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「水戸黄門」の公家版のような信平公の活躍であります — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 13 赤坂の達磨」(二見時代小説文庫)

京の騒乱鎮圧後、世の中をひっくり返しそうな騒乱の種もまだ見えないせいか、信平公の活躍も、今のところは一藩かぎりのものとか少々小ぶりな事件の解決が主となっている。そのせいか、「水戸黄門」臭は強くなっているのだが、その評判も事件の解決に寄与しているのも黄門風。
 
収録は
 
第一話 赤坂の達磨
第二話 脅し
第三話 馬泥棒と姫
第四話 雨宿り
 
となっていて、まず第一話は新しく家臣となった「千下頼母」の学問の師匠「月山典壇」こと「達磨先生」の危難を救う話。備中成井藩の元江戸家老を勤め隠居中の身の上なのだが、その人徳を慕い、私塾は満員という設定。事件は、その成井藩の江戸家老の汚職に関わるものなのだが、時代小説にあっては、江戸家老と廻船問屋は悪役の定番ですな。
 
第二話は、将軍家綱に惜しまれつつ逝去した、知恵伊豆こと松平定綱の後継と目される、老中候補と出入りの両替屋の事件。しかも贋金とあっては、本当なら幕府を揺るがす事件であるはずなのだが、いつの世も権力者が首謀者の事件は、密かに進行していくものらしい。、平成、最後の都市の、とある土地買収事件と同じ構図であるかも。まあ時代小説の良いとことは、悪いことをすると必ず報いがあることであるね。
 
第三話は、信平公が京への旅で家臣となった、馬番の鈴蔵に関係する話。彼の知り合いの、名馬がいると、夜中に忍び込んで、その馬を乗り回し、朝には返しておくという、風流な「馬泥棒」の話。彼が、大名屋敷に忍び込んだ時に、そこの姫サマに一目惚れし、といった具合で、お家騒動と恋物語が錯綜する。まあ、この馬泥棒の素性が実は・・、といったところはお決まりの時代劇風なのだが、この筋立てに安心してしまうのが、昔ながらの日本人の性であるかも。
 
第四話は、男を引っ張り込んだり、浮気を重ねる女を見つけると、ぼろぼろになるまで殴りつけるという、変わり種の辻斬り(辻暴行というべきか)事件。事件の影に、浮気を重ねる母親の影響があるのは、現代風なのだが、犯人の若殿の事件抑止のために監禁された娘が意外にやんちゃであったのが、この事件の後味を良くしている。
 
さて、この巻も、いわば気楽に読める「水戸黄門」公家版の松平信平公の活躍譚。家臣も出揃ってきたところで、円熟味がましてますね。
 

公家にはなつかぬ坂東武者の末裔を、どう心服させるか — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 12 領地の乱」(二見時代小説文庫)

都の騒乱を鎮め、江戸に帰還し、領地の加増を受けた信平が、その領地を受け取るまでに起きる江戸の事件の解決と、賜った領地での大騒動がこの巻。
 
構成は
 
第一話 あくび大名
第二話 晴天の鳥
第三話 堅物と坂東武者
第四話 領地の乱
 
となっていて、第一話、第二話が、江戸での話。
 
第一話は、八千五百石の大身旗本と市中の娘との恋話。時代小説的にはよくある設定なのだが、恋の邪魔立てをするのが、娘の父親というところが斬新か。
 
第二話は、地方の外様藩の藩士が、参勤交代で帰郷中に、その妻の不義密通する。その相手が旗本の次男坊なのだが、どうもその妻女をだまくらかして、というわけではないので、ちょっと歯切れが悪くなる。最後は、夫婦が情愛をとりもどしました、というめでたしめでたしなのだが、当方としては、夫の態度にどうも釈然としない。
 
第三話、第四話は、信平が新しい家臣を得て、新領地の検分にでかけるが、新領地の領民が、祖先が坂東武者であることと将軍直下の天領であったことに高いプライドを持っていて、なかなか信平に靡こうとしない。
そうこうするうちに、関八州を荒らしまくる、大盗賊団がその領地を狙い、実効支配を始めるが・・・、というのがおおまかな筋。結末は、まあご想像のとおりなのだが、結構ハラハラ、ワクワクさせる出来具合である。
 
さて、さすがに新領民に白い目で見られている中での大盗賊団との闘争は結構歯ごたえがあるのだが、だんだんに、信平の「水戸黄門」ばりの悪人退治も板についてきた。これから「漫遊記」的に、悪人をぷつぷつ潰していく展開になるか、あるいは巨悪がでてくるか、ちょっと気になるところでありますね。
 

久々に江戸に帰っての、信平の活躍はどうだ — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 11 乱れ坊主」(二見時代小説文庫)

京の都で、幕府に叛旗を翻そうとする陰謀を阻止した信平のその後の京、そして江戸帰還後の活躍を描くのが本巻。
 
構成は
 
第一話 林檎の香り
第二話 乱れ坊主
第三話 狙われた友
第四話 死闘!鳳凰の舞
 
となっていて、第一話は京都、第二話以降は江戸が舞台。そして、今回は大事件の解決後とあって、大陰謀はなし。
 
第一話は、佐賀藩京屋敷の書物方の息子の江戸留学を助ける話であるのだが、これに信平の妻・松姫の悪阻の治療が絡む。人助けが信平の江戸帰還の助けになるという、「情けは人の◯◯」の諺を地で行く展開。
 
第二話は、同心・五味のところへ逃げ込んできた、美女・秋にまつわる事件。「乱れ坊主」というのは小石川・長仙寺の親兼という坊主のことなのだが、こいつが二十年前に取り潰された旗本の成れの果てらしく。こういった設定どおり、旗本に対する恨みを持っていて、旗本の妻や娘を毒牙にかける、という「必殺△△人」っぽい設定。
 
第三話は善衛門の弟弟子の旗本・梅村春宗の息子に関連する事件。彼の長男は何者かに襲われ命を落としたのだが、次男・敬之介も襲われる。ために敬之介助は家督を継ぐのを嫌がって・・・という展開。事件の首謀には、春宗を逆恨みする旗本がいるのだが、その旗本の動機の影には息子可愛さの教育パパ・ママの気配がするのが現代的。
 
第四話はひさびさの大活劇。この話の敵役・紫女井左京はかなりの剣の使い手。この男が、とりたてた動機もなく、江戸市中の剣術家相手のとにかく暴れこんでくるのだから、凶暴極まりない。とかく、こうした理由のない暴れ者というのは、理性的につけこむところがないから、手がつけられなくなるのはいつの時代も同じであるようだ。そして、さすがの信平の彼の剣技によって・・・、というところで結末は原書で確認いただきたい。
 
ひさびさの単話仕立てであるが、長編ものと違って、それぞれ違った味わいの仕立てがされている。長いシリーズものの、ちょっとした箸休め、といったところでありますかな。
 

都の騒乱の根っこには江戸幕府の朝廷圧迫の歴史がある — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 10 宮中の華」(二見時代小説文庫)

前巻で、将軍御台所の暗殺の謀みから、実の姉の御台所を救った、信平であったが、その原因となっている都の騒動を鎮めるために、京へ出向くのが今巻。構成は
 
第一話 上洛の道
第二話 大井川の老馬
第三話 陰謀
第四話 やぶれ笠の鬼
第五話 宮中の華
 
となっていて、江戸からの出発から、京都での騒動の元凶と対峙するところまで。お供するのは、善衛門、佐吉、お初まではまだしも、同心の五味も同行することになるので、かなり大部隊での京都入りではあるが、都いり早々に将軍家から「京都所司代  」を命じられるので、まあ多いほどそれらしく物々しくて良い、ということか。
 
肝心の敵役は、前巻で、御台所暗殺未遂に深く関わっていた「藤原伊竹」と後水尾条上皇の隠し娘の「嵯峨」、そして、この女性の虜になってしまった下杉勝幸といった面々。もっとも、このシリーズ、悪役としてとことん懲らしめられるのは最小限にするといった不文律があるようで、最後まで悪役になるのは、前巻から因縁のある「藤原伊竹」のみ。
 
今回の筋は、単純化すると、「宮中の華」といわれ、天皇に愛された母親(沢子)の宮中からの追放後、落ちぶれつつも美しく成長した沢子の娘「嵯峨」の徳川幕府への深い恨みを利用して成り上がろうとする藤原伊竹の野望を松平信平が阻止する話なのだが、その脇に
 
上皇はな、皇族に根を張ろうとする徳川に抗うたのじゃ。徳川家の姫である東福門院とのあいだに生まれた女一宮を、未婚のうちに天皇にした。それが明正天皇じゃ。
(中略)
上皇の反撃に酔って未婚の天皇にされた明正天皇は、古よりの決まりによって結婚を許されず、生涯独り身。女としての幸せを奪われた。これにより、宮中の徳川の地は絶たれることになった。それに対する報復ともいうべきことが、遠く離れた江戸城で起きた。それはな、将軍家光に嫁いだ信平の姉孝子殿が、春日局の仕返しともいうべき仕打ちをされ、大奥から追放され、家光公から遠ざけられたのだ
 
といった、徳川幕府草創期の幕府と朝廷との主導権争いも色濃く影響していて、単純に、伊竹の無謀な野望のみが非難されるべきものではない。
このへんの幕府VS朝廷のところは、井沢元彦氏の「ダビデの星の暗号」あたりでも取り上げているのだが、そのレビューはまた別のところで。
 
さて、今回も首尾よく都の騒乱を鎮めた格好の松平信平なのであるが、この任務の完了とは別に、本当の慶事がある。それは何かは、本書の最後の方で確認あれ。
 

若者武士の伸びやかな話が始まったね — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 狐のちょうちん」(二見時代小説文庫)

時代小説やミステリーのような小説は、設定の奇抜さ、斬新さで目をひくことも大事である気がしていて、独自性のある設定が誕生すると、それだけで数話は走らせても十分楽しめるものであろう。
本書は、徳川家光の正室・鷹司孝子の弟で、公家の婿になったり、坊主になることを嫌った鷹司信平が、江戸へ下り、家光からわずか五十石の石高で旗本に召し抱えられ、当時は草深かった深川に屋敷をもらう、といった設定で、このあたりは、「おや」と思わせ気を引き設定がされていて、おもわず頁をめくろうというもの。
 
収録は
 
第一話 公家武者誕生
第二話 るべうす事件
第三話 約束
第四話 狐のちょうちん
 
となっていて、おおまかにいうと、信平が出仕したところから、奥さんに紀州大納言・徳川頼宣の娘・松をもらうが別居状態。だが、信平は剣術道場の仲間と、同心の五味とともに江戸のあちこちに巣食う悪党退治に乗り出すのであった、といった筋立てである。
 
ざっくりとレビューすると
 
「公家武者誕生」は表題どおり、このシリーズの発端となる話で、信平の東下りの段。ここで、爺や的な立ち位置となる善衛門とお目付けの女中お初とともに深川で貧乏旗本暮らしを始める話。
 
「るべうす事件」の「るべうす」とは「ルビー」のことで、江戸初期にルビーが抜け荷として流通していたかどうかは寡聞にして知らないが、そこは目くじら立てずに宝石の代名詞と考えればよいか。この話で、紀州藩主・徳川頼宣の娘と結婚することになるのだが、頼信のワガママで信平の禄高が千石にならないと姫を渡さぬ、といった羽目になる。もっとも、話の本筋は、徳川直臣が絡んだ抜け荷事件で、信平が意外に剣の手練であるのが明らかになるのは定石どおりといったところか。
 
「約束」は、信平の剣術道場の朋輩の恋愛譚。これに。同じく道場仲間が殺人を請け負っているにでは、といった疑惑が絡んでくる話。
 
「狐のちょうちん」は後日、吉原となる場所で、美しい女が夜毎、男をたぶらかすという噂がでる。ここに、殿様の借金の返済証文を盗まれた田舎武士が出てきて、信平・善衛門主従がその危難を救う話。悪いやつは実は近くに、といったところはよくある話であるが、すいすいと読ませ、最後のすっきりさせるのが、いわゆる典型的な勧善懲悪もののよいところであるな。
 
さて、最近の時代小説には珍しい、「すっきり」「さわやか」といった読後感の時代小説で、こうした感覚は最近見ないので、かえって新鮮である。まあ、時代小説が読みたくなるのは、なんとはない閉塞感にかられている時に、しばし、うさを晴らすように心を遊ばせてみる、といった時であることも多い。そんなときには、こうした「明るい」時代小説がしっくりくる。難しいことはあれこれ言わず、楽しんでみるのも一興でありますな。