしよう。
 
構成は
 
プロローグ なぜ新幹線の車両清掃会社がこれほど私達の胸を打つのか?
第1部 「新幹線劇場」で本当にあった心温まるストーリー
    〜エンジェル・リポートから〜
第2部 「新幹線劇場」はどのようにして生まれたのか?
 「地ならし」のための600日
 変革の「芽」を育てた1100日
 「幹」を育てた700日
 新たなステージに向う100日
 
となっていて、JR東海の新幹線などの車両内の清掃やプラットフォームの案内業務を行っている「テッセイ」という会社のルポである。
 
ただ、この会社、そんじょそこらの清掃会社ではなく
 
テッセイの車両清掃チームは、担当する列車が入線する3分前にホームに到着し、ホーム際に一列に整列します。そして、列車がホームに入ってくると深々とお辞儀をして出迎えます。(P25)
 
に始まり、素晴らしいチームワークで、停車中の「7分間」でトイレから座席までの清掃をピカピカに仕上げる会社で、
おおまかには、プロローグはテッセイという会社の解説。第1部は、この会社に勤務する人のレポート。第2部は、この会社の
 
で、まあこの会社の素晴らしさ、組織やチームづくりといったことは、今まで多くの記事などで取り上げられているので、当方が蛇足を加える愚は避けて、「おや」と思ったのは、「組織の正式な一員になること(本書では「正社員になること」)への意欲、あるいは「組織へ参加すること」への意欲のあたり。
 
それは、パートから正社員になるための面接で、
 
面接で社員になりたい動機を聞かれ、親類に隠していた話、少しづつ仕事に誇りを持てるようになった話をして、こう締めくくりました。
「私はこの会社に入るとき、プライドを捨てました。でも、この会社に入って、新しいプライドを得たんです。」(P43)
 
であったり、
 
人間は、形から入る、格好から入ることが大切なこともあるのです。
スポーツでよく言われるのは、道具や靴がその人の潜在能力を呼び覚ますことがあるということです。私は野球やスキーをやっていて、道具の大切さをわかっています。みんなで同じものを身につけて共通の意識を持てるようになるということも、そこで実感してきたことです(P130)
 
といったように、「掃除」という”3K”でもある仕事にプライドを持たせ、チームとしての一体感をつくっていくという営みが続けられる中で、”組織体との帰属感”というものが、強い会社、頑張る組織づくりにかなりの効果をもっているように思え、このへんは「ちきりん」さんや「メイロマ」さんには、認識不足と時代錯誤を叱られるかもしれない。
 
ただ、本書を読むと、旧来型の勤め人をしてきて、組織への帰属になんとはなしの安心感を得ている、大多数の「サラリーマン」に属するであろう当方としては、
 
このプロジェクトでは、現場への大幅な権限委譲を行いました。
これまでは、現場からよいアイデアが生まれても、それを実行に移すためには本社での審議・承認が必要でした。
答が出るまでに時間がかかったり、待たされた挙句にNOの答がでることもありました。それでは、現場のやる気も萎えてしまいます。
そうした弊害をなくすために、現場を散り仕切る現場長に予算と権限を与え、現場のアイデアに即座に対応できるようにしたのです。これおによって、大規模な予算を伴うものでなければ、それぞれの現場で判断し、実行に移すことができます。
「褒める」仕組みも、それぞれの現場での独自性を認めるようになりました。(P180)
 
といった組織運営の修正パッチはいくつかあてつつも、この「組織への帰属感」というものが、スムーズに組織を運営し、業績を上げる上で、まだまだ大きな力を残しているように思えるのである。
 
このあたり、本書では
 
経営は「常」と「変」のバランスが命です。変えるべきものは大胆に変える一方で、変えてはいけない常なるものは、愚直に継続することが大切です(P183)
 
という言葉もある。何を「常」とすべきで、何を「変」とすべきか、それぞれの置かれた状況に応じて、流行りに流されることなく、よくよく見極めないといけないのかもしれんですね。

「23年」という時間のもつ重み — 国谷裕子「キャスターという仕事」(岩波新書)

本書の冒頭を読んで「23年か・・」という言葉が思わず出た。長寿テレビ番組は数々あるが、ほぼ毎日、デイリーでトピックな話題を、より客観的な視点から取り上げ、世論の潮流をつくってきた、「名物キャスター」国谷裕子氏への賛辞でもありつつ、良きも悪きも、その長期間に変わっていった「日本社会」への嘆息でもある。
 
構成は
 
第1章 ハルバースタムの警告
第2章 自分へのリベンジ
第3章 クローズアップ現代
第4章 キャスターの役割
第5章 試写という戦場
第6章 前説とゲストトーク
第7章 インタビューの仕事
第8章 問い続けること
第9章 失った信頼
第10章 変わりゆく時代の中で
終章 クローズアップ現代の23年を終えて
 
となっていて、クローズアップ現代が始まる前の、国谷氏の下積みキャスター時代から始まり、突然の「番組編成の変更」という理由で、キャスターから降板するまでの、まあ、「クロ現」年代記、というべき仕立てである。
 
なので、本書の読み方も三通りあるような気がしていて、一つは「国谷裕子」というキャスターが
 
キャスターという仕事に偶然めぐり会い、抜擢されて総合テレビに出たものの、経験と能力不足が露呈し、わずか一年で外された
 
という屈辱から
 
インタビューで私は多くの批判も受けてきたが、二三年間、〈クローズアップ現代〉のキャスターとしての仕事の核は、問いを出し続けることであったように思う
 
という回顧に見られるように、日本のTVの中での「キャスター」というものの立ち位置を確立し、ニュース番組になくてはならないものに格上げしていった「出世物語」「成長物語」として読む。
 
もう一つは
 
インタビューに対する「風圧」インタビューを軸にした番組を何回か繰り返すうちに、私は、日本の社会に特有のインタビューの難しさ、インタビューに対する「風圧」とも言える同調圧力をたびたび経験する
 
 
クローズアップ現代〉のキャスターを扣叫してきて、日本社会で何が一番変化したと感じているのかと問われると、「雇用」が一番変化している、と杵えることが多かった
 
という状況を受けての
 
戦後、世界でも一位、二位を競う豊かな国になっていたはずの日本で、経済格差は広がり、呪在、子どもの六人に一人が貧困状態に樅かれ、保育など大事な公共サービスを担う人材に、生活が十分に維持できる賃金が支払われない国になってしまっている。
時代の勢いに乗って伝えていくことは、時代に向き合うメディアとして当然のことだったかもしれないが、結果としてあまりに、社会の空気に同調しすぎていたのではなかったのか。
リーマンショックで起きたことを目の当たりにして、なぜもっと俯瞰して見ることがそれまでできなかったのか。
なぜもっと早く、弱い立場に置かれている人々に寄り添った新しい制度の構築が必要であるという想像力が働かなかったのだろうか。深く考えさせられた。
 
といった、クローズアップ現代が始まった頃の時代から現代までの日本の社会の変化とそれに対するメディアの関わりと責任の話。
 
そして最後は
 
この沈黙の一七秒は、高倉さんにとって自分の話すべき言葉を探している大事な時間だったのではないだろうか。このインタビューで私は「待つ」ことの大切さを学んだ気がする。間(ま)を恐れて、次から次へと質問を繰り出すことで、かえって、良い話を聞くチャンスを失ってしまうかもしれないのだ。
「待つこと」も「聞くこと」につながる。
 
 
この人に感謝したい、この人の改革を支持したいという感情の共同体とでも言うべきものがあるなかでインタビューをする場合、私は、そういう一体感があるからこそ、あえてネガティブな方向からの質問をするべきと考えている。
その質問にどう答えるのか、その答えから、その人がやろうとしていることを浮き彫りにできると思う。
 
といったインタビュアー、キャスターの心得的なものを読み解いてみてもよいのかもしれない。
 
まあ、23年間の追想が、いろんな読み取り方が出来るというのも「クロ現」と「国谷裕子」というとりあわせが単なるニュース解説番組ではなかったことの証左であるような気がして、残念ながら、時代を映し出していった「クロ現」もキャスター変更を経て、その性格が変わっていっているような気がするのである。
 
「国谷裕子のクロ現」、「クロ現の国谷裕子」であったのですかね。

「会話力」は ”人間生活+出世” の基礎であるようだ — 斎藤 孝「すごい「会話力」」(講談社現代新書)

斎藤孝先生は、「◯◯力」という言葉を生み出す名人でもあって、今までも「雑談力」とか「語彙力」とか、思わず「えっ」と引き寄せられる言葉をつくり出してきている。
そういう著者の今回の「◯◯力」は「会話(力)」。
 
ただ今回は「会話」というちょっとありふれた言葉を使っているので「すごい」と「会話力」が融合して初めて気を引くかな、と思う次第。
で、その「すごい会話力」とは「交友(友人と良い関係を築く)」「仕事」「愛(恋愛し、結婚し、家族を形成する」の人生の三つの課題をこなしていく総合的な会話力であるそうな。
 
さて、本書の構成は
 
まえがきー会話部への御招待
第1章 会話の構造ー会話力は実は上達が早い
第2章 「会話身体」で人間関係力を磨く
第3章 情報交換とは「贈与」と「返礼」の精神
第4章 マインドフルネスー幸福感を味わう
第5章 活字力と「後輩力」で差をつける
第6章 「大人会話力」でパワーアップ
第7章 言葉遣いのセンスを古典と名作に学ぶ
終章 究極の会話力
あとがきー座の会話力へ
 
で、本書で言う「会話力」とは
 
会話には三つの段階があり、それぞれの段階に応じた会話力が求められます。
一番基礎的な会話力は、言葉のやりとりを通じて相手と仲良くなる「雑談力」です。(P30)
 
私達の会話の大半は雑談なのです。
・・・実は雑談には、その場の人間同士の距離を縮め、場の空気を和らげる力があります(P31)
 
会話力の第2段階は「意味のやり取り」の会話力です。・・・これは、言い換えれば、相手の話の意味を上手に要約する力です。(P35)
 
さらにその上をいく最上位の第3段階が「クリエイティブな会話力」です・
これは話しているうちに「ああ、それならこうやってみよう」というアイデアがお互い出てくる会話力です。
クリエイティブな会話力とは、「お互いの間に新しい意味が生まれる」会話です(P36)
 
という3つであるそうなのだが、この会話力のテクニックは
 
会話の中で、相手に何を薦める時、違う観点から三つ用意しておくと、相手に「お得感」を持ってもらうことができます(P92)
 
とか
 
「他人がジョークを言ったら盛大に笑う」(P159)
 
 
相手が何か情報を開示してくれたら、まずは「へ〜」と軽く驚くのが礼儀です(P161)
 
といった小技の集合体でもあるのだが、ジョークへの対応のあたりは欧米人の得意技でもある。
 
もっとも
 
欧米人の会話には、古典からの引用が非常にたくさん出てきます。引用を使うと話の内容が一気に教養に満ち溢れた感じになるのです。
(中略)
では何を引用すればいいのか。欧米では不動のトップ3が確定しています。旧約聖書、新約聖書、シェイクスピアの三点です(P175)
 
といったあたりは、趣味良い会話には、「教養」が欠かせんな、と我が身を振り返ってちょっと寒くなる。
 
さて、
 
人間の意思決定というものは、実は感情に左右されています。(P19)
 
現代はビジネスが高度で複雑になっていますが、じつはそこで求められる能力の中で、「感じが良い」ということは非常に大きな比重を占めるようになってきています。(P25)
 
といった時代風景の中で
 
人の幸福感は、何によって増やすことが出来るのでしょうか。私は「会話」だと確信しています。(P28)
 
と、「会話」の重要性を一貫して主張するのが本書の大筋。本書で紹介される「小技」をつまみながら、会話の力を磨いてみてはいかがかな。

アメリカ流フロンティア精神で前へ前へと進んでいく方法論 — 「やり抜く人の9つの習慣ーコロンビア大学の成功の科学」(Discover)

アメリカの成功に向けたステップを解説するビジネス本は、日本のそれに比べて妙な説教臭さや求道精神がないのが好みである。
本書もそうしたアメリカ流ビジネス本のスタンダードのようなつくりで、一種の明るさをもって、これから仕事や人生にどう向うかってなことを考えさせてくれる。
 
構成は
 
第1章 目標に具体性を与える
第2章 目標達成への行動計画をつくる
第3章 目標までの距離を意識する
第4章 現実的楽観主義者になる
第5章 「成長すること」に集中する
第6章 「やり抜く力」を持つ
第7章 筋肉を鍛えるように意志力を鍛える
第8章 自分を追い込まない
第9章 「やめるべきこと」より「やるべきこと」に集中する
 
となっていて、目次を見てわかるように、人生ないしは仕事でどういう目標を設定し、それをどう達成するか、といったアメリカらしいプラグマティックなつくりである。
 
それは
 
目標について、私がいつも最初に教えることーそれは「具体的にしなさい」ということです。例えば、「やせたい」と思うのならば、目標は「やせる」ではなく「5キロやせる」とすべきです。
 
とか
 
「これから思考」を重視して、目標までの距離を測ると、モチベーヨンは維持されます。さらには、「これからやるべきこと」を意識することでモチベーションを高めることもできます。
 
「望むことは簡単にできる」「ほしいものは簡単に手に入る」と感上げると失敗の確立が高まるという研究があります。
 
といったところにも見て取れる。
 
目標を設定するときは「今、何ができるのか」ではなく「これから、何ができるようになりたいか」を考えるようにしてください。
 
 
「証明ゴール」の問題点は、まったく未知の課題や難しい課題に取り組むときに、逆効果になる可能性があることです。
 
「成長すること」にフォーカスすると「仕事の意味」が変わってきます。
 
といったところは、とかく求道的になって、新しい課題がでてくると縮んでしまう”日本”のやり方とは対象的におおしろい。
 
そして、こうした楽天的なビジネス本で嬉しいのは、打ちひしがれているときや、失敗して失意の中にいるときに、なんとか前へ立ち上がっていく力を注入してくれる所で
 
行動を変えたいのなら「やめたいこと」を考えるのではなく、「やりたいこと」「やるべきこと」を考えるのです。
 
成功とは「正しい選択」「正しい戦略」「正しい行動」によってつかむものです。決して生まれつきのDNAで決まるものではありません。
 
といったところは、とかく失敗を考えて縮みこんでしまいがちな我々の行動と精神を鼓舞してくれる一冊ですね。

手帳やノートは文字だけで構成するものではない — 「手帳で楽しむスケッチイラスト」(エムディエヌコーポレーション)

手帳術、ノート術ってものは、ちょっと深みにはいりかけたあたらりが一番面白いような気がしていて、はまりこむところは、人によってはスタンプであったり、シールであったりとい千差万別ではあるのだが、憧れつつもなかなか敷居の高いのが、「イラスト」というやつ。
 
本書は、そうした「イラスト)をノートや手帳にばりばり使っている人たちの実際の写真などを紹介しながら、レポートしてくれる。
 
構成は
 
第1章 達人の手帳を大公開
第2章 すぐに描ける・使えるイラストの描き方
第3章 スケッチ手帳を使いこなすためのヒント集102
第4章 相棒探しのために知っておきたい基本の「き」
 
となっているのだが、ボリューム的には第1章が一番多く、第2章以降は、まあ、技術論を少々プラスしました、といった感じで読んだほうがよさそうだ。
であるのだが、こうした手帳術とおいうものは、くだくだと理論編は続く、というのが一番退屈なもので、こうした実際の「達人」たちのノート、手帳がビジュアルに見えるものが最も楽しい「手帳本」になりうると確信している。
 
紹介されるのはイラストレーター、造形家といったところがメインなので、コクヨのノートシリーズや日経アソシエの手帳特集といったところとは一線を画すのであるが、やはりイラストのプロたちの手帳は、実際に真似できるかどうかは別として楽しいのは事実。
 
どこまで自分の手帳やノート術に取り込めるかは別として、「絵心」あふれる技の数々は見ていて楽しいですな。