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若者武士の伸びやかな話が始まったね — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 狐のちょうちん」(二見時代小説文庫)

時代小説やミステリーのような小説は、設定の奇抜さ、斬新さで目をひくことも大事である気がしていて、独自性のある設定が誕生すると、それだけで数話は走らせても十分楽しめるものであろう。
本書は、徳川家光の正室・鷹司孝子の弟で、公家の婿になったり、坊主になることを嫌った鷹司信平が、江戸へ下り、家光からわずか五十石の石高で旗本に召し抱えられ、当時は草深かった深川に屋敷をもらう、といった設定で、このあたりは、「おや」と思わせ気を引き設定がされていて、おもわず頁をめくろうというもの。
 
収録は
 
第一話 公家武者誕生
第二話 るべうす事件
第三話 約束
第四話 狐のちょうちん
 
となっていて、おおまかにいうと、信平が出仕したところから、奥さんに紀州大納言・徳川頼宣の娘・松をもらうが別居状態。だが、信平は剣術道場の仲間と、同心の五味とともに江戸のあちこちに巣食う悪党退治に乗り出すのであった、といった筋立てである。
 
ざっくりとレビューすると
 
「公家武者誕生」は表題どおり、このシリーズの発端となる話で、信平の東下りの段。ここで、爺や的な立ち位置となる善衛門とお目付けの女中お初とともに深川で貧乏旗本暮らしを始める話。
 
「るべうす事件」の「るべうす」とは「ルビー」のことで、江戸初期にルビーが抜け荷として流通していたかどうかは寡聞にして知らないが、そこは目くじら立てずに宝石の代名詞と考えればよいか。この話で、紀州藩主・徳川頼宣の娘と結婚することになるのだが、頼信のワガママで信平の禄高が千石にならないと姫を渡さぬ、といった羽目になる。もっとも、話の本筋は、徳川直臣が絡んだ抜け荷事件で、信平が意外に剣の手練であるのが明らかになるのは定石どおりといったところか。
 
「約束」は、信平の剣術道場の朋輩の恋愛譚。これに。同じく道場仲間が殺人を請け負っているにでは、といった疑惑が絡んでくる話。
 
「狐のちょうちん」は後日、吉原となる場所で、美しい女が夜毎、男をたぶらかすという噂がでる。ここに、殿様の借金の返済証文を盗まれた田舎武士が出てきて、信平・善衛門主従がその危難を救う話。悪いやつは実は近くに、といったところはよくある話であるが、すいすいと読ませ、最後のすっきりさせるのが、いわゆる典型的な勧善懲悪もののよいところであるな。
 
さて、最近の時代小説には珍しい、「すっきり」「さわやか」といった読後感の時代小説で、こうした感覚は最近見ないので、かえって新鮮である。まあ、時代小説が読みたくなるのは、なんとはない閉塞感にかられている時に、しばし、うさを晴らすように心を遊ばせてみる、といった時であることも多い。そんなときには、こうした「明るい」時代小説がしっくりくる。難しいことはあれこれ言わず、楽しんでみるのも一興でありますな。