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本屋のホームズとワトソン、書店営業と出会う — 大崎 梢「ようこそ授賞式の夕べに」(東京創元社)

成風堂書店シリーズの第3弾。今回は、書店大賞(本屋大賞のもじり、だよね)の受賞をめぐり、怪文書が届き、それをマスコミが嗅ぎつけ、本屋大賞の実施が  というストーリー立て。

本屋大賞当日の7時40分に始まり、20時30分に事件の解決をみる、という実質 13時間ぐらいの話であるので慌ただしいこと極まりないが、テンポよく進行するのと、「邂逅編」とあるように成風堂の杏子、多絵と書店営業のひつじくんたちが事件の解決に向かって、半ば共同作業をするという新味があって、最後までぐいぐいと読ませる。

話の大筋は、書店大賞の実行委員に、今の書店大賞は創設時の趣旨を損なっているといった趣旨のファックスが届くあたりから開始する。

ところが、その差し出しの「飛梅書店」は数年前に店主が急死して店をたたんだ書店で今はない。さて、誰がどんな目的で・・・といったところで、成風堂のメンバーと書店営業のメンバーがそれぞれに捜査を開始し、やがて真実に向かって大集合する、といったところ。

主筋は、誰が何の目的で本屋大賞の妨害をするのか、といったことなのだが、それとは別に、昨今の出版業界の様子であるとか、書店の経営の厳しさなどなど、「本」の業界の裏話的なことが随所にでてくるのが興味深い。

ちょっと楽屋落ちっぽいところがないではないのだが、成風堂シリーズ、書店営業マンシリーズどちらの読者にもおすすめでありますな。

書店業界・出版業界の裏話もまた興味深い — 大崎 梢「背表紙は歌う」(創元推理文庫)

中小出版社の明林書房の営業の「ひつじ」くんこと井辻智紀くんの書店シリーズの第2弾。

収録は

「ビターな挑戦者」

「新刊ナイト」

「背表紙は歌う」

「君と僕の待機会」

「プロモーション・クイズ」

の5編。

さて、ネタバレすれすれのレビューをば。

「ビターな挑戦者」はひつじくんが、大手取次店の横柄な大越こと「デビル大越」に出会うところからスタート。彼は社内外問わず横柄で傲慢で有名なのだが、どういうわけか書店の評判は良いという謎とき。最近の出版不況というか、本離れのご時世で経営の厳しい書店の哀歌が垣間見えるお話

「新刊ナイト」は、新人作家のサイン会にまつわる話。人前に出たがらない作家さんがようやくOKしたサイン会とトークショーなのだが、サイン会の最後の書店で、その作家の高校の同級生という書店員にひつじくんが出会う。ところが、この作家さんの評判の最新作は、高校時代を舞台にした自叙伝っぽくて、しかも、その高校の同級生や教師は性格の最悪なやつらの話ばかり。その書店員はサイン会でぜひ会いたいと言っているのだが、間違うとサイン会・トークショーがドタキャンになる、さて・・、というお話。まあ、大団円ではあるのだが、ひつじくんのお手柄ではないよな

表題作の「背表紙は歌う」は新潟の地方書店(シマダ書店という名になっている)の経営危機をどう救うか、というもの。智紀のジオラマの師匠で、今回彼に相談をもちかける、フリーの書店営業の久保田さんは、この書店の経営者の元配偶者。経営の危機の原因は地方の素封家で文化人の有力者と書店経営者の喧嘩が素らしいのだが、どうやら、前妻の久保田さんのことも関係しているような、していないような、といったところで、今回は、遠隔捜査役として、智記の同業他社の書店営業の真柴氏がよい働きをしてくれる。地方出版と地方文化の関係は切っても切れないのだが、この間にもグローバリズムの盈虚ぷがでてるのかも、と思わせるエピソードが挟まる。

「君と僕の待機会」は東々賞という文学賞にまつわる話。この賞が出来レースだ、という噂が流れ、エントリーされている作者の事態騒ぎまで出そうな風情。これはマズイと、書店営業の面々が謎解きに乗り出す、というもの。

最後の「プロモーション・クイズ」は新刊につけられる、書店員のコメントにまつわる話。コメントにこめられた謎と書中にでてくる「なぞなぞ」との二重の謎解きがでてくるのだが、この話で、別のシリーズでおなじみの成風堂の名探偵が謎解きに参加する。

これは「授賞式の夕べに」の布石でもあるかな。

当方、電子書籍はであるとともに自炊派でもあるので、書店や出版社を含め「本」というものに関連する業界には思う所いろいろあるのだが、まあ、「本」一つの産業であり文化であることは間違いない。そして、産業であるから、様々な内輪話とかトリビアとかがあって、そうしたことも楽しみの一つになるのは間違いない。業界ネタ満載の明るい名ステリーとして楽しめるものでありますな。

出版社営業という馴染み薄い職業の持つ面白さ — 大崎 梢「平台がおまちかね」(創元推理文庫)

ひと頃、書店ないしは書店員の内幕的なことが流行ったことがあったのだが、月日と流行の過ぎるのは早いもので、書店より校閲という地味なのに妙に華やかな女優さんを使ったドラマが人気を博したばかり。

「平台がおまちかね」はそのどちらにも属さない、出版社の「営業マン」という、どうかすると消費者や作家に直に接しない分、書店員より地味なお仕事の周辺で起きるミステリー。もっとも、殺人や強盗、国家や企業転覆の企みなんぞは起きないので。安心して読めるソフト・ミステリーの類ではある。

収録は

平台がおまちかね

マドンナの憂鬱な棚

贈呈式で会いましょう

絵本の神様

ときめきのポップスター

の5編で、主人公である「井辻智紀」が新入社員として入社して、外回りでいろんな人物やいろんな謎に出会いながら成長していく、という物語ではあるのだが、恋愛沙汰はでてこないのでそこは注意のほど。

いくつかレビューすると、冒頭の「平台がおまちかね」は妬心から離れた小さな書店でどういうわけかそこだけのベストセラーが発生。その書店に何度も出向いている中で、全前任者と書店主との壊れてしまった信頼関係を再構築するとともに、主人公のジオラマ作成という、オタクそのものの性向も暴露される。

中ほどの「絵本の神様」は東北地方の書店を舞台にした、叔父叔母夫妻と甥の、最後はほっこりとする物語。単純化すれば、故郷を棄てた芸術家が故郷で再び家族愛の暖かさを再発見するお話

といった具合で、書店を舞台にしているのは間違いないのだが、本や書店を直接ミステリーのネタにしているところでないのが斬新であるし、主人公を含め登場人物が「良い人」のオンパレードであるところが、安心して読めるところである。「イヤミス」や「社会派」はうーむ、かといって「本格モノ」は肩が凝るよね、という向きにオススメである。

なお、この物語の主人公、本好きであることはそうなのだが、のめりこむタイプで、いれこんだミステリーはその舞台をジオラマでつくってしまうというオタクな趣味の持ち主。

いつか、名作ミステリーの間違いを、そのジオラマ作成で気づいてしまう、それがまた事件を生み、なんてな楽屋落ち的なモステリーも読んでみたいものでありますな。

大崎 梢「ねずみ石」(光文社)

「片耳うさぎ」と同じく、数は少ないと思われる、大崎 梢のジュブナイル。

彼女のジュブナイルの良さは、少年少女向けとは銘打っているから、主人公や協力者などは中学生ないしは小学生の少年・少女であるところは押さえておいて、筋立てや謎解きはしっかりと造りこんであるところと、陰惨な事件がでてこないこと。

この「ねずみ石」も謎を解く事件は、四年前におきた母娘殺人事件で、事件の描写自体をみるとかなり猟期的な感じがするのだが、どことなく遠い過去の風合いを出した表現が多く、陰惨さは薄い。

ホームズないしワトソン役は、田舎の中学校に通う「サト」こと土井諭大という少年と「セイ」というクラスメイト。

物語は、二人が村の神社である「神支神社」の祭りに参加する数日間を舞台に展開する。

先輩の「シュウ」が巫女舞の舞い手になったり、小学生までが対象の御神体の大石にあやかった「ねずみ石」を村の大人たちが隠し、子どもたちがそれを捜す祭りの行事とか、片田舎の村の鎮守らしからぬ由緒ありげな祭りのようで、そのエピソードをたどるだけでも面白いのだが、母娘殺人の重要なキーワードが隠れているので、そこは注意して読んでおこう。

そして、四年前の事件の真犯人を捜すため、当時捜査に当っていた刑事が再び聞き込みを始めたり、「シュウ」の兄で、殺された娘と同級生で交際相手であった「繁樹」の逃走と、その友人の「タマ」が殺されるなど、突然、事件に関連する物事が動き始めるところはちょっと設えすぎの感はあるが、まあ、ミステリの常道と許しておこう。

大崎 梢「片耳うさぎ」(光文社)

「配達あかずきん」など本屋の成風堂を舞台にした書店ミステリーで人気を博した著者のジュブナイルっぽい作品。とはいっても、つくりはしっかりしているので、そのあたりは大人のミステリーファンもご安心あれ。

発端は、父親の事業がうまくいかなくなって、父親の実家(地元の名家で旧家であるらしい)に居候している、小学生の奈都が、週末までの数日間一人で、その家で暮らさないといけなくなったところから始まる。父親の実家だから、なんてことはないだろっていうのは庶民の浅はかさというもので、なんとも格式高くて過ごしにくいことこの上ない家であるらしい。そこで暗い顔をしていたら、クラスメートの祐太の「ねえちゃん」のさゆりが一緒に泊まってくれることになった、という設定。

その数日間で起こる事件というのは、ジュブナイルっぽい仕立てのせいか、殺人とかいった荒事はない。なのだが、旧家らしく隠し扉や階段の発見や屋根裏の探索から始まり、奈都のおじいさんの手紙やら、屋根裏に出没する謎の人物の出現やおばさんの出生の秘密や、この家の数代前に起こった毒殺事件の真相とかが絡み合うのと、奈都がこの家の人々に馴染んでいないせいか、誰が味方やら誰が何を企むつもりなのか、先が見えない状況を作り出しているのがこのミステリーの妙で、凄惨な事件はない割に不気味さを醸し出している。

でまあ、奈都とさゆりが共に過ごすのも4日間という短い期間の間に、旧家を揺るがした謎が解かれ、屋根裏の不審人物も、おばさんの秘密も明らかになるので、お手軽と言えばお手軽ではあるのだが、とてもリズミよく読ませるので、そのあたりは了としておこう。

ついでに最後の「エピローグ」のところで、さゆりの正体も明らかになるのだが、少々出来過ぎ感があるよな、と少しばかり腐しておく。なにはともあれ、大団円が用意されている、安心して読めるミステリーであります。