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アート(美術)は「美」の側面だけで語るものではない — 山本豊津「アートは資本主義の行方を予言する」(PHP新書)

「アート(美術)」というものは、古くは王侯貴族のものであったように、資本主義経済の隆盛と切っては切れないものとは思っていたのだが、国の覇権獲得活動にも重要であるなど、「アート(美術)」に対する新たな視点を開いてくれる。
 
構成は
 
第1章 資本主義の行方とアートー絵画に見る価値のカラクリ
第2章 戦後の日本とアートー東京画廊の誕生とフォンタナの衝撃
第3章 日本初のアートと東京画廊の歩みー脱欧米と「もの旅」
第4章 時代は西欧からアジアへー周縁がもたらす価値
第5章 グローバル化と「もの派」の再考ー世界と日本の関係
第6章 「武器」としての文化ー美の本当の力とは
 
となっているのだが、まず最初に度肝を抜くのが
 
価値の伸びシロが一番大きいゆえに、お金持ちが投資する究極の対象は絵画だと言われます。・・・お金持ちが絵画を資産として持つ理由は他にもあります。絵画ほどkさ張らず、軽く、持ち運びに便利な資産は他にはないのです。(P21)
 
といったあたりで、芸術と資本というものの微妙な関係を示してくれる。
 
さらに、当方が「ほぉ」と思ったのが、
 
キュレーターは美術を知っているだけではダメなのです。アートの歴史や価値を知っているだけでなく、経済や経営、社会学や心理学に至るまで幅広い知識と見識を持ち、なおかつ企画ができるというアイデアマンでなければいけません
 
といったところや
 
世界では経済におけるグローバルスタンダード化が進んでいます。
美術においても、アートフェァを通じて世界のギャラリーが集まり情報公開することで、美術の価格のグローバルスタンダード化が進んでいるわけです。
これは価格だけではありません。
アーティストや作品自体もグローバルに広がっていきます。
 
といった「美術」の意外な側面であり、
 
自分の国の美術品の価値を高め、それを世界に示すことで文化的な優位性や自信、そして美のスタンダードを握ろうというのは、欧米諸国や中国などの目指すところであり、悲願なのです。
(中略)
そうした国々はかつて世界の覇権を取った経験のある国であり、民族です。ヨーロッパ諸国ならイギリスやフランス、スペインやオランダ。イタリアはかつてのローマ帝国。それから第二次世界大戦後の米国に、以前のアジア全体の中心であり、今なお中華思想の根強い中国など。
そういった剛々とその民族は、覇権を握るということがどういうことかを知っているのです。軍事力で領土をおさえるだけでは不十分、経済力で上回るだけでも足りない。最後は文化の力が必要だということをー。
 
といった、実は「美術」を始めとする「文化」が、国の支配領域の拡大、ひいては覇権争いの主要な部分であると教えてくれるところであろう。
 
とはいうものの、正統な美術好きの方々には、日本の銀座の画廊の変遷などなど日本の美術史についてもきちんととりあげられているのでご安心を。
 
そして、この「アート(美術)」と我々の祖国・日本との関係であるが、本書によれば
 
文化歴史と文化の断絶を埋めるためにも、そして資本主義や国家主義の限界を乗り越えるためにも、近代以降の価値観を一度見直し、価値の転換を図ってはどうでしょうか?私が提案したいのは、回帰です。日本人は江戸時代にもう一度回帰するのです。日本人は江戸時代にもう一度回帰するのです
 
であったり
 
これからの日本、そして世界を考えたとき、アートの力が大きな意味を持つのではないかと考えています。激動の時代、閉塞した時代だからこそ、これまでの価値にとらわれない自由な視点が大切なのです。既成のものを乗り越えて新たな価値を生み出すパワーが必要なのです。
 
と日本の復活に「アート(美術)」の力の有用性を訴えるのだが、今まで金銭的価値や効用でしか、政策や施策のメルクマールを持たなかった歴史が塗り替えられるかどうかは、「・・・」でありましょうね。
 
さて、たまには、美術展に行きますかね・・・。