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西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 15」(芳文社コミックス)

12~14巻と、結構、溜めの期間が長かったように思う、信長のシェフであるが、戦国期の大きな転換点、設楽原の戦が今回の見せ場。

しかも「信長のシェフ」では信長も冷酷で癇癖の強い”魔王”として描かれていないように、武田勝頼も、よくある二代目の典型ではなく、信玄を凌ぐほどの武勇と知略をもとながら信玄の急死に足場固めができなかった武将として描かれているので、信長の三重柵、鉄砲の勝利、と単純に説かれる、この戦も、その内実の解明は一筋縄ではいかなくて、異設楽原の地形を利用した”一夜城”のからくりと、鉄砲の射撃技術を織田勢勝利の要因のするあたり、なかなかの筋立て。

とはいうものの、設楽原の織田の勝因が、畿内の度重なる戦の経験と海外と交易による物量の輸入の容易さという「地域格差」と論破されると、居ながらにして経験値が貯まる”都会地”ならぬ辺境に住まう身としては、なんとも切なくなるのは確かではある。

また、武田勢敗北の中、落ち延びるかどうか迷っている気配の武田勝頼の姿を察して、織田信長の

「総大将は逃げねばならぬ。

ただの一武将のように武勇を誇り、華々しく散ることは許されぬ。

死ぬよりも過酷な敗戦の恥辱を一身に受け、自らの命により死した者達の骸踏みつけて、なお、逃げねばならぬ。

行きねばならぬ。それが総大将じゃ。それが出来るか・・?武田勝頼」

という言葉は、けして勝ち戦一色ではなく、数々の敗戦を乗り越えて最後に京をとった信長が、同じ才ある武将として武田勝頼を評価した言葉とも感じられて面白い。

さて、物語は武田勝頼の大敗北を受け、信長の天下布武のレベルが一段階上がる時期に至った。本能寺まで、もうちょっとではあるのだが、織田家、本能寺、松永久秀のもとにいる現代からのタイムスリップ者がどう動いていくか、佳境に至り始めたという感がいたしますな。

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 14」(芳文社コミックス)

さて、「静」の印象が強かった、12巻、13巻を経て、動着始めるのが14巻。

信玄の喪の明けた武田勝頼が、都を目指して動き始める。

当然最初に襲いかかられるのは徳川家康ではあるのだが、軍勢も多数で戦上手の武田勝頼の手にかかれば、高天神城は落城の目にあう。

ところが、家康は信長を信頼しており、信長の援軍が遅れたことも・・ていうのが表の歴史であるのだが、タイムスリップものの常道として、その陰には、この物語の主人公のケンがいて、ということで詳細は本書で確認を願いたい。

 

物語の後半は、武田領の百姓に捕獲されたケンが、武田と織田の設楽原の戦の前に、さてどうするか、といったところで、今回の巻ではまだ設楽原の戦前夜で終わる。なので、大活劇は次巻にご期待というところであるのだが、事件の真相は、事件の起きる前にあるというおが鉄則で、武田が敗れるべきして敗れた、という伏線はあちこちに張られているので、読み解いてみるのも一興である。

ということで、いくつか印象に残ったフレーズは

「勝頼様に長く仕える長坂殿も申しておった。

あの方の戦いぶりは信玄公より軍神と呼ばれる上杉謙信公に似ておられるーと。

あのお方は勇猛果敢して強すぎるのだ。なればこそ、勝頼公は信玄公に及ばぬのだ」

「後の関が原の戦いは天下分け目の戦いと言われているが、識者によってはそれは違うという。

本当の天下分け目となったのは、武田の長篠城包囲を発端とする、長篠・設楽原の戦いであるーと」

といったところ。

織田信長は、ある書によれば戦下手であったという話もあるのだが、戦上手は天下はとれぬというのも真実かもしれぬ。

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 13」(芳文社コミックス)

この「信長のシェフ」は動の巻と静の巻があるようで、この13巻はどちらかといえば「静の巻」

といってもドラマがちんたらしているというわけではなく、兵と兵がぶつかりあう戦乱ではなく諜報戦、心理戦の部類が展開されているというもの

出来事的には、武田勝頼が徳川領に侵犯を初め、信長はと言えば、上杉謙信が動かないように同盟を固めたり、官位を受ける代わりに蘭奢待の切り取りを強要したり、といったところで、そこそこドラマは展開しているのだが、やはり戦乱がないのが「静」の印象を強くしているのであろうか。

料理的なところで読みどころは大酒飲みの上杉謙信への献上物のところ。

献上物の難物は2つあって、一つは京の絵師、狩野派の洛中洛外屏風絵図の入手と火入れのの酒なるもの。なにやら、かぐや姫の無理難題っぽくなってきたのだが、この二つが上杉謙信が京に攻め上るのを留めるのであるから、やはり贈り物は大事というところか。

そして、もちろん屏風(屏風に込められた暗喩、という意味ですよ)が上京を断念させる一番の原因ではあるのだが、切れ味がよくて良いのが、興福寺の火入れの酒が手に入らなくての窮余の日本酒をつかった献上酒と武田信玄の上洛の際の様子を謙信が聞いての感想のところ。

酒好きで信玄の良き宿敵であった”謙信”の姿がなんとも味があるです。

 

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 12」(芳文社コミックス)

小谷城が落城し、浅井・朝倉滅亡後、本願寺に送られた後から、翌年の新年までを描いているのが12巻。

 

最初の方は、信長の隠密である「楓」の救出のエピソード。ここでケンは彼の料理の一つのジャンルを封印することになるのだが、それがこれからどう影響してくるかは、乞うご期待というところで、伏線をはったところで終わっている。

 

12巻の読みどころは、香料を手に入れるために堺へ出向き、女性の中国人貿易商と闘茶の席での料理披露と、浅井・朝倉滅亡後の信長の残虐性を象徴する、長政・久政親子と朝倉義景のドクロを肴に新年の酒を酌み交わした事件の信長の本音、といったところ。

信長の意外性を話の底に忍ばせるのが、この「信長のシェフ」の特徴でもあるので、残虐性あふれるエピソードが実は、といったのがお決まりではあるのだが、それを松永久秀の謀反後の処置と絡めて解いてみせたのは、流石、腕がよい調理。

 

物語は、後の細川ガラシャも登場してきて、満艦飾っぽくなってくるのだが、さてこれからどうやってまとまっていきますかな。

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 11」(芳文社コミックス)

さて、11巻は、信長の命によって小谷城に潜伏して、お市の方ほか娘達の救出を図る辺りからスタート。

初めのほうの、チェックポイントは、生意気そうでありながら、妙に可愛らしく描いてある「茶々」様で、後年の姿を彷彿とさせながらも、小谷城落城から娘時代のいわば落人暮らしが、その陰にはあったのかな、とまだまだ天真爛漫な姿に、妙に感情移入してしまう。

とはいいつつも、前半の読みどころは、小谷城落城にあたって、長政がお市の方を織田方へ逃すところ。ものの本によっては、豊臣秀吉ほか織田方の武将が、無理やりに城から落としたというものもあるんだが、長政・市夫妻には、悲劇の主らしく、夫婦の情愛ありつつもやむなく・・、といった泣かせどころが必要で、あまり人間の醜いところを描かない、この「信長のシェフ」は綺麗に料理してありますな。

 

で、なぜ浅井長政が裏切ったのかというところは、明智光秀がなで本能寺の変を起こしたのか、というところと同じくよくわかないところで、この物語では、「革新」に惹かれつつも、その破壊性についていけず、「古きよきもの」を慈しむところが原因と描いているようであるのだが、果たして作者の意中にあうかどうかは皆様のご判断で。

そして、この巻の最後の方は、木下藤吉郎が「羽柴」へと改名する小エピソードを挟んで、本願寺方へ幽閉された「楓」の救出の使者として、明智光秀と本願寺へと赴き、本願寺の料理人となっている「ようこ」と再会するところまで。もっとも再会とかいっても、「ようこ」は「ケン」を本願寺に取り込むよう顕如の命をうけてあれこれしようとするので、事はそうカンタンではないな、というところで、次巻へ続く。

 

小谷城落城、朝倉・浅井滅亡といった大イベントはあるのだが、どちらかというと「静的」な印象を受ける巻でありますな

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 10」(芳文社コミックス)

第10巻は武田信玄亡き後の織田と足利将軍家との最後の闘争と朝倉・浅井が殲滅される戦いの発端のところまで。

前半のスッポンの料理のあたり、改元が織田と将軍家との闘争の主題となっていて、足利義昭が即位時に改元した「宝亀」がキーになるのだが、一世一元に馴染んでいる当方としては、改元による勢威の表し方とか、改元のもたらす効果といったあたりは少々感覚的に疎い。

もうひとつ、感覚的に実感が薄いのが「砂糖」の有り難さ、貴重さ。

こてこての砂糖漬けの生活となっている我々には、山科中納言がころりと寝返るところや「菓子」を媒介にした接待・折衝の妙は、痒い所をコートの上からさすっているような感じでなんとも体感の外にある。

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西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 9」(芳文社コミックス)

第9巻は、武田信玄の料理番(とはいっても信玄の体調調整のための薬膳専門みたいな感じではあるが)をつとめ、信玄の体調の復活や勝頼の歴史上では起きなかった家督相続のセットアップに関わり、歴史を変えるんでは、と悩みながら元の歴史にもどるべく修正するという、タイムスリップものでは、おなじみの悩み事から始まる。

タイムスリップものの分岐点は、ここがキーになもなって、半村 良氏の「戦国自衛隊」は歴史を改編してしまうし、「GIN」は大きな歴史改変は起こさないまでも、主人公も周辺の歴史は変えてしまうという筋立てであった。今のところ「信長のシェフ」は変わりそうで変わらないという微妙なところ。ただ、主人公と同じように現代から迷い込んだ本願寺の料理人となっている「ようこ」という存在もあり、統御にこれから苦しむかもね、と案じてはみる。

物語は、信玄の好意で、武田領を脱し、徳川家康のところへ転がり込んで三方原の合戦に遭遇するところが後半のメイン。信長や秀吉の近辺に従う物語では、家康はとんでもなく腹黒い人物として描かれるのが常ではあるのだが、本巻では主従のまとまりもよく、しかも三方原の憤怒に駆られた行為に反省する家康の心根も家臣思いで、なにやら山岡荘八の家康ものを彷彿とさせるような好意的な扱い。

最近は、武将ゲームやら大河の影響であるのか、はたまた閉塞感と先行き不安に駆られる世情ゆえか家康の人気がかんばしくはないように見受けるのだが、これも世間の風が変わればまたもてはやす時期がくるのだろうね、と達観したように論じてはみる。

印象に残ったのは、徳川家康が三方原で圧倒的に不利な情勢で武田軍に向けて出陣する際の心模様を描いたシーン。長い絶望の中にいた人間が針の穴ほどの小さな光に目が眩んで、勇ましく伸び上がってしまうところ。「溺れる者は・・・」の心理はかようなものかと改めて思う次第。

巻の最後の筋立ては、武田軍が突如、軍をとめ、徳川家中が再び結束を固めたところで、ケンは再び織田へ帰参。信玄の「京は遠い」という言葉に、都から遠く離れたところに生を受けた英雄の不幸を感じさせて次巻へ続くのでありますな。

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 8」(芳文社コミックス)

第8巻は顕如の率いる石山本願寺との再度の和睦。この席で、信長に食中毒の罠をしかけて政治的暗殺が企まれるのをからくもケンが阻止するのだが、顕如があいかわらず貴人の冷たさと謀略好きを見せて悪役ぶりが良い。

巻の中ほどは、松永弾正の裏切りの鎮めと、武田信玄の元での幽閉生活

松永弾正が、自分は誰の味方でもなく、「わしはわしだけの味方」「欲しいのは混沌と混乱」とうそぶく辺りが裏切りの連続で戦国時代の陰のところを象徴する武将の姿がよく描かれている。

また、武田での幽閉生活は、織田領から武田信玄の命令で始末されるところを、薬膳の知識にすくわれて、信玄の料理番として命をつなぐのであるが、武田の家中の印象というのが、個人的な印象では少々暗さが過ぎる。

これも信玄に信長を評させて、「あの男のように全てを破壊し全てを変えていくよりも、守っていくことこそが正しいこともあろう」と言わせている「守り」の故でもあろう。

「変化」の厳しい折には「守り」の美しさに惹かれることも多いのは事実で、他の書評をみると信長と対照的な信玄の姿勢に憧れるむきもあって、それはそれで良いのだが、「守り」は特有の停滞と暗さを伴うものであるところは押さえておくべきかな。

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 7」(芳文社コミックス)

さて、第7巻は、松永弾正、武田信玄の登場と比叡山の焼き討ち。

「信長のシェフ」の魅力の一つは、戦国時代のイベントや武将の固定観念を揺さぶってくれるところにあるのだが、この巻でも女・子どもまでみな焼き殺したといわれる「比叡山の焼き討ち」の本質がなんであったか、というところが読みどころの一つ。

まあ、当時、女色と酒食・肉食と堕落を極めていたといわれる比叡山が堅固に山を守っていたかというと確かにそういうベクトルは働かないよな、と思いつつも、信長軍の行状がこの巻のようであったら、「魔王」と敵・味方双方から恐れられた信長の姿は誰が喧伝したのか、そしてなぜ信じたのかといったところがこれから明かされるところか。

さらには、策謀家で裏切りが常といわれる松永弾正や、かなりの保守家で、仮に彼が天下をとっていたとしたら室町幕府の大勢は変わらず中世はもっと長く続いたであろうと言われる武田信玄をどう描いていくか、といったところは今後に期待。

加えて、信長の女忍者の「楓」が首尾よく、本願寺の料理人である「ようこ」のもとへの潜入に成功するわけだが、この展開も、次巻を待て、という感じ。

 

全体的に、急展開していくであろう次巻以降の準備期間という感じではあるな。

梶川卓郎・西村ミツル「信長のシェフ 6」(芳文社コミックス)

この巻では、本願寺や比叡山、浅井・朝倉軍の包囲にあって、信長の忠臣中の忠臣である森可成が命を落とすところから、本願寺との停戦、朝倉との和議による信長第1次包囲網の綻びまでが語られる。

 

読みどころ的には、本願寺との料理勝負で、ケンと同時代からタイムスリップしたらしい。「ようこ」という料理人が姿を現すこと。どうやらケンとは現代でなにやら深い関係があったそうな感じではあるが男女のもつれか、はたまたそれに起因した料理人としての諍いは不明なまま、織田・本願寺の菓子勝負に突入。結果は本書を参照いただくとして、牛脂(バター)を使った菓子に戦国時代の人々がすんなりと馴染み美味と感じたのかな、とは思わないでもないが、まあお話であるのでよしとしよう。

 

二つ目は、姉川の合戦の時同様に、朝倉の兵の士気を挫く料理のところ。織田軍とは違い、自らの土地と離れれば離れるほど、離れる期間が長ければ長いほど、里心がつきやすく脆くなりがちな兵農分離されていない戦国武将の軍隊の弱点に着目する辺り、作者の眼の付け所にほう、と頷いてよい。

 

惜しむらくは、この巻でケンと理解者・協力者としての役回りを演じてきた森可成が戦死すること。戦死は史実ゆえ如何ともしがたいが、物語の展開的には、次の適役を織田の家中で見つけられるかどうかではあるが、こいつは「7巻以降に期待」というところか