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時は経過しても、「旅人の心」は変わらない — 下川裕治「シニアひとり旅 バックパッカーのすすめ アジア編」(平凡社)

思えば、海外の旅行記といえば、下川裕治氏のタイをはじめとしたバックパッカーの旅あたりからちょっと様相を変えてきている気がして、それまでの美食やら地元で出会う珍事件といったものが旅行記の中心であったものを、「ただ、滞在する」「そこでフツーに生活する」といったことを旅行記として仕立ててしまったという画期的なものであった。

今回の旅行記は、シニア向けの旅ということなのだ、「アジア編」という表題にふさわしく、構成は

第1章 中国ー戦跡、面影、寝台列車・・・

第2章 香港ー海外へのあこがれを抱いた街

第3章 台湾ー遠い「日本」といまを知る

第4章 韓国ー食、酒、そして安宿・・・

第5章 タイー陸路で国境を越える

第6章 ベトナムー庶民料理と反戦ソング

第7章 カンボジアー新たな聖地になっていく

第8章 ラオスー静けさが恋しくなったら

第9章 ミャンマーー自由な度はやはりいい

終章 シニア世代に必要な旅のノウハウ

となっていて、まさにアジア満載という雰囲気ではある。ただ、ここで今回気をつけないといけないのは、下川氏も、やはり年齢がいったせいか、今回の旅行記は、力任せにリュックを担いでずんずん前に進んでいくパターンから、例えば「香港」の章で

茶餐廳に辿り着いたのは、はじめて訪ねたときから何年かが経ち、重慶大厦が香港の常宿になりかけていた頃だった気がする。それは僕にとって、香港の大発見というより、「ま、こういうことか……」という、諦めが入り交じった心境だった。バックパッカー風の歩き方は、すでに僕の旅のテンプレートのようになっていた。それを香港という街にあてはめていくと、茶餐廳のテーブルに座らざるをえなかったのだ。

とか、タイのバンコクでは

そこそこの旅の資金をもち、コースを練ってバンコクにやってきた人には申し訳ないが、いまのバンコクが、バックパッカー旅の起点にふさわしい街かというと、僕は懐疑的だ。バンコクという街は、変わりすぎてしまった気がする

といったように、「数十年前」の現地と「現在」の現地の落差、変化にとまどってしまう旅でもる。

もともと下川氏の旅行記は、タイのバンコクに定住するかのような旅行記から、移動を続ける旅行記へと変貌してきていて、そうした「移動」の旅は、いつかループを描くように、ずっと以前に旅したところに還ってきて、その頃の「思い出」が今の自分に悪さをしかけてくるものであるらしい。

とはいうものの、そうしたノスタルジーに浸るだけのものだけではなく、最近の「茶のシルクロード」旅行にちなんだものもあって、ああ、旅人は健在であるな、と安心するところもある。

さらには、終章のところではLCCの運賃比較であるとか、スマホのフリーSIMの格安情報であるとかも掲載されていて、バックパッカーの旅は、時が経過しても変わらないものでもあるらしい。

 

さて、若い時の旅とシニアになってからの旅は、体力面や使える金銭面でも結構の違いはあるのは間違いないが、「バックパッカーの心」は変わらないらしい。鉄板のバックパッカー旅行記を楽しみたい方にオススメでありますな。

 

 

Nipponはいつの間にか住みにくいところになったようである — 下川裕治『「生き場」を探す日本人』(平凡社新書)

アジアを中心とした放浪・気ままな旅行記でおなじみの下川裕治氏ご贔屓のタイ、上海、ベトナムなどの東南アジアに在住する日本人のルポ。

時代的には2011年、東北大震災の前後で、構成は

Ⅰ 日本に帰らない

Ⅱ 詐欺

Ⅲ 妻

Ⅳ ひとり

Ⅴ 賞味期限

Ⅵ 貢献

目次を見るだけでも、なんとなく当時の日本の閉塞感が伝わってくるようなのは気のせいか。取り上げられている話は、「はじめに」で ”申し訳ないが、サクセスストーリーはほとんどない” と断り書きがあるように、日本本社がM&Aされ早期退職してデジタルプリントショップを開いた元商社マン、であるとか、日本の居酒屋を売り払ってバンコクに店を始めようとして詐欺にあった居酒屋の店長であるとか、事業が成功して「わはわは」と自らの成功物語を語る話はない。

ではあるのだが、日本で正社員になる道を閉ざされたロスト・ジェネレーション世代がタイで居場所を見つける話であるとか、定年後もタイに残りタイの造船会社の嘱託を務める企業戦士であるとか、日本の景気が減速していく中で、振り落とされていた人々が自分の存在場所、存在価値を見いだしていく話が出てくるのは喜ばしい。

その後、民主党政権の崩壊、アベノミクスと日本の経済状況も変化をしているのだが、日本に住みづらくて東南アジア、外国へ脱出する人は減ってはいないように思える。高城剛の言によれば、「一国だけで暮らすことは、もしかしたらリスクが高い上に、楽しくないのではないのだろうか。そう、その一国とは日本に限らず、ベトナムでも米国でも中国でもどこでも一国は一国で、その上、21世紀は一国だけで一生暮らす時代ではないことは、世界を見ても明らかです」(白本 参)ということであるようだが、さてさて。

“外ごもり”も変化する ー 下川裕治「生きづらい日本人」を捨てる(講談社新書)

沖縄・アジア、とりわけタイの滞在記・旅行記で、我々の旅への思いをかきたてる下川裕治氏が、海外に流れていき、そこに移住する人々を取り上げたルポの第2弾。第1弾の「日本を降りる若者たち」は2007年の発刊で、比べる若者をはじめとした日本人の意識も変化していると同時に「日本」と「アジア諸国」の経済状況の差も縮まってきている。そんなことを反映してか、今回のルポに登場する日本人たちは、「逃走」という意識ではなく「移動」する感覚で、アジアの国へ移り住んでいるようだ。

 

構成は

第1話 生まれ変わる・・・沖縄・那覇

すとん・・・と落ちる/夜の世界をくぐり抜けて/社長という仕事/

そしてなにもなくなった/金がないのは楽/人生を左右させてしまう幻

第2話 儲け・・・カンボジア・シェムリアップ

ポル・ポト支配からの夜明け/ぶっかけ飯、1.5ドル/一年の利益、46ドル/

出資の条件/孤児院での経験/西村の胸の裡/

日本人客からのクレーム/アジアに吹く風

第3話 ライフワーク・・・タイ・チェンマイ

古都の夜/ひと皿のカレーライス/働きすぎの日々/

転機/出会い/会社を立ち上げる/

好きなことをして、一日、満足して暮らす

第4話 表と裏・・・中国・上海

いかつい男たちに囲まれる/固まらない国と固まる国/

仕事につかれた上海人が移り住む/

自分たちは楽しみ方を知っている/一日百元の店番

第5話 身の丈・・・ラオス・ビエンチャン

はずれてしまった人生/NGOの世界/誘い/

はじめはうまくいかないことばかり/ラオスは貧しいのか、豊かなのか/

特製和風ビーフカレーの感性

第6話 中途半端・・・タイ・バンコク

森に入っていった学生たち/オーガニックの農園と出合う/

インドでめざした農園/タイしかないか/予想外の売れ行き/

そこで踏みとどまる

第7話 結婚・・・ベトナム・ホーチミン・シティ

老夫婦と暮らす、ひとりの青年/統合失調症/はじめてのアジア/

報告/ふたりの住む家へ/ふたつの不安/初夜/

言葉を覚えるということ/三千ドルの波紋/母の家で

第8話 コールセンター・・・タイ・バンコク

日本人を月給7万円で雇う/新し海外日本人像/貯金ができて羨ましい/

月五万円のバンコク暮らし/妻のひと言/震災後、チェンマイで働く/

現地雇いも狭き門/若者の目に映る、タイという国

番外編 ホームレス・・・タイ・チェンマイ

チェンマイホームレス日記

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アジアの週末アラカルトー下川裕治「週末アジアでちょっと幸せ」(朝日文庫)

タイ、台湾をはじめとした、「アジア」の旅行記を、広く、深く書いてきた下川裕治氏の、ちょっとした「おやつ」といった感のある「アジア旅行記」
いくぶん、ベトナム、台湾など沖縄など、ちょっとしたエピソードが、どこかで読んだような・・というものもあるのだが、最近、アジア旅行記を精力的に出しているのでいたしかたないところもあるか。
構成は
第1章 韓国 大阪〜釜山
 釜山に向かうフェリーで、手品を習ってみようかと思ってみる
第2章 台湾 台北〜馬槽花藝村
 台湾の秘湯で、「後ろめたさ」という湯あたりに浸ってみる
第3章 マレーシア
 日本からのメールには返信せず、夕日を見ながら、こそっとビールを飲む
第4章 シンガポール マレーシア バトゥパパ河
 金子光晴の「マレー蘭印紀行」のように、熱帯雨林の深い森に堕ちていってみる
第5章 中国 星星峡
 そこから先は果てしない異国といわれる街で、寒さに震えながら星を眺める
第6章 沖縄 多良間島
 本土のルールを無視したアナーキーな島で浮遊感を味わう
第7章 ベトナム ドンダンー憑祥
 国境を歩いて越えるという憧れの一時間
第8章 バンコク プラカノン運河、センセープ運河
 街の底を走るような運河船にのって、バンコクの街をぼんやり見上げる
となっているのだが、「おやつ」と表現したのは、どの旅行も、定番のコースから外したものである所以。

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