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「炊き込みご飯」よろしく事件の種類がてんこ盛り — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 秋はまぐり」(時代小説文庫)

料理人季蔵シリーズの17弾目の「秋はまぐり」は、表題通り、季節は「秋」。前作の「夏まぐろ」を前編に、今巻を後編に、といった感じで読むとよい。収録は

第一話 長屋はぎ

第二話 さんま月

第三話 江戸粋丼

第四話 秋はまぐり

最初の「長屋はぎ」は旨いと評判なのだが限定100個しか売らないという「おはぎ」の名手の婆さんが誘拐される。そして解放の条件が「おはぎ」を500個作って売るという、ふざけた内容のもの。当然のように季蔵が手助けに乗り出すわけだが、誘拐の本当の理由に、とあるお武家の秘宝が・・・、といった筋。

残りの「さんま月」「江戸粋丼」「秋はまぐり」は最初の「長屋はぎ」を導入譚にして、石原屋という油問屋を主な舞台に事件が展開する。この店の15年前にかどわかされた娘・藤代が名乗り出てくるのだが、この娘の真贋の確認を縦糸に、死んだ主の遺した金の仏像の相続争いを横糸に話が展開。途中、この藤代を名乗る娘が変死したり、最後の「秋はまぐり」では死人の蘇りとその死人に殺された噺家も出て、と相も変わらず殺人事件がぽいぽいと起こるのもこのシリーズの特徴ではある。最後は、前作「夏まぐろ」で出てきた、死人づくりの黒幕も顔を出し、さらに、夏まぐろで謎のままになっていた別嬪の女の正体も明らかになって・・、といったところで、江戸の闇の黒幕退治、といったいつものところに収めて溜飲を下げる。

そして、今回の惹かれた料理は

刻み終えた秋刀魚には、生姜汁と醤油、酒、味醂少々で味をつけておく。

昆布で出汁を取った大鍋に、短冊に切り揃えた大根を入れて火が通るまで煮て、ここに、刻んだ秋刀魚をつみれのように丸めて加える。石づきをとってばらしたしめじは最後である。

という秋刀魚の「するもん汁」や

俎板の上のなまり節がほぐされ、大きめにほぐした身と細かな見が容易された。

牛蒡もまた、やや厚くそぎ切りにしたものと、薄く笹がきにされたものが必要だった。

酒、醤油、味醂、少々の砂糖、生姜汁の入った二つの小鍋に、大きめのなまり節と厚めのそぎ切り牛蒡、細かくほぐした身には笹がきが合わされ、各々別々に煮付けられる。

細かなほぐし身と笹がきのほうは、準備してあった米と合わせて鰹飯に炊き込まれた

という「かつお牛蒡ご飯」こと、名を改めて「江戸粋丼」。双方とも地味ではあるが、しっかりとした味わいがありそうで、酒の肴にはならずとも、腹の空いた時にがっつりと食いたい「飯」ものが登場する。

本巻は、誘拐事件あり、大店の財産争いあり、死人の蘇り話あり、とかなりの盛り沢山なのであるが、これは秋に旨い炊き込みご飯と同じで、それぞれの材料の旨味を味わいながら、最後は満腹になりつつもお代りをしてしまう、秋の味覚によく似合った構成ではありますな。

マグロ料理の陰に殺人劇あり — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 夏まぐろ」(角川時代小説文庫)

料理人季蔵シリーズの第16弾のメイン素材は「まぐろ」である。本書によると、「まぐろ」は江戸っ子が珍重しない魚の代名詞らしく、

一年を通して獲ることのできる鮪は、下魚とされる秋刀魚や鰯にくらべても、さらに格が低かった。冬場、鮪の赤身を角に切り、葱と一緒に鍋に放り込んで似て食べる葱鮪にして、珍しい鯨汁はもとより、浅蜊や蛤を同様に使った鍋に比べてお、ずっと人気がなかったのである。脂の多い鮪は犬も喰わないとされて、猪や鹿、牛等の薬食いにも列せられず、丸ごと埋められて肥料にされることもあった(P82)

とのことであるから、現代の「鮪」の禁漁まで起こることを考えると、なんとも羨ましい限り。

収録は

第一話 幽霊御膳

第二話 夏まぐろ

第三話 茶漬け屋古町

第四話 山姫糖

となっていて、今回は怪談ものと戯作者・樫本喜之助が、結婚する女の昔死に別れた妹を呼び出して一緒に祝言をあげる「幽霊婚」での殺人から始まって、老舗の骨董屋・山本屋光衛門の甥・姪の因果な所業というところでお終いになる、オムニパスではあるが、四話が繋がっているという展開。

このシリーズの特徴ともいえる「料理話」は、「千切りにされた浅草海苔と炒り立てで芳ばしい胡麻、赤穂の塩」で食する「お茶漬け」も気を引くのであるが、やはり、「かんかんに熱した小さな鉄鍋の底に、腹なかのサクを人差し指ほどに切った一切れを、箸で摘んで押しつける、じゅっと音がしたとたん、裏に返してまたじゅっと焼く」炙り鮪や、「炭火でさっと炙った鮪皮を千切りにして、横長のお沖合皿の手前に盛り付ける。梅風味の煎り酒を隠し味に用いた酢味噌は、別の小鉢に入れて鮪皮の上に置き、戻したワカメ、千切りにした胡瓜、蒸した葱の茎を色良く横に並べ、箸でそれぞれを酢味噌に浸して食べる」鮪皮の酢味噌和え、といった「鮪料理」に惹かれるのは、現代人ゆえか。

事件そのものは、結婚相手の毒殺あり、据え物斬りの材料として死体を横流しする医あり、果ては、金持ちの兄妹のきまぐれのような殺人とか、まあ想像力たくましくすると血生臭さで、うっぷとなりそうなのだが、数々の料理がその生臭さを和らげいるのが救いか。

まあ、ミステリーと料理というのは、「美食探偵もの」とか「ネロ・ウルフもの」とかで、その親和性は証明済みなのであるが、時代小説でも例えば、池波正太郎の「鬼平」シリーズとかの先例はあるのだが、この季蔵シリーズは、謎解きの複雑さよりも、出て来る料理の多彩さと旨そうなところがなによりに特徴であろう。

さて、少々がっつりと鮪丼を食うか。あっさりとお茶漬けにするか、久々に夜食に悩みそうですな。

季蔵が旅をすると目先が変わって新鮮ですな — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 春恋魚」(時代小説文庫)

「春恋魚」とは「はるこいうお」と読ませて秋刀魚の糠漬けのことらしく、本書で季蔵が旅する磐城平で、飢饉に備えるために、秋口に大量となる秋刀魚を長く食すための工夫の料理であるらしい。今回は「武家もの」の色合いが強く、捕物帳らしいのは良いのだが、読み下すには、武張った、固めの筋が多い。
収録は
第一話 煮豆売り吉次
第二話 鮟鱇武士
第三話 春恋魚
第四話 美し餅
となっていて、前半の二作が、「お助け小僧」という義賊にまつわる話で、「煮豆売り吉次」は、杉野屋という旅籠の道楽者の主夫妻を諌める話なのだが、これがきっかけで「お助け小僧」の正体がばれそうになる話。でてくる料理は「花まんじゅう」という雛節句の菓子は出てくるがどうもぱっとしない。第二話の「鮟鱇武士」は、人は殺さないはずの「お助け小僧」が磐城平藩の江戸屋敷の土蔵を破って、ついでに勘定方の中川という侍を殺害したという嫌疑がかかるもの。そしてここの江戸家老がまた食い意地の張った上に意地の悪い男なのだが、果たして土蔵破りと中川殺しの犯人は本書でお確かめあれ。微に入った料理は少ないのだが
鍋で乾煎りした肝に味噌を加え、火が通ったところで、付け根の食感が独特のヒレやアラ、身を加える、大根は細切りにして加え、煮込む。あんこうから汁が出るので瑞は必要ない
という「鮟鱇のどぶ汁」はちょっとそそられるね。
第三話と第四話は、磐城平藩の事件を解決した後、そこの若殿様に頼み事をされて、磐城平に出向く捕物話。頼まれたのは、城下一の海産物問屋いわき屋の若主人殺しの謎解き。謎の陰には、先代の殿様の女道楽があって、女にだらしない殿様はとかくお家騒動の元をつくるのは定番であろうか。
惹かれる料理は、途中の水戸の「白子屋」というしみったれた小店で食す、「ぶつ切りにした骨付きのあんこうの身と葱しか入っておらず、澄んだ汁の味付けは市をだけであった」という白子のはいらない「あんこうの白子汁」と「骨付きの白身のぶつ切りを唐揚げ」にした「白子揚げ」というもの。
こうした気取らない、ざっかけなものに惹かれるというのは、年齢をとって、油についていけなくなったせいか、と思い、少々寂しくなるのではあるのだが。
さて、このシリーズ、江戸市中での事件が主で、品川、新宿とかの近くの宿場にも行かないのが通例なのだが、今回は、出不精の季蔵も、お奉行と大名に頼まれるとそうもいかないのか、北関東へはるばる旅をする。ちょっとした変わり種として楽しめますよ。

天下騒乱の騒ぎの陰で、松姫と信平の恋が育つのでありました — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 姫のため息」(二見時代小説文庫)

関白鷹司家の四男で、将軍・徳川家光の義弟の松平信平が、紀伊大納言家の松姫と結婚するために、千石取りの旗本を目指す物語の第二弾。
 
収録は
 
第一話 浪人狩り
第二話 姫のため息
第三話 再会
第四話 陰謀
 
となっていて、今回の時代設定は、幕府転覆を謀らんだ由比正雪の乱の後、騒然の風が治まっていない頃である。
 
物語の始まりは、浪人狩りで怪我をした浪人を助けるところから始まる。ここで、以後も登場する、先手組与力の筒井が初お目見え。そして、大筋は、由比正雪の残党が、裏切り者として、紀伊の殿様・徳川頼宣の暗殺を謀む。
未だ同居できぬ、紀伊徳川家の姫・松姫の舅の危機を救うため、信平が立ち上がるのであった・・、っていうのがこの巻。
 
とはいうものの、途中、松姫が信平に会うために、屋敷を抜け出す冒険譚があったり、紀州候暗殺は由比一派の復讐譚といった単純なものではなくて、裏に将軍位を争っての陰謀があったり、と道具立ては各種取り揃えてあるので、最後まで楽しめる筋立てである。
 
そして、危難が起きた時の信平の剣の技は相変わらず秀逸で、悪人どもをばったばったとなぎ倒す爽快さは健在。はらはらしながら安心して楽しめるという時代劇の勘所はきちんとおさえてあるのでありました。
 

江戸城御用達の甘い罠。一番悪どいのは「御上」かも — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 大江戸料理競べ」(時代劇文庫)

さて、調理人季蔵シリーズの第14弾は、江戸城への料理御用を独占している有名料亭「八百良」と並んで、江戸城へ料理を納入する店を決める料理勝負がメインテーマ。
 
収録は
 
第一話 新年福茶話
第二話 大江戸料理競べ
第三話 ごちそう大根
第四話 千両役者菓子
 
となっていて、第一話は季節が正月なので、鮑の身を細長く切り、薄く打ち伸ばして干した打鮑を、ぱらりと載せた雑煮とかといった料理も良いのだが、メインは質屋の大黒屋の黄金仕立ての仏像が元旦に消え失せてしまった謎をとくというもの。ただ、話の最初に出てくる、寺子屋で神童と言われる子供の噂話が、名料亭「八百良」が茶漬けに使う水をはるばる玉川の取水口から汲んできたという話や、初春狂言で人気の歌舞伎役者・中村春雷の噂とかとかがでてくるのだが、最終話でぐるりとつながってくるのでご記憶のほどを。
 
第二話と第三話は、この巻のメインストーリーで、江戸城の出入りを三料理店が競う料理比べなのだが、季蔵はこの競争には参加せず、監視人という役割。
競われるのは大根の料理で披瀝されるのは、漬物の大根を小指の先ほどの厚さに切り、水にさらして塩出しした後、出汁で煮合わせた「大根のぜいたく煮」、細かく叩かれた鶉肉を鍋にいれ、ひたひたに酒を注いでそぼろに炊き、これを小口に切った大根と交互に重ね出汁を注いで炊き上げた「そぼろと大根の重ね煮」、開いた穴子を湯通しして、鍋に入れ、酒、砂糖、味醂で煮含めたものに、皮を剥いて縦半分のして、小指の長さほどに切った大根を入れてやわらかく煮た「穴子大根」の三品。
さて、どれが一番?といった野暮なことは、この勝負に参加している「酔壽楼」の主人・又兵衛が変死して、どっかにいってしまう。さらには、第三話で、同じく勝負に参加した富士屋の女将・お美菜も毒殺され、この催しそのものが彼方にいってしまうという筋立てで、話の本筋は、この二つの変死・殺人事件の謎解きであるのだが、時代ものらしく、男女の仲が絡むのはいつものことか。
 
最終話の「千両役者菓子」で第一話の伏線が生きてきて、歌舞伎役者の中村春雷が、季蔵に菓子を注文する話が登場するのだが、本筋は、第二話・第三話の事件の犯人が明らかになるところ。それにも増して、驚くのは、この料理競べが催された幕府の意図なのだが、御公儀ってのは悪どい者の集まりなんでげすな、と思わず嘆息するのでありました。

小猿を従えた美少女くノ一の登場 — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 祝い飯」(時代小説文庫)

シリーズが定着してくると、キャストも固まってきて、話の展開も安心して読めるのは一つのメリットなのだが、マンネリ感が滲み出してくるのはどうしようもなくて、その弊害から逃れるのは、いかに魅力的で気を引く、短期的なキャストを用意するか、であると思う。
今巻は、全巻で季蔵の弟分・豪介を結婚させてしまって、今までのキャストからの新しいネタの提供がちょっと難しくなったところでの、美少女の投入である。
 
収録は
 
第一話 祝い飯
第二話 里芋観音
第三話 伊賀粥
第四話 秋寄せ箱
 
となっていて、結婚した豪介の披露宴と豪介とおしんの子供ができたといったところから始まる。そして、二人の祝言にふさわしい料理を考える季蔵であったが・・・。ってなところで、鯛を使った毒殺事件、といったあたりが、本作でおきまりの突然の舞台転換である。で、ここで投入されるのが、くノ一と思しき、小猿を連れた美少女・お利うで、背中に観音菩薩の刺青を背負っているという念の入った美少女なのでありますな。
 
まあ、話の本筋は、前作ででてきた、北町奉行の烏谷が幕府の重役と結託してつくった、ご公議公認というか、幕府の財源を生み出すために創った「賭場」の後始末の話。10巻頃までは正義の見方であった北町奉行にも泥がついていたか、となるのはちょっと苦い展開ではある。
 
今巻で登場する料理は、塩釜で蒸した焼き芋であるとか、潮仕立ての蛤汁であるとか少し小ぶりな物が多いのだが、ここは「お利う」の妙な愛らしさに免じて「可」としよう。
残念ながら、「お利う」は最終章で故郷に帰ってしまうようなのだが、是非に再登場していただけないかと思う次第なのである。

お茶屋の小町娘が手折られる話は悲しいね — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 涼み菓子」(時代小説文庫)

シリーズも12弾目となると、登場人物に少々の変更というか、環境変化が欲しくなるところなのだが、本作で、季蔵の弟分・豪介の身の上に変化が起きる。
 
収録は
 
第一話 涼み菓子
第二話 婿入り白玉
第三話 夏の海老
第四話 乙女鮨
 
となっていて、まずは豪介が、「みよし」という甘酒屋の看板娘・おれいの婿取りのコンテストに立候補するところから始まる。そのコンテストというのが、この店に出す「冷やし甘酒」に合う「涼み菓子」を考案するということ。
で、豪介が季蔵の助けを借りながら考案するのが、西瓜糖を使った菓子なのであるが、その菓子ができて、婿取りコンテストの結果も、ってなところで、この甘酒屋の小町娘に不幸が訪れる、といった展開となる。
 
総体に、このシリーズは、好事魔多しというか、上げ潮にのって調子づいていると、それと同じくらいに下げ落とされるというのが常で、今回の話も、後半は、その小町娘の事件の謎を解くというもので、彼女に限らず、幾人かの美人娘が殺されるので、少々気が滅入ってくるものではある。なんにせよ、若い美女が死ぬってのは良くないよね。
 
まあ、この巻の清涼剤は、豪介と季蔵の考案した、黒砂糖、ざらめ、水を煮詰めた黒蜜に西瓜糖を一匙加えて白玉にかけた「涼み菓子」と、最後の話の各々牛蒡のシャクナギ、蓮根の揚げ牡蠣、茄子の昆布締めが詰められた「乙女鮨」であろうか。
 
最後の方で、豪介の身の上の変化にちょっと救われた気がするので、最後まで読んでくださいな。
 
 

陰惨な事件は「獣肉」料理で口直しをしよう — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 ひとり膳」(時代小説文庫)

季蔵捕物控シリーズの第11弾は、季蔵の師匠・長次郎の残した「三段重提げ弁当」に関わる話。
 
収録は
 
第一話 梅見鰤
第二話 饅頭卵
第三話 吹立菜
第四話 ひとり膳
 
2月の声が聞こえるようになると、塩梅屋でも「梅」にちなんだ「梅見弁当」をつくる季節になるのだが、この巻は、亡き長次郎が三段重の弁当箱を使わなかった理由と、「鰤尽くし」を封印してしまった理由を解き明かすのが主眼となる。
 
ざっくりとレビューすると「梅見鰤」は今回の話の発端話。2月の声が聞こえるようになると、塩梅屋でも「梅」にちなんだ「梅見弁当」をつくる季節になるのだが、亡き長次郎が三段重の弁当箱を使わなかった謎と、「鰤尽くし」を封印してしまった謎を解き明かすのが、この巻の主筋であることが示される。
 
謎は謎として、
 
鰤に限らず鍬焼きなどの照り焼きには大きな鉄鍋が使われる、火にかけた鉄鍋に菜種油を敷き、そこに皮を舌にした鰤を焼き付け、返して焼き上げたところに、醤油と味醂、酒、砂糖を混ぜたタレを回しかけて調味する。タレの香ばしさが最大限、鰤の身の旨味を引き出す絶品であった。
 
という「梅見弁当」の華である「鰤の照り焼き」が旨そうである。
 
これを受けての第二話は、梅屋敷に出かけた、おき玖が落雷騒ぎに巻き込まれる。そして彼女が避難した梅見茶屋「亀可和」で、新酒問屋のお内儀さんの持つ「夜光の珠」の盗難騒ぎがおきるという話。風情と心根がぐるんぐるんと変わり、美しい女性の「怖さ」を感じるのは当方だけか。まあこれは伏線の筋で、本筋は、おき玖を助けてくれた「與助」の身の上が次話へと続く話となる。
 
第三話の「吹立菜」は、與助と梅見茶屋の女将が惨殺されるところから始まる。で、この話で、亡き師匠の長次郎が春慶塗の重箱を使わなくなった理由が明らかになるのだが、これが與助の話と関連してくるという仕掛け。
 
そして最終話「ひとり膳」で重箱の謎とか、鰤尽くし封印の謎とかが明らかになるのだが、このシリーズの常として、善人面した奴が、実は一番悪いヤツという原則がここでも遺憾なく発揮される。まあ、この巻は江戸の暗闇に巣食う「巨悪」ってやつは出てこないのだが、その分、悪事を見逃している有力者の姿と、子ゆえの闇そのものの母親の姿は余り心地よいものではない。なので
 
小鉢に叩いた鹿肉と、少々の味噌、おろしにんにく、きざみマンネンロウを合わせた。それを俵型に丸めて、小麦粉を叩き付け、ぷつぷつと小さな泡の浮いてきた小鍋へと落とす。
(中略)
シューッという小気味よ音がして、鹿肉の唐揚げが一つ、出来上がった。
(中略)
口の中いっぱいに香ばしさと清々しさ、そして、えも言われぬ、旨味が広がっていく。
 
といった鹿肉のカツレツで口直しとして、このレビューを了としよう。
 

10年前の殺人が発端となる、隠された秘宝をめぐる大量殺人 — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 思い出鍋」(時代小説文庫)

第9弾で、秘宝探しにまつわっておきた事件の解決編が第10弾。9弾目の「菊花酒」の最終話「黄翡翠芋」の続きといったところ。
 
収録は
 
第1話 相愛まんじゅう
第2話 希望餅
第3話 牛蒡孝行
第4話 思い出鍋
 
第1話で、塩梅屋が筍の調達で世話になっている光徳寺の和尚が教えている画の会でのトラブル相談が最終話の伏線として張られているので、ここは注意どころ、
 
さて主な筋は、二十年前の死骸が発見され、手がかりとなるのは、以前、流行した、饅頭に仕込まれてた陶製の「桜の印」。被害者は意外に早く判明して、10年前くらいに手代に金を持ち逃げされて潰れた「小田原屋」の手代・宗助であることが判明。これをきっかけに、宗助を殺した犯人探しが主筋として展開する。
犯人は、この金を持ち逃げした手代・七之助であることは結構早くに判明するのだが、この七之助が、やたら凶悪で、この事件に関わる人をやたらと毒殺するので始末が悪い。
ただ、この犯行の裏には第9弾の後半で出てきた「秘宝」探しが絡んでいて、それが光徳寺に関係しているようで・・、と言う感じで、最初の伏線が生きてくる。
 
そして、このシリーズは、一話ごとに凝った料理が出てくるのだが、今回は「牛蒡孝行」にでてくる
 
季蔵は、まず、人参だけは輪切りに、葱は小指半分ほどに切って茹でた。形の似ている巻湯葉も、ほぼ、葱と同じ大きさに揃える。小ぶりの椎茸は十字に切れ目を入れておく。
(中略)
あとの葉物はさっと茹でて、葉が一番小さい京葉を芯に、小松菜で巻き、最後に大きな葉の三河島菜でくるくると巻き上げ、食べやすい大きさに切っておく。こうすると、葉によって異なる緑の濃淡が美しい。
後は鍋に青物と巻湯葉を入れ、大豆の絞り汁である豆乳に、出汁、昆布風味の煎り酒を加えて調味して火にかける
 
という「精進明日香鍋」が珍しいのだが、最終話で殺人の道具として使われていて、縁起の面ではどうかな、という次第であります。
 

元許嫁・瑠璃の心を騒がせる”男性”が登場するのだが・・・ — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 菊花酒」(時代小説文庫)

最初、短編で始まった物語もシリーズ化してくると、だんだんと中編・長編となることが多いのだが、この料理人・季蔵シリーズも一冊で筋立てが完了するといった態になってきた。
 
さて、シリーズ第9弾の収録は
 
第一話 下り鰹
第二話 菊花酒
第三話 御松茸
第四話 黄翡翠芋
 
の4作
 
まず、最初の「下り鰹」で、前作で昔、盗賊であったことが明らかになった亡き松島屋のところから珊瑚細工の簪が盗まれたところが判明する所から始まる。どうやら骨董屋・千住屋の仕業らしいのだが、確証はなく、といったところだ。また、最初の「下り鰹」で、この巻の助演を務める内与力の清水佐平次に登場し、季蔵の武家時代の許嫁・瑠璃に気に入られた風で、季蔵が心穏やかでないところが次の話以降の微妙な布石になる。
料理は、江戸人が「猫またぎ」として下手に見ている「下り鰹」で、見事な料理をつくるもの。もっとも、下り鰹が脂がのって旨いのは現代では常識だから、まあここは季蔵の常識にとらわれないチャレンジ精神を評価するところ。
 
続いての「菊花酒」は最初、季蔵が春の筍料理に使う筍をいただく寺の住職の昔話から始まるので、てっきりそちらの方へ向うのかと思いきや、前話で登場する内与力・清水佐平次の家庭の話へと移っていく。奉行はこの清水に裏稼業も手伝わせたい様子で、品定めが始まるといったところ。奉行が手土産にする「万福堂」の最中が次話への橋渡し。
 
三話目は、急に舞台が変わって、江戸市中に出回る「松茸」の市場流通を操る謀みにかかわる話。松茸の大産地である松原藩の若い江戸家老がでてきたり、菓子の最中を商う「万福堂」がこれに暗躍していたりとやけに騒がしい展開である。「松茸」料理ということで、炊き込みご飯や吸い物、焼き松茸といったありきたりのものが多く、松茸を保存するための「塩松茸」や「干し松茸」あたりが珍しいところか。
 
最後の「黄翡翠芋」では、この巻で登場する清水佐平次と前話で登場する松原藩の江戸家老とか斬り合ってふたりとも死んでしまう。しかし、その骸が怪しげな僧侶によって持ち去られ、といった展開。この二人が「不滅愛」という紙切れをもっていたっていうのが、一連の珊瑚の簪をはじめとする秘宝の盗難事件と今回の二人の死亡事件の鍵なんであるが、「不滅」「愛」なんて言葉は通常の色恋沙汰でっは使わない類の言葉であるよね。
結局、松茸流通を闇で支配していた「万福堂」もこれに関連して頓死するのだが、本当の悪党はまだ見えて着ないところでこの巻は終了。「黄翡翠芋」ってのはどんな料理・・と期待するも、ちょっと肩透かしをくらわせられる。
 
ともあれ、季蔵と元許嫁・瑠璃との間で波紋を呼びそうな男は、最初さっそうと登場し、あっという間に露と消えてしまうのは、あっけないといえばあっけないのであるが、まあシリーズの安定的な展開のためにはやむを得んかもしれんですね。