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豊臣家の恨みを果たそうとするシリーズ最大の強敵現る — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 14 将軍の首」(二見時代小説文庫)

つかの間の平穏というべきか、大名・旗本家のお家騒動まがいや市中の小ぶりの事件を解決し、「水戸黄門」風の世間の評価も高まってきていた信平公なのだが、この巻からはそうはいかないようだ。
収録は
第一話 将軍の首
第二話 改易の危機
第三話 強敵
第四話 いくさ支度
となっていて、大筋的には幕府転覆を狙う、豊臣家の残党との対決であるのだが、相手方は日本を股にかけているようで、ネタバレ的に言うとこの巻だけでは終結しない。
発端は江戸城大手門に瓢箪をさげた「宗之介」と名乗る侍が、大名・旗本たちの登場日の早朝、門を警備する侍たちを襲撃し、彼らの手足の筋を切って警備をズタズタにしてしまうところから始まる。
今回出現する「敵役」は「神宮寺 翔」という豊臣秀吉恩顧の武将の末裔で、この一族は二代将軍秀忠の時に、豊臣家を裏切った大名家を襲ったという前歴がある、というもの。その配下が、前述の「宗之介」なのだが、「翔」の雰囲気とか「宗之介」の口ぶり・振る舞いが、以前流行した「るろうに剣心」の「志々雄真実」あたりのキャラ・イメージを思い出すのは当方だけか・・。まあ、幕府転覆の陰謀のしつらえとかは、「志々雄」の場合より凝ったつくりであるので問題はない。
「神宮寺 翔」率いる一派は手練揃いの上に大人数。その後、老中や大目付が襲われ、事態を重く見た将軍家は、信平をその探索と鎮圧の任を任せるが、老中と反目し、その任を解かれてしまう。江戸市中の警護は、旗本の強者たちに任されるが、相手の強さは半端なく、信平公が再出馬。さて江戸の迫る危難を防ぐことができるか・・・といった感じが大筋のところ。
さて、シリーズ最大のデカイ事件にぶつかった信平公。史実では、七千石まで所領が増え、元禄二年まで行きているので、賊の手にかかるってなことはないでしょうが、今度の敵は、松姫や長男・福千代もその襲撃の対象にしてくる、冷酷な輩である。果たして、皆が無事なままで、事件を収めることができるか、ちょっと心配な展開になりましたな。

公家にはなつかぬ坂東武者の末裔を、どう心服させるか — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 12 領地の乱」(二見時代小説文庫)

都の騒乱を鎮め、江戸に帰還し、領地の加増を受けた信平が、その領地を受け取るまでに起きる江戸の事件の解決と、賜った領地での大騒動がこの巻。
構成は
第一話 あくび大名
第二話 晴天の鳥
第三話 堅物と坂東武者
第四話 領地の乱
となっていて、第一話、第二話が、江戸での話。
第一話は、八千五百石の大身旗本と市中の娘との恋話。時代小説的にはよくある設定なのだが、恋の邪魔立てをするのが、娘の父親というところが斬新か。
第二話は、地方の外様藩の藩士が、参勤交代で帰郷中に、その妻の不義密通する。その相手が旗本の次男坊なのだが、どうもその妻女をだまくらかして、というわけではないので、ちょっと歯切れが悪くなる。最後は、夫婦が情愛をとりもどしました、というめでたしめでたしなのだが、当方としては、夫の態度にどうも釈然としない。
第三話、第四話は、信平が新しい家臣を得て、新領地の検分にでかけるが、新領地の領民が、祖先が坂東武者であることと将軍直下の天領であったことに高いプライドを持っていて、なかなか信平に靡こうとしない。
そうこうするうちに、関八州を荒らしまくる、大盗賊団がその領地を狙い、実効支配を始めるが・・・、というのがおおまかな筋。結末は、まあご想像のとおりなのだが、結構ハラハラ、ワクワクさせる出来具合である。
さて、さすがに新領民に白い目で見られている中での大盗賊団との闘争は結構歯ごたえがあるのだが、だんだんに、信平の「水戸黄門」ばりの悪人退治も板についてきた。これから「漫遊記」的に、悪人をぷつぷつ潰していく展開になるか、あるいは巨悪がでてくるか、ちょっと気になるところでありますね。

久々に江戸に帰っての、信平の活躍はどうだ — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 11 乱れ坊主」(二見時代小説文庫)

京の都で、幕府に叛旗を翻そうとする陰謀を阻止した信平のその後の京、そして江戸帰還後の活躍を描くのが本巻。
構成は
第一話 林檎の香り
第二話 乱れ坊主
第三話 狙われた友
第四話 死闘!鳳凰の舞
となっていて、第一話は京都、第二話以降は江戸が舞台。そして、今回は大事件の解決後とあって、大陰謀はなし。
第一話は、佐賀藩京屋敷の書物方の息子の江戸留学を助ける話であるのだが、これに信平の妻・松姫の悪阻の治療が絡む。人助けが信平の江戸帰還の助けになるという、「情けは人の◯◯」の諺を地で行く展開。
第二話は、同心・五味のところへ逃げ込んできた、美女・秋にまつわる事件。「乱れ坊主」というのは小石川・長仙寺の親兼という坊主のことなのだが、こいつが二十年前に取り潰された旗本の成れの果てらしく。こういった設定どおり、旗本に対する恨みを持っていて、旗本の妻や娘を毒牙にかける、という「必殺△△人」っぽい設定。
第三話は善衛門の弟弟子の旗本・梅村春宗の息子に関連する事件。彼の長男は何者かに襲われ命を落としたのだが、次男・敬之介も襲われる。ために敬之介助は家督を継ぐのを嫌がって・・・という展開。事件の首謀には、春宗を逆恨みする旗本がいるのだが、その旗本の動機の影には息子可愛さの教育パパ・ママの気配がするのが現代的。
第四話はひさびさの大活劇。この話の敵役・紫女井左京はかなりの剣の使い手。この男が、とりたてた動機もなく、江戸市中の剣術家相手のとにかく暴れこんでくるのだから、凶暴極まりない。とかく、こうした理由のない暴れ者というのは、理性的につけこむところがないから、手がつけられなくなるのはいつの時代も同じであるようだ。そして、さすがの信平の彼の剣技によって・・・、というところで結末は原書で確認いただきたい。
ひさびさの単話仕立てであるが、長編ものと違って、それぞれ違った味わいの仕立てがされている。長いシリーズものの、ちょっとした箸休め、といったところでありますかな。

都の騒乱の根っこには江戸幕府の朝廷圧迫の歴史がある — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 10 宮中の華」(二見時代小説文庫)

前巻で、将軍御台所の暗殺の謀みから、実の姉の御台所を救った、信平であったが、その原因となっている都の騒動を鎮めるために、京へ出向くのが今巻。構成は
 
第一話 上洛の道
第二話 大井川の老馬
第三話 陰謀
第四話 やぶれ笠の鬼
第五話 宮中の華
 
となっていて、江戸からの出発から、京都での騒動の元凶と対峙するところまで。お供するのは、善衛門、佐吉、お初まではまだしも、同心の五味も同行することになるので、かなり大部隊での京都入りではあるが、都いり早々に将軍家から「京都所司代  」を命じられるので、まあ多いほどそれらしく物々しくて良い、ということか。
 
肝心の敵役は、前巻で、御台所暗殺未遂に深く関わっていた「藤原伊竹」と後水尾条上皇の隠し娘の「嵯峨」、そして、この女性の虜になってしまった下杉勝幸といった面々。もっとも、このシリーズ、悪役としてとことん懲らしめられるのは最小限にするといった不文律があるようで、最後まで悪役になるのは、前巻から因縁のある「藤原伊竹」のみ。
 
今回の筋は、単純化すると、「宮中の華」といわれ、天皇に愛された母親(沢子)の宮中からの追放後、落ちぶれつつも美しく成長した沢子の娘「嵯峨」の徳川幕府への深い恨みを利用して成り上がろうとする藤原伊竹の野望を松平信平が阻止する話なのだが、その脇に
 
上皇はな、皇族に根を張ろうとする徳川に抗うたのじゃ。徳川家の姫である東福門院とのあいだに生まれた女一宮を、未婚のうちに天皇にした。それが明正天皇じゃ。
(中略)
上皇の反撃に酔って未婚の天皇にされた明正天皇は、古よりの決まりによって結婚を許されず、生涯独り身。女としての幸せを奪われた。これにより、宮中の徳川の地は絶たれることになった。それに対する報復ともいうべきことが、遠く離れた江戸城で起きた。それはな、将軍家光に嫁いだ信平の姉孝子殿が、春日局の仕返しともいうべき仕打ちをされ、大奥から追放され、家光公から遠ざけられたのだ
 
といった、徳川幕府草創期の幕府と朝廷との主導権争いも色濃く影響していて、単純に、伊竹の無謀な野望のみが非難されるべきものではない。
このへんの幕府VS朝廷のところは、井沢元彦氏の「ダビデの星の暗号」あたりでも取り上げているのだが、そのレビューはまた別のところで。
 
さて、今回も首尾よく都の騒乱を鎮めた格好の松平信平なのであるが、この任務の完了とは別に、本当の慶事がある。それは何かは、本書の最後の方で確認あれ。
 

悪党はしっかり信平に懲らしめてもらわないといけないね — 佐々木裕一「公家武者松平信平 9 将軍の宴」(二見時代小説文庫)

前巻で江戸を荒した女盗賊の騒動を収めたところとあって、今巻は江戸中を騒がすような悪党はひとまず鳴りを潜めている状態。ただ、弱い者の血を吸って生きている輩はつきないもので、今回は、そういう事件の解決譚。
 
収録は
 
第一話 鉄の証文
第二話 神楽坂の虎
第三話 天下の茶碗
第四話 将軍の宴
 
と四話。
 
最初の「鉄の証文」は火事から自家の財産を守ろうとして一種の火災保険を請け負う”金貸し”の悪行を懲らしめる話。
 
第二話の「神楽坂の虎」は、神楽坂の早坂道場と牛込御門内の飯田道場、二つの剣術道場のそれぞれの息子・娘の縁談話に端を発した、両道場の争い。陰に、息子の仕官を図ろうとする早坂道場の道場主である父親の奸計が話を陰惨にする。
 
第三話は、茶道具自慢の高家(こうけ)と、それをとりまく札差によって、寺宝の茶碗を自ら壊させられる住職の危難を救う話。とはいうものの、壊された茶碗が実は・・、というのはちょっと出来過ぎの感あり。
 
最後の第四話は、信平の実姉で、将軍の御台所の暗殺の謀略に、信平が立ち向かうもの。この事件を解決したのがきっかけで、信平は、江戸と京都、両方に屋敷を拝領するのだが、これがどういう展開を招くかは、次巻以降で、といったところである。
 
総じて、このシリーズは善玉と悪玉がくっきりと別れている。なので、時代劇っぽく、悪玉の悪辣さに憤慨し、主人公・信平が、満を持して立ち上がり、バッタバッタと悪党をなぎ倒す、といったところを難しく考えずに楽しんでしまうのがよろしい。「理屈はいいから、まず呑め」ってな居酒屋のやり取りっぽく読むのがよいのである。

美人の女盗賊は処刑後もいろいろ騒ぎをおこすのであった — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 8 黄泉の女」(二見時代小説文庫)

公家武者シリーズの第8巻目は、前巻の女盗賊の話の後日談。
収録は
 
第一話 黄泉の女
第二話 雷鳴
第三話 駆け落ち
第四話 追い出された大名
 
となっていて、後日談は第一話、第二話。
大筋は、処刑されたはずの女盗賊「蛇の権六」が蘇ったのか、そっくりの盗賊が彼女の取り調べと処刑に関わった役人たちへの復讐を始まる。当然、権六の捕縛と彼女の鼻柱を潰した「お初」にもその手は及び、さらには信平も襲われるのだが、その陰で盗賊たちを操るものは・・・、といったもの。
悪党とはいえ、美人には弱いのが本書のお決まりで、権六が盗賊を始めたのには、彼女の家と弟に絡んだ秘密が・・、といったことが根底にあって、そこに、その思惑を利用する悪い武家、といった設定。
 
第三話、第四話は、「蛇の権六」騒ぎの口直しといったところ。
 
第三話の「駆け落ち」は信平が自分の家中に迎え入れたい浪人者とその妻の話。発端は、奥平家に出入りする風間という浪人者が、前話で、権六一派に襲われたお初を助けたことに始まる。その剣の腕と人柄に信平ほかが惚れ込んで家臣にと申し出るのだが、彼とその妻の静江には何か仕官できないワケアリの様子。どうやら、風間が以前滞在していた遠州の藩に関わりがありそうなのだが・・というもの。
 
第四話は、水戸家から嫁さんをもらったがために、その嫁さんと家臣に軽んじれるようになってしまった殿さんの話。いつの世も、なまじ名家から嫁さんをもらってしまうと苦労が絶えないようなのだが、この話は家臣も嫁さん方についてしまうんで、なおさら質が悪い。まあ、最後は、旦那さんの価値が見直されてメデタシメデタシなのだが、嫁さんに加担していた家老は遠ざけるか罰を与えたないとこれからの災いの種を引きずるぞ、と老婆心ながら思うところ。
 
公家武者シリーズも、松姫との暮らしも落ち着いてきて、話の展開も落ち着きをみせて円熟してきた。後口良く、さっくりと読める時代物として貴重でありますな。

いずれの時代も、大災害の後は事件が多数発生 — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 7 十万石の誘い」(二見時代小説文庫)

さて、公家武者シリーズの第7巻は、「振り袖火事」の後、まだ災害の余波が治まっていない江戸での様々な騒ぎや悪行を鷹司松平信平が平らかにしていく、といった構成。
 
第一話 信平、大名屋敷に乗り込む
第二話 十万石の誘い
第三話 土地争い
第四話 酔いどれ兵部
 
どことなく若手水戸黄門といった風情の出てきているのは、「良家の若様」の活躍物語というおおもとの筋立てゆえしょうがないところか。
 
まず第一話は、寺津藩の国家老の放蕩息子の悪行を、信平が懲らしめる話。この男、火事後の屋敷の建て直しで、人足の目付けに国元から派遣されたのだが、下屋敷で暮らすうちに賭場に出入りし、女遊びにふけり、といったところで、「遊蕩」の血はなかなか治まらないというわけか。で、この国家老の息子が、前作で長屋作りに世話になった弥三郎の想い人に懸想して、妾にしようと狼藉をはたらこうとするので、しっかりと懲らしめられるという筋。
 
第二話の「十万石の誘い」は、今回の火事で跡取り息子を亡くした大名家の跡取りに、信平が望まれる話。本来なら、紀伊大納言の娘を娶っているので、こんな話にはならないのだが、所望した相手方が、名門結城家ゆかりとあって、ことが面倒になる話。
 
第三話の「土地争い」は、火事の後にお決まりの「土地の境界争い」。争いの主は、父親同士は仲が良かったのだが、息子・娘の代になってから反目ばかりをしている蝋燭問屋と油問屋。ただ、諍いの主の片方の油問屋の娘は、相手が嫌いというわけでは・・、といった、よくある恋愛ものでもありますな。
なお、この話から、信平と松姫は晴れて同居。家臣も増えるのだが、幕府の監視の目に加えて、隣屋敷の紀伊大納言の監視の目もきついようですな。
 
最終話は、酔っ払うと剣豪になる浪人者と善右衛門の交流を書いた話。浪人の息子の仕官に絡んで、その息子の通う剣術道場の先輩たちや盗賊たちとの大立ち回りは、この話のお決まり。盗賊の頭の名は「蛇の権六」といわれる執念深い、忍び崩れの盗賊なのだが、「蛇の権六は、抱いていた若い男の裸体から離れると、襦袢を腰に巻いて手下どものもとへ出て来た。・・・徳利の酒をぐびぐびと呑んだ権六は、怯えた目を向ける門弟の前に立つと、鉄漿に染めた歯を見せて、不気味に笑った」という記述に出くわして、「盗賊は男」と決めてかかる、当方の考えの固さに反省いたす。
 
さて、今回のシリーズとしてのトピックは、晴れて松姫と同居を始めたといったところだけで、今巻の主たるところは、江戸の火事後の信平の活躍譚。もともと、肩の凝るシリーズではないので、さくさくと信平の活躍をお愉しみあれ。
 

江戸は大火事に見舞われるが、信平が男気を示して声望を高めるのであった — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 6 妖し火」(二見時代小説文庫)

明暦三年のいわゆる振り袖火事が舞台。折角、松姫との新婚生活に備えて建てた新居も焼失。もっとも江戸城の天守も焼け、御三家の屋敷も焼け、江戸市中が大焼けに焼けた大火であるから致し方ないか。
 
構成は
 
第一話 妖し火
第二話 狙われた四千両
第三話 材木騒動
第四話 記憶
 
となっていて、今回は、振り袖火事で焼け出されてから、江戸市中が復興に向かって動き始め、そして、信平が紀州家の上屋敷のそばに屋敷地を拝領するといったのが大筋ではあるんだが、お決まりの、信平に妙な意地悪を仕掛けるヤツ(今回は作事奉行)は出て来るし、信平は、幕府の考えは放っといて、自分の屋敷の建て替えに幕府から提供された資金を出して、庶民が住む長屋を造るといったことを始めるし、とまあ、物語はてんやわんやではあるが、明るく進んでいくのが、このシリーズの良さでありますな。
 
途中、松姫の怪我の具合がぼかしてあって、さてはかなりの重症かと思わせるのだが、まあ、ここは安心してよいところ。このシリーズは後をひくようなエピソードは似合わないですよね。
 
まあ、今回は、江戸を襲った未曾有の災害をネタに儲けようとする材木問屋などが登場するにせよ、あまり悩まずにわはわは読んでいけば良い。
 
もうすぐ、信平と松姫と新婚生活が始まるのですね、と慶賀の念をお示しして、今回は了としましょうか

念願の千石超えまで、あと少し — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 5 千石の夢」(二見時代文庫)

加増を重ねて、松姫と同居できる千石にはあと三百石届かない。さて、最後のハードルを、どうクリアするかな、というところが、この第5巻
 
構成は
 
第一話 桜の花びら
第二話 千石の夢
第三話 妖しき女
第四話 盗賊
 
となっていて、今巻では、京都へ父親の病気見舞へ行くのだが、出発の時から、信平が都に行ったところで、京に留め置かれて、鷹司松平家はお取り潰しという噂が流れてくるので、どうも、信平に対しての嫉妬の渦が巻いているらしいね、と思わせる滑り出し。
 
第一話は、信平に会うために屋敷を抜け出す松姫の行動を制するため、父親の頼宣があれこれと(悪)知恵を絞る話。ここで、父親の病気見舞のために京都へ行く話が出てくるのだが、そのへんが妙に絡まって、なんとも話が複雑になる。
 
第二話は、見舞いのための江戸立ちまでと、京に着いて父親を見舞うといったところ。旅立ち間際の松姫との逢引が初々しい。幸いに父親の病気は、幸いなことにすぐさま命にかかわる状態ではなく、しかも、官位のほかに加増をされて晴れて・・・、となる。この話は、次の話での急転直下も知らずのめでたしめでたしまで。
 
第三話で突然の危機がやってくる。意外に生臭な剣の旧師に再会したのはいいのだが、昔のいじめっ子の囲い者である佐間一族という山の衆の女の操る幻術にかかって、あやうく命を落としそうになる。
 
第四話では、千石を超えて知行地を与えられることになるのだが、そこは盗賊の巣窟で、年貢が千石に見合う年貢が得られない地であるらしい。知行が千石を超えても実入りの少ないうちは、姫を添わすわけにはいかないと、紀伊大納言が横槍を入れる中、盗賊退治に乗り出す話。そして、本当の盗賊が誰か。本編を読んでくださいな。
 
巻も5つを重ねて、晴れて紀伊大納言の姫君・松姫と正式に結婚するお膳立ては整ったのだが、はてさて素直にそうなりますかどうか。

とんとん拍子のレベルアップ。ステージクリアも間近か? — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 4 暴れ公卿」(二見時代文庫)

この公家武者シリーズは、一冊の中にいくつか小さな話はあるが、一つのまとまったストーリ展開というのが多いのだが、今回は久々にそれぞれが独立した物語に成っている。
 
収録は
 
第一話 子連れ善衛門
第二話 湯島天神参り
第三話 女剣士
第四話 暴れ公卿
 
の四話。ざっくりとレビューすると
 
まず「子連れ善衛門」は高座藩のお家騒動に巻き込まれる話。高座藩の嫡男・彦丸が侍女と襲われているのを善衛門が助ける。彦丸はこのショックで声を失う、というおまけつき。お家騒動は、江戸家老と国家老、江戸家老の家臣、正室が入り乱れての勢力争い、跡目争いで、騙し騙されと結構複雑な展開。
 
第二話の「湯島天神参り」は遊び人を襲って逆に右腕を切り落とされた侍を助けることが発端。侍に襲われた遊び人・四郎の正体は、武家や大店の女房や娘を騙して関係をもち、これをネタに脅して売春をさせる悪どい売春ブローカー。途中、登場する
武家の妻女の姿がなんとも切ない。最終的には、悪人は栄えず、はいつものことなのだが、一寸の虫にも五分の魂的展開は、悲しいが、なんとなく腑に落ちる展開
 
第三話の「女剣士」では、信平の臣下となった佐吉に弟子入り志願の侍が現れる。五千石の旗本の家臣という紛れもない「武士」なのだが、剣術がからっきし(と本人が思い込んでいて)、家中の剣術師範だけでなく、自分の妻に稽古をつけられる始末。しかも、妻は以前、剣術師範に試合で勝った経歴もあり・・・、といった設定。最終的には、能ある鷹は、でなく自覚していない能ある鷹といった具合で、夫婦円満となるのがこのシリーズの良いところ。
 
最終の第四話では、40年前、京都で公卿が起こした宮中を巻き込んだ乱交事件の復讐を、その公卿の息子が企むものを、信平がどう阻止するかが見もの。そして、RPGと同じように、信平のレベルがあがると敵方もだんだんと進化してきていて、第一作のときほど油断もしないし、簡単にやられもしないという造りになっているので、少しハラハラしながら読ませるあたりは、作者の技の見せ所である。
 
ということで、今巻は着々と信平が加増されて、松姫との新婚生活も間近か?といった準備編。もっとも、智慧伊豆や酒井大老など幕閣の目線は冷たいままなので、次巻以降の波乱も期待させて次巻へ続くのであった。